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「と、いうことは私が空回りしちゃったみたいね」

 俺の話を聞いたノアは、リオンに抱えられたフウロを横目で見て、大きな溜息を吐いた後に、手に持ったボウガンを背中に戻した。

「もう、そういうことは早く説明しなさいよね」

「君が聞く耳持たなかっただけじゃないか……」

「あー、心配して損しちゃった」

 うーん、と背伸びをしたノアは、リオンの方へ向き直ると、抱えられているフウロの顔を覗き込んだ。

「アメオオカミねぇ。結構可愛いじゃない」

「抱いてみる?」

「いいの? じゃ、お言葉に甘えて」

 リオンからフウロを受け取ったノアは、興味津々な面持ちだ。

 ここら辺では犬が見かけないというので、彼女にとっても目新しいのだろう。

 フウロも相変わらずぬいぐるみのようにされるがままにされている。

「こんな子がサニーラビットを追い払ってくれるのねぇ。見た目よりもずっと勇気があるじゃない」

「わふ」

「働き者だよ。俺の前に姿を現す前から、ここを守ってくれていたんだ」

「へぇ」

 アメオオカミはアメヤサイを守る魔物。

 こいつも本能で覚えているのか、畑で育ちつつあるアメキャベツに害をなそうとするサニーラビットを追い払ってくれる。

「さてと、俺は草刈りに戻るぞ」

「手伝うわ。鎌はもう一つある?」

 フウロを地面に下ろしたノアの言葉に、相変わらずだな、と苦笑しながら裏手を指さす。

「裏手に予備がある。持ってこようか?」

「そのくらい自分で持ってこられるわよ」

 そう言って家の裏手の方へ向かっていくノア。

 その間にフウロに雨雲を与えていると、リオンが畑のアメキャベツをジッと見つめていることに気付く。

「なにか虫とかついてたか?」

「ううん。大きくなったなって思って」

 リオンの言葉に改めて雨が降り注いでいる畑を見渡すと、最初の頃は土の色で大部分を占めていたここも、気付けばアメキャベツの綺麗な緑色に染まりつつあった。

「まるで、大きなお花みたい」

「見方によれば、花に見えなくもないな」

 まだまだ大きくなるが、キャベツとして丸くなる前の状態は、花のように見える。

「もう少し大きくなって結球してくれたら、収穫時だな」

「……けっきゅう?」

 首を傾げるリオンに微笑んだ俺は、彼女に結球について説明する。

「今、葉っぱが沢山広がっているだろ?」

「うん」

「今はまだ少し小さいけど、これが成長したら葉っぱが内側からどんどん丸くなっていく。ある程度葉っぱが層を重ねていって、球の形にまとまっていくことを結球と言うんだ」

「へぇ」

 感嘆としたリオンは、改めて葉を広げているアメキャベツに視線を向ける。

 俺としても、改めて考えると野菜のメカニズムは本当に凄いと思う。

 キャベツの結球もそうだけど、匂いで虫を追い払うハーブだとか、手近なものに蔓を伸ばして支えにするキュウリだとか。

「……美味しくできてるかな?」

「ははは、それはまだ分からないな。だけど、食べるなら美味しいキャベツがいいな、俺は」

 ここまで育ててきても、収穫するまで育て切れたるどうか分からない。

 しかし、やっぱり食うなら不味いもんより美味いもんだ。

「きっとできるよ。ハルマ、頑張ってるもん」

「俺なんてまだまだだと思うけどなぁ」

 手順は分かっていても全て手探りの作業だ。

 今この時でさえ、自分が正しく育てられているか半信半疑な自分がいる。

 だけど、もしうまくできたのなら、俺を最初に助けてくれたリオンとエリックさんに、このアメキャベツを送りたい。

 その時は――、

「料理は君に任せるよ。俺は作るのはてんで駄目だからな」

「ハルマは、どんな風に料理して欲しい?」

「俺か? そうだなぁ……野菜炒めとか、ロールキャベツとか好きだなぁ」

 ああいう料理はたまに食べるから美味しいイメージがある。

 一人暮らしになってから長らく食べてなくて、味もほぼ忘れかけてはいるが、美味いという記憶だけは残っている。

 ロールキャベツを想像して一人にやけていると、こちらを見上げたリオンが首を傾げた。

「ロールキャベツってなに? キャベツを回転させて食べるの?」

 キャベツを回転させる料理ってなんだ。

 脳裏に手裏剣の如く回転するキャベツの葉を想像してしまうが、すぐにそれをかき消す。

「そうか、ここは異世界だから知らないのか。ロールキャベツってのはな――」

 挽肉をキャベツで巻いて、スープで煮込んだ料理と、かなり簡単にロールキャベツについて説明する。

 こくこくと頷いたリオンは目を輝かせながら、声色を高くする。

「それなら私にもできそう」

「え、本当か? 結構難しそうな料理だと思うんだが」

「できる」

「お、おう」

 恐るべしは、隠れ食いしん坊の執念というやつか。

 本当に作れそうなリオンに圧倒されていると、家の裏手からノアが鎌を片手に戻ってきた。

「さ、やりましょ」

「ああ。リオン、フウロのこと見ておいてくれ」

「分かった」

 袖を捲った彼女に頷き、畑周りの草刈りを始める。

 さすがに一人より二人の方が早いなぁと思いながら黙々と草を刈っていると、少し離れた場所で作業をしているノアが何かを思いだしたようにこちらを振り向いた。

「あ、そうだ。ハルマ」

「ん? どうした」

「近いうち、お父さんがここに来るって」

「ふーん」

 ……ん?

 んん? さらっと返事してしまったが、ノアのお父さんってラングロンさんじゃないか?

 ここら一帯を治めているラングロン家の当主。

 そんな彼が、俺の畑にやってくるだって!?

 数秒ほどの思考停止の末、バッと立ち上がった俺は訝しげにこちらを見上げたノアに構わず驚愕の声を上げるのだった。

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