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初クエスト!

 忘れてはいけない。利益のあるものには危険がつきものだと。

 ~世界の記憶 第2027章 第10節 24項~











「おっはよー!!」


 宿屋の個室の扉を景気良く開けて入ってきた、朝から騒がしいこの少女、昨日体を創ってやった精霊、ウル。言葉づかいが若干変わったのは気にしない。しかし、昨日クエスト行きたいとか言ってカードを作って帰ってきたのが日も落ちて、真っ暗な時間だったというのに元気なことだ。ちゃんと寝たのか?


「お、おはようございます!」


 続いて部屋に入ってきたのは、アーネ。この町の冒険者、そして町の案内役…らしい。昨日帰ってきたのが遅かったのは、夜にやっていた屋台で食べ歩きをしていたせいである。言い出したのはもちろん彼女。しかし、この町のでの案内は正直助かったので、あまりきつく言うことはできない。


「ああ、おはよう。」


 そして俺、現在は色々あって異世界で少女の外見だが、中身は高校生、いや、おっさんと言っても良いかもしれない。しかし、この中で一番力があるのは俺…だとおもう。昨日やった儀式のような物の反動はないようだ。体もスムーズに動く。


「これでよし、っと」

「………」

「どうしました?」

「あ、いえ見てるとやっぱりかわいい人だなって…」


 会ったときからそうだが、アーネさんは俺を見ると必ず顔を赤くする。あと感想が、綺麗から可愛いに変わったぞ、おい。


「ねーねー。今日はクエストに行くんでしょ?」

「ああ、楽しみかな?」

「うん!」


 昨日までは性別の捉えにくい話し方をしていたのに、無邪気な言葉で話すこの妖精。白々しい。


「さて、じゃあ早速ギルドに…」

「その前にご飯食べましょうよ、ご飯!」

「向こうで頼めばいいじゃないか。」

「それもそうですね。じゃあ向こうについてからにしましょう!」

「そうするか。」

「私ねースープ食べたーい!」

「ウルの分は払ってもいいけどアーネさんは自腹でお願いしますよ?」

「分かってますって!」


それにしてもアーネさんは食欲旺盛だな。屋台だけで銀貨1枚使うのは彼女だけらしい。でもまぁ飯を残されるのと比べたらマシだけどね。






 朝食を終えてクエストボードを見に行く。付き添いであれば自分のランクより高いものも受けられるらしいが、やはり制限はあるそうだ。

 ランクを上げるには一定の数をこなし、そのうえで昇級試験に合格しないといけないらしい。


「ちなみに、昇級試験にも色々あるんですよ。モンスター討伐、道具の正しい使い方、調合、動物の肉の調理、毒抜きとか。他にもあるんですが、これ以外のものは上級じゃないとまず出ないですね。」


