進化の秘宝
ここより成長は始まった。いつ止まるのか誰にも分からない成長が。
~世界の記憶 第2023章 第10節 23項より~
体が、熱い。今自分がどんな状態か確認する。
体が、痛い。倒れているようだ。
体が、熱い。周りの確認をする。
頭が、動かない。二人ほど、近くにいるようだ。
体が、熱い。此処はどこだっただろう。
頭が、痛い。今日の事が思い出せない。
体が、痛い。何故、こんなところにいるのだろう。
何も、聞こえない。目の前には、必死に叫ぶ、少女がいる。
体が、重い。何をしていただろう。
寒い。体から熱は抜けないが、寒い。
足が、麻痺している。視界が、ぼやける。
体が、動かない。感覚は無くなっていく。
眠い。思考は遮られてゆく。
眠い。意識が、薄れて、いく。
体が、融けるかのような、感覚。自分は、何者だった、だろう。
眠い。
眠い。
眠い。
眠い。
視界は、白に染まった。
「キシナミさん!キシナミさん!」
「おい!早くこいつを運べ!絶対安静だ!」
礼を渡すように、と頼まれた兵士、エレックは自ら渡した進化の秘宝でこのような状態なった人を見たことがなかった。今、目の前に倒れている銀髪の子供は昨日、強力な魔物を倒してくれたのだ。
「どういうことですか!エレックさん!」
「分からない!俺だって進化の秘宝を使用したことはあるが、こんなことにはならなかった!」
「でも、今キシナミさんは倒れているじゃないですか!」
クソッ、一体どうなっている!?なぜ使用と同時に倒れた?適正みたいなものでもあるのか?しかし、これは異常だ。進化の秘宝を使ったこの少女はさっきからピクリとも動いていない。まだ体が温かい、いや異常なほどに熱いな。だが、まだ生きていることは確かだ。早く何とかしなければ。
「おい!お前が今どんな状態か調べてるから、絶対あきらめんじゃないぞ!!」
少なくとも今は何が起きるか分からない。できる限りのことをして安全を確保しておくべきだ。
…ここは、どこだろう。
何をしていたっけ。思い出そうとすると、頭が痛い。普通の場所ではなさそうだ。
一面真っ白で何もないように見える。自分以外に誰かがいる、ということもなさそうだ。
意識を手放した時と同じように倒れているようだ。
「…ようこそ。キシナミ…だったかな君の名前。」
「ッ!?」
いきなり声が聞こえてきた。口を開いてみたものの声は出ない。
「すまない、君は今、自分がどんな状態か、分かるかな?」
…正直に言うと、分からない。何をしていたのか、何故ここにいるのかも。
「進化の秘宝。」
…そうか、そういえば進化の秘宝というものを使ったら急に体が熱くなって…
「そう。君の体は、いや精神も。急な成長に耐えられず、とても危険な状態なんだ。」
そうだったのか。しかし、それが何でこんな所に居るのに繋がるのか、理解できない。
「そうだね、君を守るために私が此処に引っ張ってきた、ってところかな。」
そもそも、このさっきから話している君はだれだ?
「ああ、言ってなかったね。私は進化の秘宝に宿っているもの。此処の世界だと精霊になるかな。」
そうだったのか。これはもしかしたら貴重な体験なのかもしれない。
「でもね、君の成長が終わるまで、ここから出すわけにはいかないんだよね。といってもこっちに長い間居ても、向こうではそんなに時間は進んでないかもしてれないけど。」
しかし、体感時間で何日も、しかも動けないで喋ることもできないとなると結構厳しい。
「なら、安心していいよ。君は魔法について考えればいいんだから。」
魔法について考える?
「そう、君の魔法はなんでも創れるんだろう?なら色々なことを考える必要がある。」
どういうことだ?
