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 最近は特に変わったことを起こしていないようだ、しばらくは他の場所を観察するべきだろうか。

 ~世界の記憶 第2017章 第8節 28項~











「…随分長い説教だな。」

「いや、申し訳ねえ。少しばかり伸びちまった。ところでもう窯は十分な温度まで来ているんだが、どうする?」

「俺は連れの様子が心配だからな、一度戻らせて貰う。」

「そうかい、どれぐらいで戻ってこれる?」

「30分くらいはかかりそうだ。剣を渡すから、戻ってくるまでに使える部分を取り出しておいて欲しい。」

「おう、合点だ。」

「ではな。」






 さて、宿に戻ってきたが…


「どこに行ってたのさ?」


 とこんな具合でエレナがご機嫌ナナメのようだ。まあ適当に流せばいいだろう。俺はそもそもこいつについてこいなんて言ってないわけだし。


「まあ少しな。朝食を済ませたら、俺はまた外に出るがお前はどうする。」

「本も全部読み終わっちゃたし、ついていく。」

「そうか。」


 と、言うことで朝食をいただきつつ色々と話を続けて行く、それにしてもここの宿の食事は朝から肉ではあるものの、夜に食べるようなガッツリしたものではなく、朝はサッパリといただける。胃もたれもしないし、見習いたくなるものだ。俺もどっかで正式な料理スキルを手に入れないといけないな。


「それにしても、お前も結構丸くなったな。」

「ん?どういうこと?」

「話し方とか、最初に会った時のことを思い出してみろ。」

「あ、あ~…う、うん。」


 あの口調を思い出しているのか、顔が赤くなっている。これは黒歴史決定だな。一国の王とか、どっかの領地の主だったら何も言うことは無いのだが、今は何でもない普通の少女があの口調だったら恥ずかしいことこの上ないだろう。


「アレは、忘れてくれない?」

「そのうちな。」

「むー…」


 ほっぺを膨らませてプンスカという感じに不満を表しているが、駄目だな。あれは俺的に結構おもしろかったし、逆に今でもあの口調だったら何かあるたびにいじっているかもしれない。まあこのままでもいじっても良いのだが、それでは何かつまらない気がするのでやらない。


「さて、じゃあ行くか。」

「ところで、どこに行くの?」

「鍛冶屋。」

「なんで?」

「使うのが魔法だけだと不便だろう。だから武器が必要なんだ。今は無いかもしれないが、魔法が効かない奴とかがいてもおかしくは無い。そんな状態になったら強敵の前で何も出来なくなるからな。そんなことが無いように、武器を持っておこうと思っている。」

「ふーん、じゃあ私も武器ほしい。」

「素材が余れば、頼んでみよう。」






 そして、朝食を済ませ、エレナを連れて鍛冶屋に到着。


「邪魔するぞ。」

「おじゃましまーす。」

「おう、来たか。そのお嬢ちゃんが、お前さんの言っていた連れかい?」

「ああ、見ての通り子供でな。少し目を離すと何処かに行ってしまう。」

「ハッハッハ、お転婆な嬢ちゃんだな!」

「そんなことないし!」

「ほう、なら食べ物の匂いにつられて迷子になったのはどこのどいつだ?」

「う…」

「まあ、子供はそんなもんだ、許してやんな!」

「そうだな。」


 ちなみに、エレナが迷子になったせいで俺が1時間ほどこの街を走り回ったりしたのは別の話である。

 と玄関口で話していると弟子がやってくる。


「親方、鉄のインゴッドは終わりましたぜ。」

「おお!かわいい女の子発見!!これだけでご飯3杯は行けそうだ!」

「これはまた素晴らしいな、いろんな意味で。」

「プランク、この人たち怖い…」

「おい!お前ら!お客さんの連れが怖がってるじゃねえか!静かにしろ!」

「また、こいつのせいで…」


 また俺に責任転嫁ですか。本当にこいつら見てるだけで腹立つな…。それとエレナは俺の裾を掴むならともかく、引っ張るのはやめてください。服が伸びてしまいます。


「そうだ、忘れるところだった、お前さんのくれた剣から作るインゴットだがな、まだ出来てねえんだ。結構熱に強いらしくてな、なかなか溶けてくれねえ。だからもう少し待っててくれ。俺は先に鍛冶場に戻っているからな!お前ら、お客さんに失礼の無いようにしろ!」