 というのはアーネさんの体験談。しかし、ランク分けも結構厳しく、中級を過ぎると「-ランク」から「無印ランク」に上がるのにも試験がいるらしい。非常に面倒だ。


「でも、ランク上がると報酬も上がって生活も楽なんですよ。欠点としては臨時召集がかけられることとかですかね。」


 臨時召集がかかるのはC-ランクからだからあまり気にしなくてもいいとも言っていた。そんなすぐにランクが上がるなんてまずないからな…多分。


「今日はどのランクのクエストに行くの?」

「そうだな、やっぱり一番低いのから行くのが妥当じゃないかな。」

「そうですね。野営とかにも慣れないといけませんし、遠征時の食料調達も覚えないといけませんから。」

「遠いところでもおいしいもの食べたいもんね!」

「はい!おいしいものは正義ですから!」


 いつの間にかここまで話が合うようになっているとは…侮れないな。


「しかし野営となると色々必要になってきませんか?」

「ええ。テント、寝袋、最低限の調理器具、毒抜き用の道具、魔法が使えない人は火が出る魔法具か、火打石を持っていかないとだめですね。」

「その辺の道具は冒険者地区で手に入るのかな?」

「大丈夫ですよ、余程のことがない限りは品切れにもなりませんし、休業だってしないはずです。」

「じゃあ安心だな。早速買いに行こうか。」

「でも、買ったとしてどうやって持ち運ぶんですか?」

「そこはやっぱり、魔法を有効活用しないと。」

「一体何の魔法が得意なんですか?キシナミさんは。」

「色々使えるよ、必要だと思ったものは全部魔導書を読んである程度使えるようにしたからね。魔法倉庫(インベントリ)とか。」

「…空間魔法使えるのなんて10年に一人いるかいないかくらいですよ。」

「えっ」


 やばい、墓穴を掘ってしまった。またアーネさんの疑心暗鬼レベルが上昇してしまう。そしてウルはなんかこっち見てニヤニヤしてるし。


「あ、アーネさん。」

「何ですか?」

「そのジト目はやめてもらえますか?」

「…」

「いるにはいるんでしょう?空間魔法使える人。問題ないと思いますよ?」

「大ありです。空間魔法使えるのに、何をしたかは見ていないですけど、レッサーデーモンを粉々にして、大金持ってて、七属性の魔法使って、そのうえ可愛いんですから!」


 待て、最後のはおかしい。まさか、アーネさんは百合なのか?いや、可愛いのはとんでもなく好きな女子高生みたいな人なのか?いや、そんなことはどうでもいい。


「複数の魔法使える人っていないんですか?」

「いるにはいますが、使えてせいぜい二属性、まれに四属性の人もいますが、何かしら関係していないとあり得ないですよ。」

「例えば?」

「両親がその属性の魔法を使っているとか、体内に虹色魔力の発動体があるとか…」

「虹色魔力?」

「さっきまで言ってた七属性のことです。」


 虹色とは違う色が混ざっているような気がするが放っておこう。


「空間魔法は無属性なので、その魔力を使って七属性魔法を使うことはできないんですよ。それなのに貴方は使っている。これは何処からどう見ても大問題です。」

「出来るものは仕方ないじゃないですか。これも才能の一つですよ、きっと。」

「う~…まあいいです。そのうち絶対に話していただきますからね!」

「わかりましたよ。」


 とはいっても俺はちゃんと無属性なんですけどね。


「ねーねー、こんなクエストどう?」

「勝手に選んで来たのか。」

「だって話長いんだもん。」

「すみません、私ったらつい熱くなってしまって…」

「構いませんよ。それよりそのクエストの内容の確認が先かな。」

「えっとね、Fランクの薬草採ってくるクエストだって。」

「具体的な数は書いてないんですか?」

「薬草一束で銅貨10枚だって。」

「結構良い報酬ですね。じゃあ準備していきましょうよ。」

「薬草はこの近辺に生えてるんですか?」

「はい。この町から南西に行った先の草原に生えてますよ。」

「そうなんですか。自分で勝手に取って使うのはだめなんですか?」

「だめってわけではないですけど、道具屋とか雑貨店とか店に不利益が出ないようにしないといけないんですよ。」

「ちゃんと考えられているんですね。じゃあ私は必需品を買ってくるから、アーネさんと少し待っててくれるかな。」

「うん!」






「さて、アーネさん、このぐらいあれば大丈夫かな。」

「十分です。そういえばキシナミさんは武器持たないんですか?」

「あー…すっかり忘れてました。でも何とかなりますよ。武器はまた今度にしましょう。」

「キシナミさんがそういうなら大丈夫なんでしょうけど…」

「早くいこー?」

「分かった分かった、そこまで引っ張らなくても良いじゃないか。」


 そういって俺の服を引っ張るウルを肩車してやる。このまま行ってしまおう。キャッキャと喜ぶウルだが、あの時話した言葉づかいのことを考えるとどうしても違和感がある。そのうち慣れるだろうか。

 それにしても、冒険者地区から町の外に出る門まで結構距離があるな。みんないつもこれだけの距離を歩いて移動しているのか、時間がもったいない気がする。これもやはり慣れるしかないか。


