初めての実戦
道具を作るもの、防具を造るもの、武器を造るもの、家を造るもの、家具を造るもの。全て同じ何かをつくる事ではあるが、そこに心がこもっていなければ、つくってもらった物はとても悲しんでしまうじゃろう。それを無くしたいがために、わしは今もこうやって指導を続けておる。
~伝説と謳われた職人が弟子に残した言葉より~
「ザイ、今更何の用だ。」
「親方、申し訳ありませんでした!」
「今更謝ったって許す気はねぇ。」
「許してもらわなくてもいい、ですが、あの二人だけは許してやって下せぇ。あの二人は俺に言われたやっただけです。俺に責任があります。」
「…」
「どうか、この通りです!!」
そこまで言うと土下座をするザイ。もしかしたら元は真面目な奴だったのかもしれない。
「そうか、そこまで言うなら良いだろう。お前さんはどう思う。」
そこで俺に話を回してきますか。俺こういうの苦手なんだよな。
「これからは真面目にやる、と言うのならまあいいだろう。次に何か起こした時に親方が判断をすればいい。」
「そうか、と言うことだ。相手が優しくてよかったな。」
「あ、ありがとうございます!!」
今度は俺にむかって土下座をするザイ。人に土下座されるのってなんか微妙な気持ちになる。
「仏の顔も三度まで、と言うだろう。だが、だからと言って同じことを繰り返していいわけではない。肝に銘じておくんだな。」
「はい!!」
「じゃあ、親方、世話になったな。おかげで良いものが手に入った。」
「そうかい、また来いよ!」
「気が向いたらな。」
そうして俺は鍛冶屋をでた。もう夕方になっている。
「良かったの?あんな簡単に許しちゃって。」
「あいつも次が無いことぐらいわかっているだろう。あと、親方のシバキのほうがとんでもないことになりそうだったしな。」
「ふーん。」
もう日も落ちかけている。この剣を振るのは明日にしよう。問題はこれからどうするかだが、夕食にはまだ時間がありそうだ。エレナが本を読み終わったと言っていたから本屋に行くのがいいかもしれない。
「さて、次の場所に行くぞ。」
「え?これから?」
「ああ。もう読む本は無いんだろう?」
「あ、そうだった!!じゃあ急いで行こう!」
「あ、おい、いきなり走るんじゃない!」
そして、本屋で多大な出費をしてこの一日は過ぎて行った。
翌日、今日もまた起きるのが早くなってしまった。勝手に目が覚めるのは仕事とか学校とかあると良いんだろうけど、正直こんなのんびりできる世界で早起きで来てもあまりうれしくない。
さて、今日の予定は剣の性能を試すのと、剣モドキよりは良い剣を創れるようにすることかな。そういえば昨日のあれで鍛冶スキルが身についてたな。しかもCランク。恐らく親方のおかげだろう。剣を創るのは外に出なくてもできるのでここでやることにする。やはり良いものを創ろうとすると時間がかかるのが難点だろう。時間をかけなければ剣モドキになるし、かといって良いものを作れば3分~5分の時間がかかる。この辺を改善するには、何度も繰り返して慣らすか、レベル上げでスキルの上昇を狙うべきだろう。
そんなことを繰り返しているうちにエレナが目を覚ます。もう外がだいぶ明るくなっていることに今更気がついた。それだけ時間を費やしたので良いものでも1分~2分くらいで創れるようになったが。
「おはよ。今日も起きるの早いね。」
「勝手に目が覚めるから仕方がない。」
「ふーん。」
「朝食を済ませたら町の外に出るぞ。」
「なんで?」
「昨日の剣を試しておきたい。」
「私がやること無いじゃん。」
「何か攻撃方法でも覚えてないのか?本を渡してあっただろう。」
「あー、そういえば。」
「じゃあお前は攻撃魔法を試せばいい。」
「そうだね。」
話がまとまり、朝食を済ませ、町の外に出たのは良いが、
「なにもいないね。」
「ああ。」
「どうするの?」
「…冒険者ギルドで情報収集するしかないな。」
「そう、かな?」
「ああ。何かあれば大体あそこに連絡が行って討伐依頼が出される。」
「それって強い魔物なんじゃないの?」
「大体はそうなるが、弱い魔物も混じっているだろう。」
「なら良いかな。」
と、言うことで町にトンボ帰り、そして冒険者ギルド。
「何か修行になるような依頼が欲しい、ですか。」
「ああ、何もしないと体がなまってしまう。」
「依頼ではありませんが、森の中に行けば魔物なら多数沸いているはずですが。」
「そうか、助かる。」
「ではお気をつけて。」
「なんか行ったり来たりして忙しいね。」
「仕方ないだろう。色々と分からん事があるんだから。」
「プランクでもわからないことってあるんだ。」
「当たり前だ。それにしても妙だな。」
「何が?」
「こっちに来るときはこの時間帯でも普通に魔物が襲ってきていただろう。」
「そういえばそうだね。」
「なのに、今では何もいない、となると何か面倒なことになりそうだな。」
