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まさかミケ猫 習作短編・中編

冒険者のランクの表現が「~カップ」だった

ようこそ冒険者ギルドへ。

本日はどのようなご用件でしょうか。


ギルドへのご登録ですね。

承知いたしました。

失礼ですが、他ギルド含めご登録は初めてでしょうか。


では神殿での身分保証書をご提示ください。


――ありがとうございます、お調べいたしますので少々お待ちください。




お待たせいたしました。

商人ギルドでのご登録が既にお済みのようですが、兼業登録とさせていただいても……


えぇ、とくに専業、兼業の区別で待遇に変わりはありません。

日常で意識いただく場面は少ないかと。

ただ、国の定める税の徴収につきまして計算方法が変わりますので、当方の区別の都合上呼び分けている次第です。


……いえいえ、初めての方はご存じのない場合がほとんどです。

質問は全く迷惑ではありませんよ。

ご安心ください。


他に何か気になる点は……?


そうですか、それでは私は登録の準備をして参りますね。

こちらの用紙に必要事項をご記入の上、少々お待ちください。




お待たせいたしました、書類を拝見します。

えー……はい、大体大丈夫そうですが、この丸をつけた3つの項目だけ記載が漏れているのと、二枚目の捺印をお願いします。

いえいえ、とんでもない、お気になさらず。



……ありがとうございます。

では、ただいまから処理して参ります。

お時間すみませんが四半刻(30分)程度かかりますので、その間にこちらの冊子をお読みください。


一冊が冒険者ギルドの歴史や仕組みを簡単に紹介するもの。

もう一冊は細かい規則の詳細が書かれたものでございます。

冊子はお持ち帰り頂けるので、詳細の方は後程時間のあるときに目を通して頂ければ良いかと。


では少々失礼したします。






……大変お待たせいたしました。


こちらが登録証と各種書類です。

登録証は肌身離さずお持ちくださいね。


おや、お茶が空ですね。

気が利かずすみません、ただいまお持ちします。


……どうぞ。



では改めまして。



Fカップ冒険者としてのご登録ありがとうございます。



――キャッ、お茶を吹き出されてどうされました。

変なところに入った、ですか? 大丈夫しょうか?

お拭きしますので、少々お待ちを。



落ち着きましたか。

続けさせていただいても?

えぇ、こちらこそ色々と至らずすみません。


改めまして、Fカップ冒険者としてのご登録ありがとうございます。

活動いただく上での注意事項などをお伝えしますので、必要であればメモなどをお取りください。



まず、これは冊子にもあったかと思いますが。

冒険者のランクはFカップ~Aカップの6段階になります。


一般には「ランク」と言った方が通りが良いのでしたね。

カップ、という呼び方はある意味業界用語です。


少し脱線しますが、冒険者ギルドの前身組織を作ったのが、かの有名な異世界勇者「サカズキ」氏。

この「サカズキ」というのが異世界語で「酒を飲む器」という意味のようでして。

そこから冒険者としての器の大きさを「カップ」と呼ぶことになったようです。


最高位のAカップは本当に稀少な存在ですから、みなの憧れの的ですね。



……Sですか?

Sカップは名誉階級と言いますか、別枠になっております。

公然の秘密と言いますか、例えば実績の薄い王太子への箔付けのためであったり、国民を元気付けるため、話題性で目をそらすため、といった様々な目的で国がギルドに対価を支払って得るものです。

あ、ここだけの話ですよ、フフフ。



え?

