育成の町フレイ
少年は決心する。大切なものを守れるようになろうと。
~世界の記憶 第2024章 第10節 15項~
「まずは周りの人に話を聞くのが先かな、いや、宿を確保したほうがいいかな、身の回りの物は、創ればいいし…。」
いつもの悪い癖の独り言を呟き、門の前に棒立ちしていると、
「どうかなされたんですか?」
と、話しかけられた。声のしたほうを向くと、女の人が立っていた。
バランスのとれた細めの体。日に焼けたのか薄い褐色の肌が、白いワンピースと合わさってとても美しく見える。特徴的な赤い髪。顔立ちは整っていて十分に美人といえる。しかし、此方を見ている、髪と対照的な色の蒼い眼は、何か不安げな目をしている。そして、此方の格好を確認するように頭を上下に動かす。そんなに変な格好をしているだろうか、と疑問に思った時、
「ご、ごめんなさい!」
突然謝ってきた。訳がわからない。しかし、
「あ、あの、貴族の方でしょうか…。でしたら何かお詫びをしないと…。」
ああ、なるほどな。俺は異世界なんだから少しくらい格好つけてもいいよね。ということで黒いローブなどを着こんでいたのだ。見た目も結構上質な物に見えるようにしてある。町の近くまで移動するときに暇だったから考えたのだ。魔法で物を作る練習も兼ねて、しっかりと特殊効果もつけているのだ。これを作るのに一体何分かかったか、まぁ今はどうでもいい。先にこの人の勘違いをどうにかしなければ。
「ああいや、私は貴族でも何でもないよ。気にしないでくれ。ところで何かあったのかな?」
「そ、そうでしたか。良かったぁ…。えーっと、この町に来たのは初めてですか?もし初めてならこの町を案内しようと思って声をかけたのです。」
「そうだったのか。紛らわしい格好をしていて申し訳ない。それはそうと此処に来るのは初めてでね。ぜひ案内をお願いしたい。よろしいかな?」
どうやら、この町に初めて来た人にこの町の案内をするのが彼女の仕事らしい。給料などは出ないようだが、彼女が好きでこの仕事をやっているのだから、何か俺が言うべきでもないだろう。
「よ、喜んで!」
まだ人の案内は慣れていないのか緊張している彼女に連れられて、町を見て回ることにした。
まず、この町は5つの地区に分かれているらしく、東側の魔法育成地区、西側の武道育成地区、南側の一般教育地区、北側の一般住居地区、そして中央の冒険者地区である。
東側の魔法育成地区は俺の世界でいう、魔法の専門学校とそれに関する資料、本が販売されている店が集中しているらしい。
西側は魔法とは違い、肉体戦術、要するに剣術、槍術、武術など、その他色々な近接戦闘に関する教育を行う学校や専門の道場などの施設があるらしい。
次に南側だが、ここは一般常識、俺の世界の学校と大差ないことを教えているらしい。
北側にはそれらの学校、施設に通っている人たちが住んでいるらしい。ここの娯楽用の本や、食べ物が売っているらしい。
最後に冒険者地区だが、此処は冒険者ギルドを中心とした、さまざまなものがあるらしい、例えば、討伐してきた魔物の素材や移動に役立てるための動物、武器や防具なんかも此処で手に入るらしい。宿屋もこの冒険者地区にあるらしい。ちなみに俺は一般教育地区を見て回った時に、この世界に関する本や、魔法育成地区を案内してもらった時、魔術書入門編を買っておいた。宿で読もうと思ったのだ。この世界の言語は俺の居た世界のどの言葉とも違ったが、問題なく読めるし、書くこともできる。早く宿に入ってこの買った本を読んで一刻も早くこの世界の知識を身につけておきたいところなんだが、
「あ、でも宿屋は冒険者登録していないと利用できないんですよ?」
とのことだ。
「じゃあ先に冒険者として登録しようかな。」
「それでしたら気をつけて下さい、中には新人を脅して自分のいいなりにさせるような人もいるので…、それに、あの、えっと…」
「ああ、そういえばまだ名前教えて無かったね。失礼した。私はキシナミ、気軽に呼んでくれ。」
「あ、わ、私はアーネといいます!よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。それで、今何か言いかけていたようだけど、冒険者になるにあたって何か私に不都合なことがあるのかな?」