「じゃあ早く行って森の中の魔物だけでも減らしておこうよ。」
「そうする。」
と、森を探して周囲を見渡すと案外近くに森があった。規模としてはやや小さめではあるが、森は森だ。小さいと言っても結構広いことに変わりはない。
「結構近いところにあるもんだな。」
「そだね。何か居る?」
「これと言って…あー蛇みたいなのとかならいるな。」
「じゃあ早速倒そうよ。」
「森の中で戦うのは分が悪い。森自体にはもっと近づくが、中には入らずに軽い攻撃を当てておびき出す。」
「わかった。で、どうやっておびき出すの?」
「お前の魔法。」
「え、いきなり実戦?」
「そうだ。俺も初めて使う魔法でも実戦で試している。」
「それはプランクが強いからじゃないの?」
「それもそうだろうが、お前は一発当てるだけで良い。後の始末は俺がやる。」
「うん、なら大丈夫かな。」
この辺任してくるだけ、最初のころと比べると印象は良くなっているのだろう。まあそうでなければ俺も邪魔だ、とか行って切り捨てている可能性があるか、エレナが寝ているうちに先に進んで置いていくかしていただろう。それにしても俺ってこんな非情なこと考えられるんだな。
「いくよ、《ファイア・ショット》!」
エレナの掌からでたこぶし大の炎の弾は蛇に直撃はしなかったものの、かすったため、こちらに対して戦闘態勢をとってくる。同時にゆっくりと近づいてきているが、それは獲物をしとめるような目で、怒り狂ったようなところは感じられない。それだけこちらを警戒しているのだろう。魔物のくせに頭いいな。もしかしたら俺の考えすぎかもしれないが。
「少し下がっていろ。ここからは俺の仕事だ。」
「うん。」
エレナを一歩下がらせ、俺はそこから3メートルほど前にでて、剣を構える。剣術のFランクがあるので、構えだけは様になっている…はず。
そして、俺の剣の射程まで、残り、3メートル、2、1…射程に入った瞬間、先に動いたのは蛇のほうだった。体を起こし、その反動で、跳んでくる。狙いは恐らく肩だろう。しかし、いかに俺の剣術スキルが低いとはいえ、跳んでくるスピードは俺にとっては止まっているも同然である。蛇のスピードを遥かに上回った一撃で一刀両断。もちろん、あの青い軌跡が出てくる。
真っ二つになった蛇はその場で解体して、保存しておく。毒は持っていなかったようだが、何かしらの材料に使えると思ったのだ。そして二匹目も出てきたので、さっきと同じ方法でエレナに魔法を打ってもらってこっちにおびき寄せる。今度は自分で創った剣の中で出来が良かったものを選んだ。今度は足に跳びかかってきたので、これも切り捨てようとするが、硬い。相手の動きを止めることはできたものの、あの剣のように一刀両断は出来なかった。せいぜい蛇の背に傷をつけたくらいだった。
剣を持ちかえて、倒した後に腰をおろし一息つく。
「なるほど、これであの剣の性能がどれだけ高いかよくわかったな。」
「そうなの?」
「ああ、この青く光っている剣ならこの蛇くらい簡単に切り捨てられたが、こっちの剣では傷ををつけた程度だった。」
「じゃあこっちの方が強かったんだね。」
「ああ。さて、少し休みを入れたところで、次だ。」
「まだやるの?」
「今日はこれに一日費やすつもりだが?」
「私疲れちゃう。」
「休みを入れながらやるにきまっているだろう。」
そして夕方ごろ、
「《ファイア・ショット》!」
ふむ、普通に当てられるようにはなってきているようだ。頑張れば一人で倒せそうだな。まだやらせるつもりはないが。
「シュー…」
「警戒、いや少し興奮状態だな。さがれ、エレナ。」
「むー…《アイス・ランス》!!」
俺の指示を無視して放ったアイス・ランスは蛇の胴体を正確に貫く。俺の指示を聞かなかったことは少し叱る必要があるとは思うが、魔法でしっかり狙いが付けられるようになるまで強めの魔法を使うのを控えていたのか。それと、結構威力が高い。
「…」
「エヘヘ…」
どう?すごい?すごい?とでも言いたげな目でこちらを見てくる。犬のような尻尾があったらブンブン振っているに違いない。これを見ているとこちらの叱る気が失せてきた。…今回は見逃してやろう。緊急時にやったらそりゃ怒るが。
「上出来だろう。」
「わーい!」
「だが、危険だと判断した時は俺の指示に従えよ。」
「はーい。」
さて、今日はもう戻るか。エレナもそれなりに良い経験ができただろうし、こちらとしても良い武器が手に入ったのを確認できた。
その後、宿に戻って夕食を済ませ、剣の品質向上を図るべく、朝と同じ事を繰り返す。エレナはもう寝ていたが、俺は夜が更けるまでこれを繰り替えし、眠くなってきたのでそこで寝ることにした。
しかし、穏やかな日常はそう簡単には訪れてくれないようだった。
ただし、エレナの初実戦。たまにはこういうゆったりしたものいいですよね。
え?最後の一文?ナンノコトデショウ?