GカップやHカップはないのか、ですか。

そうですね、マイナーな歴史ではありますが、南方の国では犯罪者をGカップとみなして強制労働を義務付ける運用がされたことはあります。


当時は憲兵などが

「ほれほれ、Gカップにしてやるぞ」

などと女性に乱暴を働く事件などもあったそうですね。

嘆かわしい限りです。


半年ほどで国自体が無くなりましたし、ギルド本部の警告もあって、その後同様のケースはないようです。



さて、あなたは今Fカップですが、カップを上げる条件が二つあります。一つは実績をためること、もう一つは試験に合格することですね。

両方を満たすと晴れて次のカップに進みます。


標準的には、未経験で業界入りした方がEカップになるには一年ほどかかると言われています。

個人差はありますし、指定の推薦状があれば――兵士上がりで特に優秀な方などですが、みなしEカップとして活動することができます。


Dカップくらいが、安定して生活できるラインですかね。

ここまで、何か質問は?



……えっ? 私ですか。

よく元冒険者だと分かりましたね。

こう見えて、元Cカップ冒険者です。

今はせいぜいDカップ程度の実力でしょうか。


当時組んでいたパーティでは庶務を引き受けていたので、職員の覚えも良かったのでしょう。

ギルド側からお誘いいただいて職員になりました。


Eカップくらいかと思った?

フフ、人は見かけによらないものですよ。

それより、どうして私の胸を凝視しているのですか。




パーティについての注意事項です。

明確に規則にあるわけではないのですが、パーティを組む相手は一つ上~一つ下のカップ差――Dカップの人であれば、Cカップ~Eカップの相手が妥当です。


友人や家族であっても、カップ差の大きなパーティはギルドとしてはあまりお奨めしていません。

報酬の分配でもめたり、雑用を押し付けられたりといったトラブルがやはり多いものですから。


想像していただけると分かると思います。



……例えばBカップの4人組に後から一人だけFカップが混ざると……



そうですよね、人間関係とは難しいものです。


そうでなくてもトラブルは付き物です。

基本的に、少しでも何かあったら職員に相談する、というのは覚えておいてください。

ギルドの決まりとして、カップで扱いに差をつけることはしませんので。


「貴賤なし」、ですか?

いえ、さすがに貴族様とのトラブルはカバーしきれないケースもありますよ。

お気をつけくださいね。



他に何かご質問はありますか……?




あ、ちょうど今入ってきた赤髪の女性がいますよね。

彼女がこの王都で今もっとも強いと言われる方ですよ。


……そう、Aカップ冒険者「絶壁」のペパチャイさんです。

カップや異名は知らなくても、名前は皆さんご存知ですよね。


去年の闘技祭、Aカップのみが出場できる超越者部門で優勝した、まさにAカップの中のAカップ。

彼女以外のAカップなどBカップと変わらない、彼女こそがAカップの定義だとギルドマスターに言わしめた、圧倒的な実力のAカップ冒険者なんですよ。


The Aカップ、とは彼女のことだと私は思ってます。



……え? 彼女に恨み?

滅相もない、彼女は私の恩人ですし、いい人ですよ。

私も一時パーティを組んでいたことがあり、色々なことを教わりました。


目付きはキツく見えますが、実は結構おちゃめですし。


カップアップのお祝いをしてたら「Aカップって言わないで~」となぜか胸部を押さえながら泣いて逃げるんです。

フフフ、照れ屋さんですよね。


自分以下のカップを馬鹿にする冒険者の横で、

「私だって昔Fカップだったことがあるのよ」

と得意気な顔で胸を張ったりして。

態度は謎ですが、なんだかみんな毒気を抜かれてしまって。


そうそう、吟遊詩人がその場面を歌っていたら、真っ赤な顔で土下座して「忘れてください」ですって、フフフ。

本当、褒められるのが苦手みたいです。



まぁ実際、Aカップまで行くのは「努力した天才が運に恵まれた場合」という域ですので、本当に稀少な存在だと思っていただいて良いでしょう。



……すみません、雑談が多くなりましたね。


ご登録ありがとうございました。


受付はわたくし、ギルド職員のオッキーネが担当させていただきました。

また何かあればお気軽にどうぞ。


これからどうぞよろしくお願いしますね。

これで今日からあなたもFカップ冒険者です。

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[良い点] ミケ猫さん、天才ですかあなたは。
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