敗北
「このくらいでいいか。」
「お、また随分といじったねー、元の住人は大丈夫なの?」
「平気だ。底上げをしただけだからな。」
「フーン、そんな風には見えないけどね。」
「まぁ問題は無い…だろう。」
「さぁ?どうなるかね。」
~???での会話~
「ぐっ…!?」
突然来た体への衝撃に思わず膝をつく。それと同時に眼前にメッセージウィンドウが出てきた。そしてその内容は
天上より??への干渉を確認。影響大。
これを見て、なんだ?と思う隙もないまま、
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
後ろから、弱点を貫かれたはずのワイバーンが氷の塔を壊す音がした後、耳を劈く大きさの咆哮を放つ。それに反射的に耳をふさいでしまった。しまった、と思った時にはもう遅く、後ろには拳を振るって消し飛ばしたものとは比べ物にならない大きさの火球がすでに迫っていた。迫る速度も有り得ないほど速くなっており、俺が反応する間も無く、それは着弾する。
―――着弾の衝撃、遠目から見てもわかるほどの爆発、襲い来る突風、不思議と爆発音は俺には聞こえなかったが、恐らく先ほどの咆哮ですら足元にも及ばないほどの爆発音が響いただろう。そのまま俺の視界はブラックアウトした。
「ちょっと何、今の音!?」
「わ、分かりません!」
「分かりませんも何も、あなたはあの冒険者の様子を見てくるって言ったわよね!?」
「はい、何も異常は無いはずですが…」
「と、とりあえず、急いで闘技場の様子を見てきなさい!魔物使いも連れて!」
「は、はい!」
突如、この付近を襲った衝撃のせいですでにギルド内は大混乱状態で、パニックをおこしかけている職員も多数いる。
ああもう、あの冒険者と関わってから良いことが無いわ。一体何をしでかしたのかしら、と内心苛立ちつつ、急いで闘技場に向かう。向かう途中で、私の前を魔物使いが走っているのを見たので、すでに行動を起こしていたようだ。流石と言ったところだろう。
そして、私が駆けつけ、その目に見たものは、明らかにおかしいものであることを瞬時に察することを可能にするものだった。
大きくえぐられた闘技場、その地面はドロドロに溶けていて溶岩と化している。そして、まきあがるこの蒸気は恐らく地面の一部が蒸発したものだろう。この攻撃による被害はフィールドに収まらず、観客席にも響いていた。手前の方は崩壊し、その破片は黒く焦げている。後ろはとてつもない突風にさらされたのだろう、後方にむかって石でできた席が倒れている。観客がいなくて本当に良かった。強力な結界が張ってあってこれなのだ。なにもなかったら町に甚大な被害が出ていただろう。
「な、何だ、これは…ワイバーンはどこに行った…。」
ほぼ上の空と言ってもいい状態で魔物使いの男が呟く。そして地面を見て大きな影があるのに気がつく。
「そ、空に何か居ます!」
「何!?」
見上げた先、そこに居たのは明らかにここに居るには異質な存在。ワイバーンではなく、もっと巨大な、この闘技場より大きいであろう体躯、戦いを専門としない者でもわかるオーラ。まさしく、ドラゴンとも言うべき存在。その体表はまるで溶岩を纏っているかのように赤い、そう錯覚させる、血を求めているかのように赤く輝く鱗、岩だろうと、鉄だろうと、はたまたとてつもなく硬いと言われるアダマンタイトでさえも易々と引き裂き、噛み砕いてしまいそうな、そこにあるだけで死を予感させる爪と牙。そのすべてが恐ろしい。隣に居る上級と言ってもいい魔物使いでさえも、その表情は絶望に彩られている。それだけの冒険者でさえもそれしかできないと言うのに、私に何が出来ると言うのか。
そして、ドラゴンはこちらを金色の目でチラリとだけ見ると、興味を失ったかのように視線を遠くに移し、この闘技場に張ってある結界を容易く破り、何処かへ飛んで行ってしまった。それを見てほっとしたのを咎める者はいないだろう。私がドラゴンに挑むなど、アリがゾウに挑むよりも大きな差がある。そして、ここで重要なことを思い出す。
「あ、あの冒険者は!?」
