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※お詫び

2018年3月11日(日)更新分の第30話におきまして、掲載内容に誤りがございました。

深くお詫び申し上げます。

内容を修正し、再掲させていただきました。


 ラングロンさんが俺の畑にやってくる。

 ノアからその報せを聞いた俺は、一層に気合いをいれて畑仕事に臨んでいた。

 俺を会社の平社員に例えるなら、ラングロンさんはその会社を治める社長のようなものだ。

 そんな彼に俺の畑を見にくると言われて、恐々としないわけがない。

「そんなに気張る必要はないと思うよ?」

「いやいや、俺にとっては目上の人ですし、緊張しないわけがないですよ」

 畑終わりの夕食後にエリックさんに相談してみたら、ある意味で予想通りの答えが返ってきた。

 そりゃあ長い付き合いらしいエリックさんからしてみればそうかもしれないが、俺にとってラングロンさんはエリックさんと同じく目上の人だ。

 粗相なんてできるはずがない。

「そういうものかねぇ」

「そういうものです」

 神妙に言う俺に、頷くエリックさん。

「というより、ラングロンさんはどうして俺の畑なんて見にくるんでしょうね」

「そりゃあ、彼も君の作っているアメヤサイに興味があるからさ」

「あー、やっぱりですか?」

「彼は君が思うよりずっと子供っぽい性格をしているよ。アメヤサイは数百年誰もが口にしたことのない伝説の作物。それが作られているというなら、好奇心旺盛な彼が興味を引かれないわけがあるまいて」

 見た目は四十代ほどのダンディーな人だけど、子供っぽい一面も持っているのか。

「ノアちゃんがあそこまで活発な性格をしているのだって、父親譲りだよ」

 え、そうなの。

 子は親に似るという言葉があるが、まさかその通りだとは思わなかった。

「失礼かもしれませんが、俺の想像していた貴族って感じじゃないですよね」

「それはラングロン君にとってはむしろ褒め言葉だろう。実際に見て、聞いて、触れて、見聞を広める。おおよそ貴族らしくないやり方で成長して、破天荒に育ってしまった果てに、今のラングロン君が出来上がったからね」

「型破りですね、それは」

 見て、聞いて、触れて、か。

 なんというか、すごい人だな。

 どう賞賛していいか言葉が見つからない。

「世の中の貴族全員がラングロン君みたいだったら、大変なことになっているだろうね。いや、本当に、貴族が率先して農業やっちゃうような世界になっちゃうから……」

「それはそれで面白そうな世界ではありますが、農家の立場がなくなってしまいそうですね」

「ははは、確かに」

 エリックさんと笑みを交わす。

 俺もノアが農作業を手伝いはじめてくれた時は、自分よりも農業についての知識も手際に詳しいことに、恐々としていたな。

 今となっては、頼もしい限りだ。

 ……そういえば、エリックさんとラングロンさんは昔からの知り合いのように見えたけど、実際のところはどうなのだろうか?

 あそこまで仲がいいので、長年の付き合いなのは分かるが。

 なんともなしに、エリックさんにそう訊いてみると、彼は昔を懐かしむように笑みを浮かべた。

「始まりは、そうだね。王国にいた頃、私が若き天才魔導師としてブイブイ言わせていた時に、魔法の教えを請いにやってきた若者達の中に彼がいたことが始まりだね」

 ブイブイ、だとか微妙に古い表現にはツッコまない。

「最初は先生と生徒だったんですか」

「ああ。最初は驚いたよ。普通の子に混ざって、貴族の彼が混ざっているなんて思わなかったから」

「なぜです?」

「貴族にとっては魔法はあくまで見世物にすぎないからさ。重要なのは社交性とか、作法などといった体面に関係するものだから、魔法に関しては専属の教師なりに簡単に教えを請うだけなんだ」

 だとしたら、自らの足でエリックさんの元に魔法の教えを請いにきたラングロンさんは珍しい貴族ってことになるのか。

「私は彼になぜわざわざここに来たのか、と理由を尋ねた。そしたら、なんて返ってきたと思う?」

「えーと、興味があるから、とかですか?」

「『こんな面白いものを中途半端で終わらせたくない。だから教えろ』と言ったんだよ。おかしな貴族もいたもんだと思った。そしてすぐに投げ出すとも思った」

「だけど、違ったんですね?」

「ああ、彼は驚くほど自分の欲に忠実で、それでいって真摯に私の教えに取り組んでくれた」

 教える立場であったエリックさんからすれば、嬉しいだろうなぁ。

 実際、ラングロンさんとの過去を語る彼の表情は穏やかだ。

「それで彼を気に入ってしまった私は、彼がラングロン家の正式な当主になるまで、助手として色々と連れ回して……その繋がりも長く続いて今に至るってわけさ」

「長年の友って感じですか?」

「彼の前ではそんなこと絶対に言わないけど、そうだね。その通りだ」

 顔を合わせれば互いを罵り合うイメージしかなかったが、喧嘩するほど仲が良いって言葉が当て嵌まる二人だな、エリックさんとラングロンさんは。

 でも、少しだけラングロンさんに対しての緊張が和らいだ。

「俺もできるだけ気張らずに彼と話すように努めたいと思います」

「その方がいい。彼にとっては変に畏まられるよりも、ある程度自然体のほうがいい」

 まだ、ラングロンさんがいつ来るかは分からないが、今の俺にできることは真面目に、堅実にアメキャベツを育てることだけだ。

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