望郷
あの日とあのときの
断片、切れ端が
路地裏の隅
商店街の脇に
積み重なって
崩れかけて
営みの化石
色あせた看板
人のいない
商店街
昨日のことのようだ
と
幻がおぼろげに
笑う
空っぽの生家
かび臭い部屋は
昼でも暗かった
蛇口から水が
音なく落ちて
テレビは
あの頃のまま
台所から
母の鼻歌が
聴こえては消え
はしゃぐ声は
あの頃の私
泣き声も
戻りたい
やり直したい
やさしい
あの頃を今
夢見ていた
夢は引いて
消えて
誰もいなくなった
街に
駐車場が住み着いて
いた