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畑を襲う侵略者(?)サニーラビットとの邂逅から六日。
その六日間は、熾烈といってもいいほど激しく厳しい戦いの連続であった。
昼にしか活動しない魔物、サニーラビット。
それは、人に害を与えられない弱い魔物だが、頭が良く動きが素早い。しかも狡猾かつ油断をしない、とても厄介な相手だ。
そんな手強い存在との六日間の奮闘は、俺にとってまさしく死闘であった。
一日目。
細心の注意を払って作業をしている間に、先日と同じ奇襲を仕掛けてきたサニーラビットに対しだまし討ちをしかけた俺だが、見事に看破されていたようで、また地面へ転ばされ土の味を知る羽目になってしまった。
もっと賢い方法で対処しようと、心の中で誓った。
二日目。
ノアの協力の下、罠を張ることとなった。
ノアが手作りで作った罠は、餌でサニーラビットを釣り、わっかを作った紐に入った瞬間を狙って捕獲するという古典的なもの。
普通ならあからさまな罠すぎてバレると思っていたが、ノアはあえて分かりやすい罠を置いた上で、そのすぐ隣に本命の罠を隠すという二段構えの作戦を用いた。
そんな稚拙な罠にかかるか! というサニーラビットの知恵を利用した巧妙な作戦に、俺は勝ちを確信していた。
しかし、サニーラビットを率いるリーダーは俺達よりも上手だった。
奴は、自身の仲間に餌を取りに行かせ、一歩後ろで様子を窺うという方法で罠を確かめにきたのだ。
二段構えの罠に嵌まり、縄で捕獲されかけた仲間を横合いから助けた個体は、初日のように俺達を嘲笑うと、そのまま林の中へ消えていった。
ノアと俺の怒りゲージが、また一段階上がってしまった。
三日目。
待ちの姿勢で駄目ならば、あえて攻勢に出た。
奴らの姿を見た瞬間には、小規模の雨雲からスプリンクラーのように雨をまき散らせて、追い払う。
しかし、すぐに濡れるだけで害がないと分かるや否や、俺に向かって舐め腐ったような鳴き声を漏らした後に、林の中へ消えていってしまった。
頭のよすぎるこいつらに俺の頭が痛い。
四日目。
意識するから駄目なんだ。
常に柵に囲われた畑の中で作業をしていれば、アメキャベツを食われる心配はないと気付き、サニーラビット達を無視することにした。
どんなに畑の近くにきても、無視。
どんなに煽ってきても無視。
畑に入ろうとするときだけ、畑内に豪雨を降らせ追い払う。
名付けて押して駄目なら引いてみろ(?)作戦により優位を保つことに成功した俺は、内心でほくそ笑みながら、サニーラビットの活動限界である夕暮れ時まで、ずっと畑に居座り続けた。
四日目にしてようやく、これまでの意趣返しに成功した俺であった。
五日目。
昨日と同じ、サニーラビットのガン無視を決めこみこちらのペースを掴もうとしたが、奴らは同じ手が通じるような生半可な相手ではなかった。
なんと、俺の降らせる豪雨を防ぐが為に、大きな葉を服のように身につけて畑に突撃をかましてきたのだ。
お前ら、そこまでする賢さがあるなら他に生かせよ! と叫んでしまった俺は悪くない。
あまりの奇抜な奇襲に面を食らった俺は、アメキャベツを食われる前に慌ててウサギを追い払おうとするが、奴らはアメキャベツを無視し、俺の足に猛烈な体当たりを仕掛けてきやがった。
案の定、俺はドロドロの畑に転ばされどろんこまみれになってしまった。
幸い畑の間に落ちたので、アメキャベツには殆ど影響はなかったが――問題はその後、俺を転ばせたサニーラビットが、嬉しそうに一鳴きしやがった。
普通にウサギ相手にマジギレしそうになったが、なんとか冷静さを保つ。
どうやら、サニーラビットは本格的に俺の心を折り、追い出そうと考えているようだ。
六日目。
この日は、少し変なことが起こった。
俺はサニーラビットを追い払うために動き、サニーラビットは俺を追い出すために動く。
ある意味で、対照的な行動方針のもとで動いていた俺達のやり取りは、至極単純に消耗戦であった。
正直、お互いの手を知り尽くしている感じすらあったが、それでも俺は絶対に引かなかった。
奴が襲撃し、俺が撃退をする。
しかしそのやり取りにも限界が訪れ、ついに俺は一瞬の隙をつかれサニーラビットに転ばされてしまった。
しかもその場所は、足下が特段ぬかるんだ場所。
まずいと悟ったときには、既にサニーラビットは俺の育てたアメキャベツの葉に齧り付こうとする寸前であった。
咄嗟に叫んだが、奴らはそれに反応しない。
このまま喰われてしまうのか、と諦めかけたその瞬間、何かの雄叫びのようなものが林の中から響いた。
その声に驚いたのか、即座にアメキャベツから離れたサニーラビット達は慌てたように雄叫びが聞こえた方向と別方向に逃げてしまった。
この時は、一体なにが起きたのか全く分からなかった。
というより、今も分かっていない。
何かが叫び、それを恐れたサニーラビットが逃げた。
とりあえず急死に一生を得た俺は、上機嫌にアメキャベツの世話を再開させたのは言うまでまでもなかった。




