序
モヒカンとマッチョと暴力ヒロイン
「ヒャッハー! 右だあ!」
「OK! ほああっ!」
「う、うわあああああ!」
あ、人って飛べるんだ。
ハンマー投げのようにブン投げられた人間が、宙を舞っている。
ところで、私の名前は、石動柚子。
花も恥じらう高校二年の女子。
ちょっと背は低めで、天パなのが癪だけど、まぁホントごく普通の女子高生。
わざわざごく普通と言ったのにはわけがあって……。
端的に言うと、幼馴染にまるで普通じゃない奴がいる。
それも二人。
一人は、ラグビーで最強のオールブラックスくらいでしか見たことのない、首と顔の太さが同じで手足が丸太のような巨漢。
近藤真一という名だけど、コングというアダ名でしか呼ばれない高校三年生。
もう一人は、鏡面のようにつるりと磨き上げられた頭に、垂直に反り立つ一列の毛――いわゆるモヒカン頭の男。
桧山飛龍。高校一年生。
念のため、繰り返しとく。
高校一年生。
濃い。
ホント、濃い。
私の住んでる、九州はO県白黒市は山奥の田舎だから、こいつらみたいなの、すごく目立つ。
家が隣同士……というかウチを挟んで両側がこいつらという、この世がオセロのルールで運営されていない事を神に感謝したくなるレベルの幼馴染。
年齢は一つずつ離れているけど、そんな事は気にしない仲だった。
というか、二人といると、そんな細かい事どうでもよくなる。
今も、ちょうど商店街を歩いていた時に、万引き犯が本屋の店員さんに追いかけられているのを見かけた二人が飛びだし、結果として花壇に新たな犬神家が誕生したところ。人間が逆さまに地面から生えてる。
うん、悪い事はするもんじゃないわね。
とりあえず、こんなのは日常茶飯事。
はぁ……。