「あ、いえ、不都合とかじゃなくって、その、キシナミさん綺麗な人だから、男の人に狙われるんじゃないかと…。」
「………」
「し、失礼なこと言いましたよね、ご、ごめんなさ―――――――」
「アハハハハ!」
「え?え?」
「いや、失礼。私を綺麗なんて言う人がいるなんて思わなくてね。」
普通に考えてみれば当たり前である。今はなぜか性別が無いが、男だったのだから。綺麗なんて言われるのとは縁が遠いというものだ。そういえば、この世界での亜人の扱いはどうなっているのだろう。身分証を見る限りでは、亜人になっているし、今まで読んできた本で亜人の扱いが良いのは余り覚えがない。
こうやって人と話しているだけで犯罪になりかねない。死活問題である。もう手遅れかもしれないが、知っておく必要がある。
「ところで、ちらほら獣人などの姿が見受けられるが、この辺りでの亜人の扱いはどうなってるんだ?決して悪い意味で言っているわけじゃないけど、気になってね。」
「え、獣人の扱いですか?この辺だと普通に人間とも仲がいいですよ。他の所でも酷い扱いを受けている話は聞きませんけど、どうしてそんなことを?」
良かった、どうやら俺は牢獄生活を免れたようだ。なら亜人であるということを話してもいいだろう。
「いや、ただ単に私も亜人だというだけの話だよ。」
「え?そうなんですか?」
「ああ。何かと人間のハーフのようだけど私にもわからない。向こうの丘の上で目が覚めてからの記憶しか無いに等しいからね。」
元いた世界の記憶なんて言語くらいしか役に立たないのだ。無いといっても決して過言ではないだろう。まぁハーフについては分かってるんだけどね。
「そ、そうなんですか。で、でもギルドの人達には気を付けてくださいね。キシナミさんみたいな綺麗な女の人なんかは特に狙われやすいから…。」
そこまで心配されていたのか、と思わず苦笑する。なにせ、しつこいようだが、俺は元男だったのだ。さらに現在ではその性別すらないのだ。もしかしたら魔法で創ることができるかもしれないが、性別があったらあったで面倒そうなので創るようなことはしない。
「ああ、その事なんだけどね、ハーフも関係あるのか分からないけど性別が無いみたいなんだ。これについてはさっき身分証を作った時に分かった事なんだけどね。」
「え?性別が無いってどういうことですか?」
「詳しいことは分からないけど、男でも女でもないって事かな。別に変な意味はないさ。まぁ気軽に接してくれよ。」
「えっと、じゃあ、あの、その…。」
何故か急に顔を赤くして黙り込むアーネ。どうしたのだろう。町の案内中も度々顔を赤くしていたようだし、熱でもあるのだろうか。
「大丈夫かい?さっきから顔が赤いようだけど、熱でもあるのかな、無理をしているなら早く休んだほうがいい。風は万病の元、ともいうしね。病気にでもなったら大変だ。」
「あ、いえ、ち、違うんです!…その、キシナミさんは男の人と女の人、どちらのほうが好きですか…?」
なるほど、色々な人に話しを聞いて好きな人にする告白に役立てようという訳か。なら隠す必要もないだろう。それにしても、こういうところで照れる女の人ってかわいいよね。でも俺より身長7~8cmくらい高いし、恐らく年上なんだろうな。
「私は女性の方が好みかな。見たところ優しそうな人が多そうだ。なによりも、頑張っている姿を見るのは微笑ましいからかな。」
そんな返事を返すと顔をさらに真っ赤にさせる。理由はほとんど適当に言ったものであり、本心は元男なのに男好きになるのは抵抗しかないからだったのだが、それよりもこの赤さは尋常じゃない。本当に危ないんじゃないかと不安になった時、
「こ、これから、冒険者地区に行きますね。」
と、顔を俯かせたまま俺の手を持って引っ張る。何か吹っ切れたのだろうか。どちらにせよ、人の役に立ったならそれで良しとする。俺はアーネに引っ張られるまま、冒険者地区へ向かうのだった。
すごく短い話になってしまってすみません。
冒険者地区での話は明日中に投稿するつもりです。