そうだ、忘れていた。自分の中では最優先事項であった冒険者の安否の確認をしなければ、なぜそんなことをするのか、と言うとこちらが原因で冒険者に何かあった場合色々と面倒なのだ。普通に生きているか、跡形もなく消し飛んでくれればこちらもそこまで面倒なことはしなくてもいいのだが…
「おい、居たぞ!」
あぁ、見つけてくれちゃったよ、仕事が増えるなぁ…
「状態は?」
「原因不明の炎属性と思われる攻撃によって、膝の上あたりまでが無くなって、背中が黒く焼けています。生死の確認はまだです。」
「了解、こちらは応急処置の準備に入るから、生死の確認をお願いします。」
どうせ生きているわけ無いじゃない、仮に生きてたとしても応急処置でどうにかなるとは思えない。
一応だが、ポーションを持ってきて少しすると、確認を終えたのか、いつの間にか増えていた人員の一人がこちらに駆け寄ってくる。
「あの冒険者ですが、生存を確認したので、応急処置の準備をお願いします。」
「え?」
「ですから、生存が確認できたので応急処置を…」
「生きてるの?」
「先ほどからそう言っていますが…」
「なんかの冗談じゃ無くて?」
「はい。息もしているようですし…」
「分かったわ、じゃあ連れて行って頂戴。」
「あ、はい。こちらです。」
少しだけ歩き、大きなクレーターの反対側まで来て、布の上に乗せられている人を見つけた。
そこに居たのは確かにあの冒険者だったが、聞いた通りの怪我をしているにもかかわらず胸は上下していることから生きていることが確認できる。本当に何故生きているのか意味が分からない。
「確かに生きているようね。」
「はい、ですから早めに傷を塞ぎ止血しないといけません。」
「分かったわよ。始末書を書くのが面倒だわ…。」
「と言っても始末書で済んでいるあなたはともかく、あの魔物使いは憲兵に引き渡されていますよ。」
「その辺は私は納得いかないわね。」
「どうしてです?あんな危険な魔物を連れて来たっていうのに。」
「いいえ、連れてきたのは確かにワイバーンだったわ。」
「ですが、あなたが見たのはドラゴンだったと…」
「ええ、飛び去っていくのが見えたわ。」
「じゃあ何が起きたのでしょう。」
「さあね。私にはまったくわからないわ。」
「そうですか。」
と軽く駄弁りつつ持ってきたポーションを振りかける。傷は塞がってはいないものの、血は止まったようだ。そして
「ん?…あれ?」
と、間抜けな声を出しつつ、目を覚ましたようだ。傷の治りも早い。もしかしたらこれだけ治るのが早ければ多少ダメージを受けても大丈夫だろうとか思ってCランクを受けたのかもしれない。だとしたらただの馬鹿だろう。
「すまない、少し何が起きたか説明してくれるとありがたい。」
「あ、ああ。」
火球を喰らって気絶して目を覚ましたら周りが人だらけであります。何が起きたのか説明をしてくれとも言われたし、そもそも何が起きたのか俺も詳しいことはわからん。
「こっちも何が起きたのか分からないから、わかる範囲で良いか?」
「ああ。」
良かった、闘技場に空いているクレーターの説明までしろ、って言われてたら俺ちょっと詰んでた。
そして俺は戦闘の流れと、最後に俺が受けた一撃まで話して話を締めくくらせて貰った。そして次に向こうが言って来たことが結構衝撃的だった。職員が駆けつけたらドラゴンがいたこと、不運なことにもワイバーンを連れてきた人が逮捕…でいいのか分からないが、憲兵に連れていかれてしまったことなど。まあ俺はご愁傷様と言わせて貰おう。ドラゴンがいたことに関しては俺も全く分からないし。まあもしかしたら似た姿をしたワイバーンを殺されたから怒って出てきたのかもしれない。
「では、俺はこれでお暇させていただきます。」
「足が無くては移動ができんだろう。」
「気にしなくても良い。義足暗くらい創れる。」
「そうか。」
そして少し人を払ってもらって義足を創り脚につけてみる。うん、意識したわけではないが、ぴったりだ。このまま買い物して宿に帰ろう。この事件も早いうちに何とかしたいな。
時間が取れなくて短くなってしまいましたがお許しください。
決して遊んでいたわけではないです。




