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14【閑話】似た者同士

「ラングロン君。君は知っていたな?」

 ハルマ君が帰った後、ラングロン邸に残っていた私は目の前の男、ケイ・ラングロンにそんなことを言い放った。

 眩いばかりの金髪が特徴的な彼は、笑みをかみ殺した。

「何のことだ?」

「ノアちゃんのことだ。ああ言っていたけど、彼女は私達がここに入ってからずっと彼を……監視していただろう?」

 そう、あの場に現れたときは今帰ったと言っていたノアちゃんは、実は最初からこの屋敷にいた。

 そして、私の後ろをついてきていたハルマ君を注意深く監視していた。

「まあ、知っていたな。お前ならおおよその理由は分かるだろう?」

「……ああ」

「あの子は、良くも悪くもここを大事に思っている……というより、領主の俺よりも領民に慕われている節があるからな。そんなあの子が、領民を不安にさせている者を放っておくはずがない」

「嬉しそうに言うことではないけどね」

「俺の娘のことだぞ。嬉しくないわけがないだろう」

 ハルマ君の存在は、村の人々にとっては不気味の一言に尽きるだろう。

 不安がっている村人のことを知ったノアちゃんは、屋敷に噂の張本人であるハルマ君が来ることを知って、彼のことを見極めようとしていた。

「俺達の会話を聞いて、領民の抱いていた恐怖が全て間違いだってことを知った。あの子も実際に話してみて分かったはずだ。彼は、村に害をもたらすような人間ではない、と」

「その割には見張る、だとか言っていたけどね」

「本当に見張るってわけじゃないだろうよ。あくまでそれは建前で、あの子の本心は領民に、彼のことを知ってもらおうとしての行動だ。分かっているくせにいちいち説明させるな、このクソジジィ」

「君はなんでそう一言多いんだろうね……!」

 確かに分かっていたけどさ。

 ノアちゃんは、目の前の傲慢貴族よりも村人に慕われている。

 そんな彼女がハルマ君の傍にいれば、村人も彼を危険な人間ではないと認識する。

 彼女の存在は、ハルマ君にとって間違いなく良い方向に繋がるはずだ。

「本当に良い子に育ったねノアちゃんは……ラングロン君に似ずに育ってくれてよかった」

「はっはっは、それを言うならリオンもそうだろう? お前みたいなジジィに似ずに育って、俺も嬉しいぞ」

「「……」」

「旦那様、エリック様、ド突き合いなら外でお願いしてもよろしいでしょうか?」

 無言でお互いの胸ぐらを掴み、拳を掲げた私達を執事が無表情でたしなめてくる。

 さすがに外で殴り合いをするのは気が引けるので、大人しく手を放し再び椅子に座る。

 落ち着くために、手元の水を飲む。

 暫しの沈黙のあと、額に手を当てたラングロン君がやや低い声を出した。

「天候魔法とは本当に難儀な魔法だな。エリック」

「……天候魔法でも、別のものなら話は別だったんだけどね」

 雷、雹、雪の天候魔法だったならば、まだ救いがあった。

 これだけなら、まだ攻撃性が高いだけで済んだからだ。

「天候魔法は、実際はそれほど強くはない魔法だ。天候を操ると言えば聞こえはいいが、実際は小規模の天候しか操れない。酷な言い方だが、同系統の純粋な魔法使いの下位互換といってもいい」

 ハルマ君の雨の天候魔法も、普通ならば純粋な水の魔法使いの下位互換といってもいい。

 しかし、彼が持つ膨大な魔力によって、雨の天候魔法は人為的な厄災を引き起こしかねない危険なものに変わってしまった。

「彼は、魔法の才にあふれている……が、目覚めた魔法があまりにも間違いすぎていた」

 雨を降らせ、環境すらも容易く変えてしまう危険な力。

 かつてこの地が、雨の大地と呼ばれていたことを知る者ならば、彼の魔法を一目見ただけで恐怖を抱く。

 この地を再び雨の大地に戻すべく遣わされた、災厄の魔法使い。

 住処を奪おうとする、余所者。

 信じるに値しない荒唐無稽な噂さえ飛び交うほどに、彼の扱う魔法は異質すぎた。

 それに加えて彼は――、

「元の世界で、彼はきっと大変な人生を歩んできたはずだ。魔法の扱い方を知らなかった彼は、感情の昂ぶりとともに雨を降らせてしまう。それはつまり、感情を抑制する以外に雨を降らせない方法はないということだ」

 きっと、私にも想像できないくらいに辛い人生だったのだろう。

 笑っているときも、怒っているときも、悲しいときも、彼の周りでは雨が降り続けた。

 それでも前向きに生きてこられたのは彼の精神の強さと生来のさがが影響しているのだろう。

「今までの人生は苦労だらけの連続だった。だが、彼にとっての“これから”は、まだ分からないだろう?」

 不敵な笑みを浮かべたラングロン君がそんなことを言ってくる。

 いつもの私なら「君のように見通しのない楽観的な考えは持たない」と辛辣に答えるだろうが、今の言葉には私も同意しよう。

「見守ろうじゃないか。この世界にやってきた一人の男が、新たな人生を見つけ、どのような成長を遂げていくか」

「……ああ」

 私達にできるのは、道を指し示すことだけ。

 後は、彼がどのようにその道を進んでいくかで決まっていく。

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