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 今日は畑に雨を降らせて、ノアと一緒にローブを買いに行って、また畑に雨を降らせて一日が終わった。

 昨日の今日で変わったのは、やはり雨を降らせる作業に対しての負担が大分減ったことだ。

 常に俺と繋がっている状態で機能していた雨雲にある程度の命令を与え、独立して動くようにすることで、必要な時に俺が雨雲を操作・調節を可能にした。

 これで、雨雲に意識を割くことなく、アメキャベツの生長と土の状態に集中できる。

「良いローブだ」

「ええ、仕立屋の主人に薦められまして」

 畑仕事から帰宅した俺はエリックさんの書斎に足を運び、彼に昼間に買ったローブを見せていた。

 リオンにも見せようかなと思ったが、彼女はまだ帰ってきていないらしく、家にはいなかった。多分、夕食の山菜とかを採りにいっているのだろう。

「これほどのものなら魔法の付与もしやすい。夕食前には終わるかな。早速、作業を始めよう」

 そう呟くやいなや、膝にローブを乗せたエリックさんは、掌に薄い緑色の魔力を浮かべ、それをローブに吹き込むように流し込みはじめた。

「なにをしているんですか?」

「布地に風の魔法を編み込んでいるんだ。こうすると、ただの布地でしかなかったローブが目に見えない薄い空気の膜を張るようになる」

「空気の膜……えと、それじゃあ、水を弾くようになるということですか?」

「ああ。他にも羽根のように軽くなるし、ローブの中に風が通るようになって、暑さに苦しむこともなくなるよ」

「ええ!?」

 つまり、風の魔法が付与されたこれを着れば、雨も弾くわ、羽根のように軽いわ、クールビズ仕様で暑くならないわの、素敵仕様で畑仕事に望めるってことか!?

 やっぱり魔法ってとんでもないな、おい!!

 いや、冷静になって考えてみると、ほぼ片手間でこんな多機能ローブを作れるエリックさんが凄いのか。

 はー、そりゃあ魔法使いが喉から手が出るほど欲しがるわけだ。

「まあ欠点といえば、あくまで魔法を編み込んでいるだけだから、魔力の方は着用者の君が補わなければいけないところと、戦闘ではあまり役には立たないということだね」

「俺にとってはそれだけでもありがたいですよ」

 魔力の方は、有り余っているので問題なし。

 戦闘については、戦う予定なんてないし、戦うつもりもないからオッケー。

「というより、まともに喧嘩もしたことのない俺がいきなり戦えと言われても、無理な話ですよ」

「ははは、確かにそうだね。まあ、万が一だけど魔物に襲われたら、ということもあるから、一概にありえないとは言えないよ」

 あー、魔物の存在か。

 今の今まで遭遇したことないから考えもつかなかったな。

「その時は、集中豪雨で視界を狭めて身動きを取れなくしてから全力で逃げます。まあ、雨雲を囮にして逃げるって考えもありますね」

 攻勢に出るなら相手の頭を雨雲で包んでしまうのもいい。

 むしろ、周囲を雨雲で包んでしまうのもアリだ。

「は、はは、襲う魔物からしたら、たまったものじゃないだろうね」

「直接攻撃できない分、嫌がらせに特化してますから……」

 我儘を言うなら、もっと使いやすい魔法が良かった。

 ま、今の自分の魔法を受け入れてつつある今では、変える気はないんだけど。

 エリックさんと他愛のない雑談を交わしていると、玄関の扉が開き誰かが入ってくる音が聞こえた。

「リオンが帰ってきたかな?」

「どうやら、そのようですね」

 そろそろ話を切り上げて、夕食の手伝いでもするか。

 エリックさんに断りをいれてから、部屋を後にしようとする――が、それよりも早くやや息を切らしたリオンが、部屋の扉を開け放った。

「うお!? ど、どうした。そんな急いで……」

「ん、ごめん」

「どうしたんだい、リオン?」

 エリックさんが、部屋に入ってきた彼女にそう訊く。

 よく見れば、急いで部屋に入ってきたリオンの腕の中には布で包まれた何かがあった。

「森で山菜を拾っていたら、これを見つけたの」

「ん? どれ……」

 魔法を付与していたローブをテーブルに置き、リオンから包みを受け取るエリックさん。

 気になった俺は、エリックさんに近づいてそれを横から覗き込むと、そこには――、

「卵の、殻?」

 ダチョウの卵ほどもある大きさの卵の殻の破片があった。

 しかし、それの欠片の外面は新しい卵というよりも、石のようにゴツゴツとしていて、まるで化石のような見た目をしていた。

「リオン、これはどこで見つけた?」

「ハルマが倒れていたところの近く。土の壁が崩れたところで割れてそこにあった」

「……生き物の卵は専門外だが、これは少なく見積もっても百年以上前のものだ。だが、その内面は驚くほどに新しい」

 興味深そうに卵の殻を観察するエリックさん。

「リオン、しばらく森の中に入るのはやめたほうがいい。もしも、この卵から孵った生物が危険なものなら、万が一ということもありえるからね」

「分かった。村の人達にも伝える?」

「ああ。私もラングロン君から注意を促すように伝えておく」

 正体不明の生物の卵。

 しかも、卵の大きさからして結構な大きさに成長するかもしれない。

 魔物という存在に慣れていない俺からしたら、得体の知れない恐怖がある。

「この殻は王国にいる知り合いに見てもらおう」

「すぐに分かりますか?」

「これの正体を知っているなら……それほど時間はかからないだろう。連絡手段も、空間を繋げてのものだからな」

 空間を繋げて……って確か、遠隔の人と連絡を取り合う魔法だっけか?

 空間を行き来することはできないが、相手の様子も声も分かるというのだから、携帯もインターネットもないことを考えれば、凄い魔法だ。

 でも、今はそれに驚いている場合じゃないか。

「もし、危険な生物だったら……?」

 恐る恐るエリックさんに尋ねると、彼は神妙そうに頷き瞳を伏せた。

「その時は、王国から討伐隊を送ってもらう他に方法はない。ここには、戦える者は少ないからね」

 新しいことであふれる新たな世界。

 しかし、そこは楽しく明るいものばかりではなく、危険なものも存在していると、この時自覚せずにはいられなかった。

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