ヒャッハー! キャンプだあ!
数日後、夏休み。
私たちは、車でキャンプ地へ向かっていた。
山奥の白黒市とはいえ、どこでもキャンプできるわけじゃない。
車で四十分くらい行った先に、水の綺麗な人気のキャンプ地があるので、そこを目指していた。
車内の空気は、重い。
そりゃそうよね。
後部座席の、私と奈菜はいい。
でも、運転してるのは、筋肉モリモリでこんな軽自動車に座ってる姿自体、ギャグとしか思えない男――コングで、助手席には車の天井に当たって90度直角に折れ曲がったモヒカンをした飛龍。
洋画だとしてもあり得ない絵面だった。
可哀そうに、奈菜は震えて私の袖をつかんでる。
「大丈夫、大丈夫だから」
まさか、ボディガードが学校でも有名なこの二人だとは夢にも思わなかったに違いない。
私も、あんまりこの二人の話はしないし、そういえば幼馴染って事も言ってなかった。
別に隠してるわけじゃないけど、日常会話で出てこないようなエピソードしかないからなー。あまりにも現実離れした話ばっかで。
でも仕方ない。これしか手は無い。
題して、『ストーカーを釣り出してぶっ飛ばす作戦』。
敢えて人気のないキャンプ地に行く事で、ストーカーをおびき出す。
そのために、ここ数日、わざわざ人前でキャンプの話をしたり、旅行計画のメモをごみに混ぜて出していた。
エサには食いついたらしく、メモを入れたゴミ袋が漁られている形跡があって、メモもなくなってた。
あとは、コングと飛龍にぶっとばしてもらえば万事解決。
この二人がいれば、危険はない。
もうあいつら、常人の域超えてるし。
残念ながら幼馴染の私は、あいつらの超行動をいくつも見てきている。
少なくとも、悪い奴らじゃない。
とんでもなくバカで、行動力が半端じゃないけど。
例えば、コングは四月一日が誕生日だったんだけど、高三になって即、自動車免許を取ったくらい。
車を出してもらえるのは助かるけどね。
「ヒャッハー! キャンプだあ!」
飛龍は大喜びではしゃいでいる。
普段は学生服にモヒカンっていう、異次元の服装で、今日は袖なし皮ジャンに皮パンという世紀末仕様。あの肩パッドみたいなの、どこで売ってるんだろ……。
これで、成績は学年トップというのが信じられない。
飛龍は、学年どころか全国模試でも上位二〇人に入る、リアルなラインで頭がいいヤツ。
何しろ「ヒャッハー! 勉強だあ!」が口癖なのだ。
モヒカンでヒャッハー言ってなきゃ、秀才か天才で通りそうなのに……。
その髪型は学校でも黙認されていて、生徒指導の先生は髪を染めたりパーマを当てた生徒を見つけると、「お前ら! 個性とか言いたかったらなあ! 桧山くらいのレベルでやって初めて個性なんだよ!」と言っていて、もうなんかヒイキとは全く別の領域にいる。
この恰好で勉学全くおろそかにしてないもんなあ……。
「ヒャッハー! 楽しみだぜえ!」
「うるさい」
後ろからハリセンで頭をひっぱたく。
この二人といる時、ハリセンは必需品だ。明らかに奈菜は引いてたけど。
「ヒャッハー! 自重だあ!」
わかってんだかわかってないんだか。
でも、頭脳は明晰だし、とても頼りになる。
一方、コングは寡黙だ。
気が優しくて力持ち……というのとも少し違う。
確かに優しい。正義感も強い。
確かに力持ち。
だけど、力がありすぎるのだ。
力がありすぎてそれを前提とした行動を取るのだ。
簡単に言うと、脳筋なのだ。とんでもなく。
ドアが開かなかったら、ドアを引きちぎるし――ちなみに自分で直す。直すなら壊さなきゃいいのに――電車が一時間後だったら三時間かけて走って帰る。釣りをしてて釣れなかったら飛び込んで手づかみする。
解決法が全部筋肉式だ。
しかも、電話帳を軽々引き裂いたり、一〇円玉を二枚重ねで折り曲げたり、フライパンを丸めたりと怪力無双。昔話に出てくる弁慶とかそういう誇張されたイメージそのままみたいなヤツ。
とにかく、この二人がいれば、大体の事は解決できる。
その代わり、後始末が凄く大変だったりもするけど、毒をもって毒を制す。
――まぁ、今回は、毒なんてレベルじゃなかったんだけど。