鍛冶屋
「準備はどのくらいで来ているんだ?」
「大体7割くらいだな。」
「予定より少し早いな。」
「これだけ人数がいれば良い人材も見つかり易い、ということだ。」
「そうだろうな。」
「俺達もそれなりに準備はしておかねばな。」
「ああ、何もしないと体が鈍る。」
「ここに居る全員で腕試し、なんてのはどうだ?」
「それもいいだろう。最初に負けた奴は飯をおごらせるか。」
「ああ、そうしよう。」
翌日、俺が目を覚ましている時間帯は大体エレナはまだ眠っている。俺は寝たい奴をたたき起したいわけではないのでそのまま寝かしといてやるが。
「さて、防具が完成したら、次は武器だろうな。」
今まで使った武器と言えるものは何一つとしてないだろう。なにしろ、相手にぶつけてその衝撃で地理になったり、そもそもが脆すぎて普通に使うには圧倒的に耐久力が足りない。これは一回武器屋に行って一流とまでは行かなくとも、それなりに良い品を見てどうすれば丈夫な武器が創れるかを見てくるべきだろう。今まで創った鉄モドキはこれでおさらばにしたい。鎧は時間をかけたから話は別だが。
「朝日はどこの世界でもいいもんだな。」
向こうに居た時も早く起きれれば外に出て朝日を見ていたし、初詣はわざわざ山に登ってみたこともあった。それにこの世界は空気がきれいだし、特に今日は雲が無い。日向ぼっこ出来たらさぞ気持ちいいだろうな。
「おう、兄ちゃん若いのにえらく早起きだな。」
と、いきなり話しかけてきたのは、俺より身長が10センチほど高く、腕の太さが俺の腕3本くらいはあるんじゃないかと言う、一言で厳ついおっさんだった。顔も普通の人が見たらつい目をそらしてしまいそうなくらいに強面である。ドワーフみたいな髭も生やしているが、俺はこの人がドワーフだと言っても絶対に信じないぞ。
「俺の日課のようなものだ、意識して早起きしているわけではない。」
「ん、そうかい。俺の弟子たちもそのくらいの気持ちでやってくれると助かるんだがな。」
「弟子?」
「ああ、俺はこれでも鍛冶屋でな、一応親方見たいなもんだ。」
「ほう。」
これは結構いいチャンスなのかもしれない。造られた後の剣とかを見るよりも、鍛造を見ることで何か掴めるかもしれないな。
「すまない、迷惑じゃ無ければ現場を見せてほしい。」
「おお、興味を持ってくれた見てえだな。いいぜ!案内してやる。」
親方についていって数分後、それなりの規模の鍛冶場に到着。店の外見としては結構古く見えるが、手入れは行き届いており、綺麗になっている。入口は最近では向こうでも見なくなってきたガラス戸である。所々テープみたいなもので補強してあるのが気になる。
「ここが俺が作業してる場所だ。道具は確かに古いものを使ってはいるが、使い慣れた物には愛着がわくだろう?だから俺はこの場所も、道具も大事にしてる。それなのに馬鹿弟子どもときたら、ハンマーは投げるし、熱の調整もでたらめだ。あんなんじゃいつまでたってもいいもんが造れるわけがねえのによ。」
「それはまた大変だな。」
「おう、まあその分しごき甲斐があるってもんよ。俺が半人前だった時も当時の親方にものすごい勢いで怒鳴られたりしてたからな。」
「そうなのか。」
「ああ。誰にでも下積みっちゅうのはあるもんよ。」
そんな会話をしながらでも親方は鍛冶場の掃除から始まり、道具の整備、釜戸に火をつけたりしている。ここらで一回鉄モドキの剣を見せてみるか。
「ああそうだ。少しこの剣を、いやちゃんと言うなら剣モドキだな。こいつを見てくれ。」
そう言ってインベントリから一本剣を取り出す。
「ん?どれどれ…ふぅむ…。」
剣を渡すと、顎に手を置いてしばらく黙りこむ親方。もちろん剣から目は離さない。
「なるほどな、こいつは結構厄介なもんだな。」
「どういうことだ?」
「まず一番に、鉄の純度が低すぎて刃こぼれしやすい。次に、剣の芯が曲がっているっつうか、もはや入っていないに等しいな。」
「なるほどな。」
「そしてこれだけ低い純度のくせに魔力をため込んでやがる。これを魔物にぶつけたりすれば暴発してもおかしくねぇ。まあ使い方にもよるかもしれねえが、どっちにしろ扱うには危険な物だな。」
「そうか。」
「で、お前さんは一体どこでこんな剣を手に入れたんだ?」
ああ、そう来るよな、自分が創ったって言うと色々面倒だからもちろんごまかすが。
