大丈夫。大丈夫
距離的には市内からそう離れていない事もあって、キャンプ場へは割とすぐに到着した。
杉の木々がうっそうと生い茂る山中。シイタケのコマ打ちがされたクヌギの丸太が、道路脇の山中にぽつぽつ並べられている。
杉だらけで花粉症の人には大変だけど、原生林もあってカブトムシやクワガタも取れるし、近くの川では水遊びも出来るので、地元民にはお馴染みの場所だ。
キャンプは2泊3日。ログハウスを利用する。
ログハウスは、コングの家の持ち物だ。コングが丸太切って自分で建てたらしい。
キャンプ地の地主らしいけど、お金あるのに自分で建てるのは、単に体を動かしたかっただけなんだろう。
あまり深く考えちゃいけない。筋肉の考えることは常人にはわからないのだ。
車が通れるよう切り開かれた山道の脇に、そのログハウスはあった。
話に聞いていたより、大きい。
二階建てで、一階部分は半分ほどくりぬかれた形になっていて、大きな杉の柱が二本、二階部分を支えていた。くりぬかれた部分は、よくある駐車場のように見える。
と言っても、車なんてどこにでも置けるくらい土地はあるので、わざわざ入れるのが面倒なその駐車スペースではなく、ログハウスの前に駐車した。
じゃあ何で作ったんだ。いや、単にそういうの作ってみたかっただけなんだろうけど。
キャンプ地はもう少し奥に行ったあたりなので、近くに他のキャンプ客はいなかった。
実際のキャンプ地よりは、杉の木が周りに多く、管理人の山小屋のようなイメージ。
家の前にはいくつか手作りのテーブルや椅子が置かれ、そこでご飯を食べたりするのは不自由しなさそうだ。昼は外でもいいかな。
「部屋割りどうしよっか?」
モヒカンコングコンビに聞いてみる。
「二階を使うといいだろう。一階に俺たちがいれば、心配はない」
「ヒャッハー! 護衛だあ!」
まぁ一理ある。
「じゃあ、先上がろっか」
奈菜は完全におびえてしまっている。
温室育ちというほどでもないけど、あまり異性に免疫なく暮らして来たこのコに、この男の原液を更に煮つめたような存在は、なかなかキツイんだろう。
というか、ストーカーに悩まされてる彼女に、この人選は失敗だったかも……。
私も、だいぶ感覚がマヒしてるらしい。
まぁ、でもアイツらはああ見えていい奴らだし、奈菜もそのうち慣れるでしょ。たぶん。
二階には三部屋あった。
一つは大きく、例の駐車スペースの真上で、大きめの窓ガラスが前面に貼られた、いわば展望台のような部屋。夜は星とか見れそうで、なかなかいい感じ。
泊るには適さないように思ったので、空いている二部屋のうち、片方を使う事にした。
私としても、全部が全部アイツらに丸投げしようとは思わない。
二部屋に分かれるんじゃなく、一部屋に二人で泊まることにした。
私もボディガードのつもり。
そうして部屋に荷物を置いたんだけど、不意に手持無沙汰になった。
部屋は、木材を組んだシンプルな作りで、窓とカーテン、それから木製の簡易なベッドとテーブルがあるだけ。
二人で今からUNOというのもアレだし、どうしようかなと考えていると、おずおずと奈菜が話しかけて来た。
「あ、あの……」
「ん?」
「あ、あの人たちとは一体……どんな関係……なの?」
そういえば、奈菜は車内でも震えて全然喋ってなかった。
二人のいないここで改めて質問って事か。
「あの二人は、幼馴染ね。二人の噂はだいたい知ってるでしょ?」
「う、うん……」
こくりと頷く。
あんな風貌の二人を、同じ学校に居て全く知らないって事はありえない。
そんな人が居たなら、無関心な現代社会なんてレベルじゃない。
ウォーリーに丸をつけられた絵本で、ウォーリーを見つけられないくらいあり得ない事だ。
「それの一〇倍酷いと思って」
「えっ」
「でも大丈夫」
「ちょっ……ちょっと待って。今大丈夫な要素あった?」
「大丈夫。大丈夫」
「ぐ、具体的なものがなくて余計こわい……」