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10 【閑話】雨男と出会った日。

 いつも通りの変わらない日常。

 生い茂る自然の中で、村の外にある森の中で山菜を採っていた私の前に、その男は前触れもなく現れた。

 そして、その男の出現と同時に強い雨が降り注ぐ。

 慌ててフードを被った私は、目の前に現れた男を見やる。

 二十代か、三十代ほどの年だろうか。

 男は、ここらへんでは見慣れない服装をしていた。

 結構な勢いで地面に倒れたせいか土で酷く汚れてしまっていたが、黒を基調にした綺麗な作りの服だ。

 もしかしたら身分の高い人かもしれないが、逆に危険な人物かもしれない。どう見ても男はここらに住んでいる人間ではない。

 今のうちに村の人に助けを求めに行くか。

 それともおじいちゃんを呼んでくるべきか。

 どうするべきか逡巡していると、倒れている男が虚ろな目で私を見上げた。

『く、ぁ……』

 助けを求めているのは、一目で分かった。

 そして、悲しい目をしていることも。

 私は、先ほどまで考えていたことを忘れ、彼の傍らにまで近づき伸ばされた手を握りしめた。

 すると、先程まで痛いほどに感じられた雨が弱まったような気がした。


「――オン、リオン!」

「……、なに? おじいちゃん」

 少しボーッとしていたみたい。

 台所で食器を洗っていた私は、出しっ放しだった水を止めて、おじいちゃんのいるリビングに向かう。

「リオン、どこか気分でも悪いのか?」

「大丈夫。ボーッとしていただけだよ」

「本当か? いきなり倒れでもしたら、ショックで私も倒れちゃうぞ」

「それはさすがに迷惑」

 おじいちゃんは相変わらず過保護だ。

 私のことを心配してくれるのは分かるから別に嫌ではないのだけど、時々度が過ぎているので普通に困る。

「ハルマは?」

「彼は明日に備えて寝てしまったよ」

「そう……」

 彼の作業を見ているけど、とても大変そうだ。

 彼は村の人達のように農作業になれていない。

 何をするにしてもぎこちないし、効率も悪い。

 だけど、それでも彼は息を切らし汗を流しながら、必死に作業をしている。

「頑張っているよ。ハルマは」

「……そうか。それは、いいことだね。うん」

 嬉しそうに頷くおじいちゃん。

 私は、そんな反応を返すおじいちゃんに静かに質問する。

「まだ、ハルマのことを疑っているの?」

「私が疑わなくては、もしもの時に誰も動けないからね」

「……ハルマは、悪い人じゃないよ?」

 彼は、ちょっと変なことを言うときがあるけど、いい人だ。

 しょうがないのは分かっているけど、なんだかハルマを騙しているみたいで嫌だ。

「それは分かっているさ。でも、今は誰かが彼に気をつけておかないと駄目なんだ。『天候魔法』という魔法は、それほどまでに人に与える影響が強すぎる」

 おじいちゃんも初めてみるという、雨の天候魔法。

 それは、自然に大きな影響を与えてしまうほどに、危険で大きな魔法。

 私の風の魔法も扱いを間違えれば、人を傷つけてしまう危険なものだけど、彼の魔法は周囲に与える被害の規模が違う。

 おじいちゃんは、そんな魔法を持つハルマを警戒している。

 そこに悪意がないのは私だって分かっている。

 でも、私はいつも頑張っているハルマが自分の魔法を悪用するなんて思えない。

「だからリオン。こんな人間不審なジジィの代わりに、彼を信じてあげるんだ。彼はまだ自分の生き方を固めていない。天候魔法の間違った使い方をしないように、君が助けてあげてくれ」

「……ん、分かった」

 おじいちゃんの言葉に頷く。

「あ、でも色恋沙汰とかは駄目だからね。年の差もあるけど、やっぱりリオンにはそういうのはまだ早いからね」

「……はぁ」

 おじいちゃんは優しいけど、時々溜息をはいてしまうくらいに煩わしいときがある。

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