嵐(物理)の前の――
しばらくしてカレーが完成。
キャンプファイヤーめいた火を囲みつつ、食す。
ログハウスの前には木製のテーブルや椅子もあるけど、地面に輪を描くように座って食べている。地面と言っても草の上だから汚れないし、この方が雰囲気でるしね。
もちろん、肉は猪。
不安だったけど、旨い。なんか悔しい。
「ヒャッハー! この肉うめえ!」
「メスの猪は旨いぞ。オスもまあ食えん事は無い」
たぶん、私には一生使う事のない知識だ。
「……おいしい」
顔を綻ばせる奈菜。
「あ、笑った」
「え?」
「今日初めて笑ったね」
さっきの乾いた笑いはカウントしない。
「あ、そ、そうかも……」
奈菜もだいぶ二人に慣れてきたかな。
こいつらこう見えて意外と人畜無害……猪は除く。
そうやって談笑していると――
「……!」
コングの目つきが険しくなった。
「どうしたの?」
「そのまま。話を続けろ」
しばらく目を細め、
「気のせいか……」
と呟いた。
「誰かいた?」
「ああ、林の向こうに人影を見たような気がしたが……今は居ないな」
「ひっ……!」
それを聞いて怯える奈菜。
「心配いらん。何かしてくるなら生まれてきた事を後悔させてやるだけだ」
「ひいっ!」
「アホかっ!」
ハリセンでコングの頭をひっぱたく。
「……痛いぞ」
「怖がらせてどうすんのよ!」
「ふむ……?」
「何が? みたいな顔すんじゃないわよ」
ハリセンをもう一発。
「……ゆーちゃん、凄い……」
呆然と奈菜が見てくる。
「え?」
私、なんかヘン? そんなはずは……
「ヒャッハー! 誰か来てるんなら、隠れようぜえ! 俺らがいちゃ、釣れるもんも釣れねえ!」
テンション以外は、ほんとマトモなんだよね飛龍……。
全くその通り。
コングと飛龍は家の裏に去っていく。
ちゃんと監視してるという事なので、あまりログハウスから離れないようにしつつ、花を探してみたり、山菜を取ったりした。ワラビやぜんまい、タラノメなんかが取れたので、後で天ぷらとかおひたしにするつもり。
そのうち、日も暮れ始めてきた。
「今日は、もう来ないかな?」
奈菜の声に、来ない方が嬉しい、そんな色があった。
「そうだね……でも、そうもいかなそう」