「いつかどこかで役に立つだろうと思って、どうしても使えねえって言っている奴から適当に安い値段で買い取っただけだ。大量にな。」
「大量に?どのくらいあるんだ?」
「数えきれないくらいはある。」
「そうか、それだけあると一本一本見るのも大変だな…あまりやりたくはねえが、直接炉に入れちまうか。」
「分かった。」
「じゃあ、もう少し待ってくれ、まだ熱しきってねえし、弟子が来てねえ。」
そう言われて、親方に連れられて適当な時間を奥の一段上がった部屋で待っていることにした。
「それにしても、ちゃんと精錬すれば良い魔金属が出てきたのにな。これを扱った奴は結構もったいないことをしたもんだ。」
「そうなのか。」
「ああ、まあさっきちらっと見せてもらったが、あの量なら剣どころか大剣の1本や2本くらい簡単に作れるな。後は、せっかくここに来たんだから少しばかり鍛冶の技術を教えてやってもいいだろう。武器や防具の手入れにも必要になってくるスキルだろうからな。」
「それなら少しばかり世話になろう。」
「ま、実際にやる前に俺のを見てもらうから、お前さんが槌を振るうのは日が昇り切った後になるだろうな。」
「構わん。宿に連れがいるからもう少ししたら一度、日が昇り切ったあたりでもう一度、宿に戻らせて貰うが。それと、可能性としてその連れがこっちに来ることになるかも知れんが、あまり騒ぎたてたりはしないでくれ。」
「おう、構わんさ。賑やかなのは良いことだ。喧しいのは嫌いだがな。」
昔からそうだが、皆でワイワイやるのは自分も乗れるから良いのだが、ギャーギャーよくわからん愚痴を聞かされたりするのは御免である。大体愚痴をこぼしてくるのはあいつだったが。その愚痴に時間だけで1200時間はとらされているきがする。
「作業が始まれば多少は煩くなるかもしれないがそこは勘弁してくれ。」
「煩くなる、と言うよりは大声を出すだけだろう。」
「まあその通りだな。ハンマーで鉄を打つ中で声を他の奴に指示を出すなら、よく聞こえるように大声をだすしかねえ。」
まあ仕方ないな。その辺は妥協するべきだろう。どんなに声が通りやすい奴でも某所のスクランブル交差点で普通の声で話せるわけがない。
と、そこまで話したところで、入口のあたりから物音がした。恐らく弟子とやらが来たのだろう。
「おいーっす、親方ぁ。」
「今来ましたぜぇ。」
「ん、見なれねぇ兄ちゃんがいんなぁ。」
「やっと来やがったか、この馬鹿どもが!!」
「そんな早く来たって良いことなんかありませんぜぇ?」
「まったくでさぁ、せっかくの寝られる時間が無駄になっちまう。」
「ところで、その兄ちゃん誰でぇ?」
ああ、俺の一番嫌いなタイプだ、こいつら。何かあったら親方に言ってシメてもらうのが良いな。
「ああ、このお客様はだな…」
「プランクだ。鍛冶屋だと聞いたので見学に来た。」
「…と言うことだ、失礼の無いように。分かったか!」
「こんなヒョロっちい奴に何で頭下げなきゃなんねぇンですかい?」
「バカバカしいでさぁ、親方もついに目が腐りましたかい?」
「それにその上から目線が気に入らんよぉ?」
「言ったそばからてめぇら、今日はみっちり扱いてやる、覚悟しろ!」
少しばかりO☆HA☆NA☆SHIしないといけないかもしれないな。腹が立ってきた。うん、非情に。こいつらは賑やかじゃなくて、喧しい奴らだってことが良くわかる。俺の経験上でしかないが。まず何から治すべきだろうか、やはり言葉づかいだろう。
「へいへい。いつものことでさぁ。」
「あーあー!!このよくわからん変なヒョロっちい奴のせいで今日も仕事が大変だぁ!!」
「まったくだ。」
あ、親方の顔がすっげえ真っ赤になってる。完全に怒ってるな。俺は耳をふさいでおこう。
「プランクって言ったか、少し外にでていてくれ。」
「了解した。」
親方が何をするかはわかりきったことだが、外に出るよう促されたので素直にでることにする。あれだけ厳つい人が怒鳴ったら一体どれだけ恐いことか。
と考えていると、耳をふさいでいるにも関わらず、中から大声が思いっきり聞こえてくる。ガラス戸がビリビリ言っている。もしかしてこのテープによる補強は親方の声でガラス戸が割れてしまったからではないだろうか。色々恐いな、あの人。