「へいへい。」


 さて親方が奥に行ったのを見計らって俺をにらんでくる三人組。腰低くしてポケットに手を突っ込むって昭和の不良かよ。


「おう、てめぇのせいでさっきから親方に怒られっぱなしなんだ、わかるか?」

「そうだよ、てめぇが来たからこんな面倒なことになってるんだぞ?ええ?

「まったくだ、朝から耳の痛いことこの上ない。」

「知らんな。」

「あぁ?なんだと?」

「貴様らが親方に怒鳴られているのは貴様らの責任だ。自分の責任を人に押し付けている時点で成長する気が無いと見える。人の礼儀もなっていない、道具の扱いも乱雑。どうせ良いものが作れないんだろう。それで親方に怒られて苛立っているところに俺がきた。そこで鬱憤を晴らすために俺に当たっている、違うか?」

「おい、少し表でろや。久々に頭に来たぜ。」

「無い頭に何が来たんだ?」

「あー、コレは即死コースだわー。兄貴がこの辺で喧嘩トップ名の知らなかったのが運の尽きだな。」

「てめぇ、殺してやるからな。今更謝ったってゆるさねぇぞ。」

「そうか、勝手に一人で表に立ってろ。俺は親方に用事がある。」

「ねぇ、プランク大丈夫なの?」

「気にすることは無い。この程度にチンピラなんぞにかまっていたら時間の無駄だ。」


 そこまで行ったところで兄貴と呼ばれていた奴がナイフをこちらに振りおろしてくる。もちろん扱いが素人なので普通に避けられるが、


「俺に刃を向けた、と言うことは死ぬ覚悟があるんだな?」

「ハッ、死ぬのはてめぇのほうだ!」


 ここで争いを起こして店に傷をつけるわけにはいかない。仕方が無いので表に出ようと、ガラス戸に手をかけたところで、


「てめぇら!!何やってやがる!さっさとこっちに…おい、ザイてめぇお客様にナイフを取り出したな、こっちに来い。」


 親方がきてこちらの状況を見るなり、親方の周りの空気が一変したが、


「いや、大丈夫だ、ここは俺がこいつらをシバキ倒してやる。完膚なきまでに叩きのめせばもう何か言うことも無いだろう。」

「いや、しかしお前さんにそんなことをさせるわけには…」

「大丈夫と言っているだろう。これでも冒険者のはしくれだ。この程度のチンピラが何人来ようと雑魚の塊でしかない。」

「そうか、じゃあ分かった、ただお前さんに何かありそうだったら割って入るからな。」

「ああ。」

「プランク、怪我しないでね。」


 エレナが不安そうにこちらを見つめてくるが、怪我どころか指一本俺に触れさせるつもりはない。これは喧嘩では無く、俺からしたら蹂躙だ。


「遺言は残せたか?」

「ところで、お前一人だけか?」

「は?」

「お前一人で、俺一人とやり合うのかと聞いているんだが?」

「は、あたりめーよ!お前見てえな奴は俺一人で十分だぜ!」

「そうか、店が壊れると拙い、表に出るぞ。」


 そして、俺とザイと呼ばれた男が表にでて少し距離をとる。


「いつでもいいぞ。」

「一瞬で決めてやるぜ!《アクセル》!」


 ほう、加速の魔法か。術者の魔力によるが、大体動ける速さを2倍くらいにしてくれるけっこう便利な魔法だ。だが、たかがチンピラの動きが2倍になったところでそれが通用するのは同じチンピラだけだ。よって、