「よくつかわれる七属性魔法は火、や水、といったように物体、物質が決まっているだろう?」
そう言われればそうだな。使うものが決まっているならイメージするのも容易い。
「そう。でも君の魔法は複雑なうえに、創るものが一から全部、ときた。普通の魔法使いが使うような魔法は、既にどんな感じのものか伝えられ、教えられるからイメージしやすい。でも君の場合は伝える人がいない。それに、教えてくれる人もいない。」
確かに、今着ているローブなんかは創るのにやけに時間がかかった。
「それはね、ローブという装備がどんなものか知らないこと。特殊効果によって何が起きるのか、を理解していなかったっていうのも理由に入ってくるよ。」
なるほど、でそれで俺が此処にいることに何のつながりが…?
「言っただろう?君の魔法は複雑だって。普通の人なら、少し成長を促せば、イメージ力が高まってより効率的、効果的に魔法や体を動かすことができるんだ。でも君は強力すぎる。やろうと思えば何でもできるから、イメージする物が無限といっても過言ではないくらいにある。剣を創る、といっても、色々あるだろう?それらの中から集中して一つの物を選択して創らなければならない。でも、今回の成長で君はそれらを無意識に、考えるだけで創ることもできるようになるかもしれない。といっても成長具合によるけどね。」
もう少し簡単に言ってもらえると助かるんだけどな。
「そうだな、じゃあ君が火の魔法を使うとする。普通の魔法使いの人ならまず火の球を思い描くだろう。なぜならそれが一番簡単だから。でも君はこの世界の魔法についてはなにも分からない。だから君は火の球の他にしたから噴き出す炎や爆発によって広がる火も思い描くかもしれない。これだけで思い描くものが2つも多いだろう?」
まとめると、イメージするものが多すぎて形が定まらず、無駄に力を使っている、みたいな感じでいいのか?
「うーん…。何とも言えないなー。じゃあ君は時間が止まった世界を想像できるかな。」
時間が止まった世界?経験したことが、いや、そもそもできるはずもないから想像するにしても時間がかかるな。
「それのイメージ力を強める、集中力を高めることで、想像までの時間を短縮できるんだよ。この説明も芯から結構ずれているんだけどね。」
それはいいが、話がそれてないか?此処に居る理由とあとついでに何故体が動かないんだ?
「体については成長痛って言えば分かるだろうね。此処に居るのに関しては、集中力が高まる、と言うことは詠唱が短くなる。魔法などについて良く理解できる人ほど魔法の詠唱が短い。要するに思考速度が速いってこと。君の潜在能力解放率は確か0,001%以下、だったかな。それであの速さで剣を10本創ることができる。今でも相当思考速度が早い。それなのに進化の秘宝によって、解放率は2%位になろうとしている。いきなり考える力が1000倍以上になったら脳は情報を処理しきれない。精神も擦り減ってしまう。そんなことになったら君は廃人だよ。だからこの、真っ白でそれ以外認識することのない、考えることをあまり必要としないこの場所に君を引っ張ってきたんだ。あの場所に居たままだと人や物がたくさんあるから脳神経が焼き切れてしまう。これでいいかな。」
ああ。要するに情報を読み取って理解する力がいきなり跳ね上がったせいで脳がそれについていけず、危険な状態に陥ってしまうから情報の少ないこの場所に呼んだよ言うことだろう。
それにしても、お前俺について詳しすぎないか?どこまで知ってる?
「え?いいの?言っちゃって。」
は?え、お、おう。
「そうだね、見た目がちょうど今と同じくらいの歳のときに…」
それはやめろ!割とマジで恥ずかしい!思い出させないで!
「でも、話せって言ったの君だし…。」
さっきのナシ!別の意味で脳が焼き切れちゃう!