「キシナミさん。」

「何ですか?」

「キシナミさんは薬草の見分け方とか分かります?」

「いえ、分かりませんけど…」

「そうですか、そうなんですか~」


 なんかアーネさんが含み笑いとともにうんうんと頷いている。そして控えめな胸を張って、


「じゃあこの私が教えてあげましょう!」

「…どうしたんですか?」

「フフフ~、だって後輩に分からないことを教えられるなんて先輩になったって感じがするじゃないですか~。」

「そういえば、私から、いや、私とウルから見たら先輩になりますね。」

「もっと言ってくれてもいいんですよ?」

「それよりも見分け方、とは?」

「薬草は雑草と比べて葉がやわらかく、先端が丸まっているんですよ。」

「他に見分ける方法はないんですか?」

「そうですねー。齧ったときにさわやかな味がするくらいですかね。」

「そ、そうですか…。」


 それって只のミントなんじゃなかろうか…。


「おっともう門の前まで来ていたのか。」


 人と話していると時間の経過が早い。先に通った人を見るかぎり、町から出るときも身分証を見せないといけないようだ。この町ではほとんどいないそうだが盗みを働いたまま町を出ようとする輩がいるらしい。何かしらの犯罪をした人の身分証には普通の人には見れない、特殊な印が浮き出るらしい。何もしてない俺には関係ないけどね。


「えっと、南西の方角は…」

「この町は東西南北の地区に分かれているんですよ。お忘れですか?」

「そうだったね。ありがとう。」

「じゃあ、こっちだねー。」

「勝手に行っちゃだめですよー!」

「ハハハハ、子供は元気でいいな。」

「キシナミさんだってまだ子供でしょう?」

「おっと、そうだったね。知識を詰め込んでるとつい考え方が…」

「それよりも早く追いかけましょうよ。」

「そうだね。急ごうか。」


 どこまでこの短時間で走って行ったのか、これは俺に匹敵するステータスの持ち主かもしれないな、ウルは。






 途中で草原に大の字で寝転がってるウルを拾って目的の場所、アーネさんが言っていた薬草の生えている場所に来た…はずなんだが。


「薬草、いや、草一つ生えてませんね…。」


 この前、少し見たとき時にあった森もなくなっている。それどころか地面はひび割れ、とても植物が育つような地では無くなってしまっているようだ。


「…あり得ない。」

「え?」

「こんなこと、普通じゃあり得ません!だって、此処は一年中色々な草花が生えていることでも有名な場所なのに!ここに広がってた森だって、豊富な果物が取れたりもしたのに!」

「キシナミ、少し良いかな。」


 ウルがこの前と同じ口調で話しかけてきた。やはり演技だったのか。


「いいけど、どうかしたの?」


 だが俺はあくまで人前ではこの口調を崩さないと決めているのでこのまま話をする。

 アーネさんは気を落として周りのことも見えていないような感じだ。アーネさんには悪いが、ほっといてウルと話を進める。


「明らかにこの周辺の生態系とかけ離れた生物がいる。」

「なんだって?」

「毒を持っているか、周りの動植物から栄養や生気を奪い取っているんだろうね。」

「そのせいでこのあたりに植物がないということでいいのかな?」

「その考えでいいだろう。薬草を採ってくるにしては報酬が高かったから怪しいと思ってこのクエストを選んだんだけど…」

「なるほど、単純に選んできたわけでは無かったのか。」

「君の魔法なら元に戻せる、いや、報酬をもらうだけなら創ってしまったほうが早いね。」

「私がこういうことをほったらかして、自分のことだけを優先すると思っているのかな、君は。」

「そうか、解決してくれるのか。元、木の妖精として感謝するよ。」

「自分のことだけを優先していては神の名が廃るからね。神らしいことも少しはしないと。」

「ありがとう。」

「で、解決するのに早い方法だけど、一回ここの過去を覗いて、どの方向から荒れ地が広がり始めたのか調べないといけないね。」

「そんなことできるの?」

「できるできないではなく、最初はやる、やらないの二択だと私は考えているんだけど。」

「そうだね、君らしいよ。」

「それじゃ、早速…」


 そう言って魔法陣を展開を始める…

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