「スロー過ぎてあくびがでるな。」

「な、いつの間に、ガフッ」


 簡単に回り込んで顎に蹴りを入れてやる。頭が上がってのけぞっている腹に蹴りを入れ、吹き飛ばす。


「こ、の…糞野郎が!!」


 立ち上がり一言ほえてから、再度飛びかかってくる。ナイフを突き出してくるのでその腕を掴み体を相手の懐に滑り込ませ、背負い投げを決める。もちろん受け身を受けさせるつもりもなく、背中から地面にたたきつける。腕は掴んだままなので、そのまま放り投げ、立ち上がるのを待つ。


「く、てめぇら、手伝いやがれ!」

「ザイ、てめぇは自分の言ったことも守れんのか!」


 ザイの言葉に親方が口をはさむが、聞いちゃいないようだ。初めから三人でやればいいものを。結果は変わらないだろうが。


「これでこっちは三人だ。いくら強かろうと数にかなうはずがねぇ。やれ!お前ら!」

「数が多かろうと、質が低ければそれは弱点にしかならん。」


 と言うと同時、こっちに腕を振り上げてきた二人の首の後ろに手刀を打つ。一般人がこれに耐えられる訳もなく、この二人は意識を手放した。いつまでも近くに居られると邪魔なので親方の足元あたりに放り投げる。


「な、オイ、マジかよ…」

「そろそろ諦めたらどうだ。」

「まだこっちも切り札を出してねえ。」

「そうか、なら出せるうちに出すと良い。」


 その切り札とやらを破り、心を打ち砕いた上で勝利する。こうしなければこういう輩は改心しないだろう。と言うかこの街はこういう奴が多すぎるきがする。大体の原因はこの街が喧嘩を許していることと、今もそうだが、こんな風に周りが集まって喧嘩を見るのを楽しみ始めると言うのも原因の一つではないだろうか。その結果、喧嘩で数多く勝った奴は調子に乗り、何か事あるたびに喧嘩を起こす。だからこういう奴が多いのではないかと俺は考えている。

 まぁこの辺は国に直接言わないと改善できないかもしれないが。


「じゃあ見せてやるよ。《ファイアジャベリン》!!」


 ザイが魔法を唱えると右手に炎の槍が形成される。なるほど、それを投げつけてくるわけか。これ避けただけでは鍛冶場が燃えてしまうからな。やることは一つだろう。


「《コードブレイク》。」


 魔法を唱えると、ザイの右手にある炎の槍は形を崩していく。


「な、俺の魔法が消えて、どうなってやがる!?」


 前も使ったな、コードブレイク。魔法の術式を崩して魔法をキャンセルさせる魔法だが、正直言って余りに差があると通用しないだろう。俺はチンピラなのに魔法を使えたことに少し驚いたが。


「今のが切り札か?」

「く、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 切り札を崩されたからか、やけになって叫びながら走ってくるザイ。もう終わりか、やはり時間の無駄にしかならなかったな。


「頭に血が上った状態で格上の相手と戦えると思うな。」

「ガッ…」


 ザイの攻撃を横に回り込み避け、腹に蹴りを入れ、打ち上げる。そして、


「《アイアンスマッシュ》!」

「…ッッ!!」


 落ちてきたところ、ちょうど顔面を即席の鉄で覆った拳で思いっきりぶん殴る。ザイは10メートルほど吹っ飛び、そこにあった木に叩きつけら動かなくなった。HPが残っているようなので気絶しただけだろう。そもそも殺す気なんて無かったし。


「さて、これで片付きましたね。」

「あ、ああ。」


 親方も少し戸惑っているようだが、まあ良いだろう。伸びている三人を鍛冶場の奥の部屋に運びようやく親方が剣を作るのを見せてくれると言うのでそれを見ることにした。

魔法を使わなくても主人公は普通に戦えますが、本人はそれに気づいていません。きっと必殺技が無いからですね。

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