「それじゃあダメかな。でもこっちに来た時の年齢でも時々間違われてたよね?」
…うん。
「君は恥ずかしいかもしれないけど、女の人からみたら羨ましかったんじゃない?」
…
「君のお母さん綺麗だもんね。そのお母さんに似てるんだから君も良い顔してるよ。」
…恥ずかしいからやめてくれ。
「お父さんも結構良い顔してたもんね。なんで君モテないの?」
お前が此処に居て俺が動けてたらお前絶対ぶん殴る。
「ハハハ、良いじゃないか。自分を見直すのも大切だよ?」
お前絶対俺が恥ずかしがってるの見て楽しみたいだけだろ!
「あ、バレた?」
隠すつもりもなかっただろ!
「ま、それはそれとして、君が向こうに戻れるのはもうしばらく後だよ。一番問題なのは君の友達のほうかな。」
そういや俺はいきなり倒れたことになってんだよな。
「うん、そうだね。あの女の子なんか泣きながら君の事心配してたよ。」
起きたら謝らないとな…。
「女の子泣かせるなんて、男としてどうなんだろうね。」
いや、今は性別ないし。
「そうだったね。まぁ頑張ってよ。」
何のことだ?
「気付いてないのか、経験ないもんね。仕方ないね。青春時代があれだもんね。」
何が言いたいのかよくわかんないけど、まぁいいか。
「話がそれたね。向こうに戻ったらステータスがとんでもないことになってると思うけど、あまり大きな反応すると調べられちゃうから気をつけてね。」
俺の魔法で騙せるんじゃないのか?
「道具にもランクがあるんだよ。高いものになると騙せない。」
面倒だな。
「あと、ステータスが上がってるのにランクが上がってないかもしれないけど、問題ないよ。」
なんで能力が上がるのにランクが上がらないんだ?
「種族とか、職業によって色々違うんだよ。」
そうなのか。具体的には分からないのか?
「詳しくは分からないけど、今の君なら能力値が5000くらいあってもFランクだったりするんじゃない?」
なんか、メタいな。
「何の事だか分からないな。」
早く成長終わらないかな。正直こうやって話せるからまだいいが、体が動かせないのはなー。
「そうだね。大変だね。」
他人事のように…。
「でも私はこうやって意識を持った時から種なんだよ?」
ああ、そうだったな。
「だから話す相手もいないし、動くこともできない。」
じゃあ動いてみるか?他の人と話してみるか?
「どういうこと?」
分からないのか?俺のことには詳しいんだろ?
「…あ、そっか!」
俺がスキルを使ってお前に体をくれてやる。正に神の奇跡だろ!
「…それ聞いて思ったんだけど、何で神様になりたがったの?」
え?なんでって…いいじゃん。神。一度異世界とかで無双したかったんだよ。
「それだけ?」
おう。
「恐ろしいな、君は。」
暴走とかしたらまたこんな感じの所に引きずり込んでくれよ。
「どういうこと?」
俺は案外短気でさ、こんな力で暴れたらどうなるかわかんないじゃん?
「へぇ、そんな風には見えないけどな。」
よく言われる。
「君は不思議な人だね。」
そうか?
「だって、本来此処で消えるような存在に、一緒に来るか、なんて聞いてくるんだもん。」
そうだな。
「そもそも、私の存在を感じ取る人すら少ないのに。」
そうなのか。
「うん。だから、私は今君と話せてとても幸せだよ。」
疑問に思ったんだが、お前は男か?それとも女か?
「え?考えたこともなかったな。でも、一緒に行くなら、女の子のほうがいいな。」
わかった。その代わり、俺にもちゃんと協力してくれよ?
「ありがとう。キシナミ。」
大したことじゃないさ。
「そんなことないよ。あ…」
どうした?
「そろそろ向こうに戻れるよ。体を楽にして。」
わかった。他の奴と話していると時間の経過なんて忘れてしまうな。
「じゃあね。」
その言葉とともに、白かった視界は、黒く変わっていき、意識が浮上する。
…声が聞こえる。目をあけると、そこには昨日見知ったばかりの少女がいた。