トラブルメーカー
その後は、まぁ大変だった。
もちろん警察に連絡し、テロリストを引き渡したんだけど……。
まぁ、まさか高校生が銃で武装したテロリスト四人を一方的にブチのめしたなんてそうそう信じてもらえるはずもなく。
というか、駆け付けた県警にはコングと飛龍はテロリストと間違えられる始末。
奈菜と二人して事情を説明して、やっと解放された。
数時間前にストーカーを突き出したモヒカンとマッチョではあったので、それを知る白黒署の署員が応援に駆け付けていたから、そちらからも援護射撃を頼もうとしたんだけど……。
僅か数時間後に今度はテロリストを無力化した、なんて信じられる人がそうそういるわけもなく、それはそれで説明が大変だった……。
後にわかったのだけど、実は三人がログハウスに戻る際、山道の入り口あたりで飛龍がログハウスのドアが破壊されている事に気づいたんだそうだ。どんな目の良さだ。
それで、その時点で奈菜を降ろし、飛龍もいざという時のために別行動を取って、コングだけ車で先に向かったらしい。
だから車からコングしか出てこなかったのか。
壊れたドアは女子高生程度の力で壊れるような作りではないらしく、それで不審に思って……という話だった。
たったそれだけの事で危険を察知できるなんて、本当に高校生かと疑いたくなるけど、同じく十五年以上過ごしてきたから、残念ながらそれが事実なのは知っている。
今日の現場検証も終わり、取り調べへの協力は明日行うという事なので、とりあえず今日はコングの車で帰る事になった。
今は、その車内。もう夜になってまばらな外灯に照らされる山道を、すいすい市内へ向かって進んでいく。
ちなみに車のバンパーは歪み、ハンドルにはエアバッグを引きちぎった跡がある。そりゃ、柱にぶつかればね……。
「ヒャッハー……ZZZ……」
あの飛龍も疲れたらしく、助手席で眠っている。
後部座席には、もちろん私と奈菜。
私もうとうとして来たところに、奈菜がひそひそと耳打ちをしてきた。
「ねぇねぇゆーちゃん」
「……なぁに?」
「ゆーちゃんって、どっちが好きなの?」
「ハァ!?」
夢心地も一瞬で吹っ飛ぶ破壊力。
好き? 好きって何が?
どっち? ドッジボールじゃないわよねとかおやじギャグ以下のどうでもいい思考がぐるぐる回る。
「い、いや、どっちとかそういうんじゃ……」
「まだ絞り切れてないって事? 行動力あって素敵だもんね二人とも」
……。
奈菜は一体何を言ってるんだろう。
行動力、確かにある。
ありすぎるくらいある。
でも、素敵な要素はどこか一か所にでもあっただろうか。
「……でもそれじゃあ、私とゆーちゃんはライバルって事だね」
奈菜は、にぱっ、と効果音が出そうなくらい満面の笑みを見せた。
「は、はぁ……」
私は激しい頭痛で、生返事を返すのが精いっぱいだった。
「でね、これからせっかく夏休みじゃない」
いつもの物静かさはどこへやら、うきうきしているのが表情からはっきり伝わってくるくらい、奈菜は眼を輝かせて言う。
アカン……このコ何かに目覚めてる。
「う、うん……そうだね」
嫌な予感が、する。
「今度さ、みんなで海に行かない?」
「海?」
「うん、前に友達と行ったんだけど、すごくいい無人島があるの」
「むじん……とう」
激しく嫌な予感しかしない。
このトラブル体質のメンバーで、無人島に行くなんて金田一耕助と同じ館に泊まるレベルのフラグでしかない。
「あ、わ、私は遠慮……」
「近藤さんも桧山くんもいいですよね?」
「OK!」
「ん……ヒャッハー! 大歓迎だぜえ!」
いつの間に打ち解けた。おい。
というか飛龍は寝てただろ。絶対適当に答えただろ今! 何で寝起きでギアをいきなりMAXまで上げられるんだよ!
――ともあれ。
コングと飛龍との腐れ縁はこれからもずっと続くのだろう。
トラブルは、山ほど……あるに違いない。
まぁ、それはそれで楽しめればいいかな、と思った。