物理と魔法で殴る
「なぁなぁ。」
「どうした?」
「人間ってさぁ、時々面白い奴居るよな。」
「そうだな、それがどうかしたか?」
「いや、こいつ見たら結構面白いなーって。」
「ふむ?…なるほどな。だが、」
「こいつの強さと世界が噛み合わない、だろ?」
「ああ。」
「それなら、少しいじれば良いんじゃねえか?」
「そうだな。そこは私に任せてもらう。」
「ん、じゃあ頼んだぜ。元の住民にあまり被害が出ないようになー。」
「分かっている。」
「なるほど…こいつは確かに面白いな。」
そんな呟きは先ほど話しかけてきた男にも聞こえなかった。
~???での会話~
上方には火球が迫っている。それから目を離さずに、腕に時間のある限り、魔力を集中する。
「な、何をしようと…。」
後ろで何やら言っているようだが、それには耳を貸さない。そして、それがぶつかる一歩手前、
「《ウォーターインパクト》!!」
水の魔力をまとった拳を思いっきり火球に叩きつける。水と炎の相性は水のほうが勝っているが、火球はとてつもない熱量を持っていたようで、大きな爆発が起きる。その影響で少し火傷をしたらしい。完全に俺が上回っていたならば爆発も起きなかっただろう。時間が足りなかったか。
ちなみに受付嬢は俺の陰に居たので爆発の影響を受けていない。あと、ウォーターインパクトなんて技は無い。
「…た、助かったの…?」
「良かったな。死ななくて。」
「だ、誰のせいでこんなことになったと思って、」
「まだ、標的を倒していない。文句なら後で言え。」
そう話を切るとブツブツと呟きながら端っこの方に逃げて行く受付嬢。やっぱり人間って黒いな。色々と。俺も人間だけど。
「そうだな…どうやって戦うか、せっかくだし、物理で行くか。」
と、戦闘の方針を決め、足元に巨大な岩の地面を創る。そしてそれをそのまま上に移動させる。こうでもしないと飛んでいるワイバーンに攻撃が当たらない。というか少しは降りてきたらどうだ。
「GUOOOOOOOOOOOO!!」
さっきの火球を防がれたことに怒っているのか、咆哮を放つワイバーン。咆哮は大体相手をビビらせて動きを止めるものだが、この程度ならば俺にとってはただの喧しい鳴き声でしかない。
「さて、第二ラウンドと行こうじゃないか。」
「GULUUUUUUUUU…」
飛びあがり、そのまま右から蹴りを放つが、翼があるぶん向こうのほうが有利だ。こちらの蹴りは避けられ、そのまま反撃とばかりに爪を振りおろしてくる。その爪は鋭く、並みの鎧なら容易く切り裂いてしまうだろう。しかし、俺はそれを両の足で受け止め、爪を使ってそのまま跳躍をする。こんな粗技ができるのは、最初の身体能力の強化のおかげだろう。
跳躍したところで次の攻撃の態勢に入る。ワイバーンの顔の近くまで跳んだところで足を真上に蹴りあげる。スキルに武術があれば良い戦法が思いついたのかもしれないが、今それを考えたところでどうにもならない。魔法を使えばいいのだが、肉弾戦をしながら魔法を使えるほど俺は集中力があるわけではない。次の動作につながらないため、そのまま創った足場に着地する。俺の蹴りはそこまで効いてはいないらしく、スピードを高めて突っ込んでくる。
「正面から突っ込んでくるのはいい標的だな。」
足をしっかりと踏み込み、体全体で腕を振りかぶり、突っ込んでくるワイバーンの顔を思いっきりぶん殴る。突っ込んできた方向とは真反対に吹き飛ぶ。手ごたえがあったものの、結構元気そうに飛んでいる。流石にタフである。でも竜種じゃないんだよね、こいつ。まぁその辺はまたあとにしよう。
近距離でだめなら、と言わんばかりに再び火球を連発してくる。今度のは小さく、威力もあまり大きくないものの、数が多い。だが、激しく動いていない今なら魔法が使える。
「《ウォーターシールド》。」
唱えたのは水の盾を作る魔法。さっき連発してきたのは威力がそれなりにあったため使えば蒸発しただろうから使わなかったが、今回のは威力が小さい。よってこの盾でも防ぐことができると踏んだのだ。数が多いため、一応三重に張っているのだが、それでも頻繁に張り替えている。
このままだと俺の魔力が尽きるだけだな。どうしようかな。
「GAAAAAAAAAAA!!」
どうやら向こうもこのままやってても俺を仕留められないと思ったらしく、またこっちに突っ込んでくる。よし、さっきもやった魔法打撃の練習台になってもらおうか。拳に纏わせるのは雷、続いて水の魔法をワイバーンにぶつける。これ自体では大したダメージは入っていないが、ずぶぬれの物に電気を流すとどうなるか、もちろん電気が体中に流れる。
「《サンダーインパクト》!!」
真正面から、相手の頭に叩き込む。電気が迸り、それはワイバーンの濡れた体に流れていく。電気ショックを受けたかのように、ワイバーンは吹き飛ばされた先で痙攣しながら落ちて行く。少しぐらいならこれで動きを封じられるだろう。一発大きいのを入れて弱らせるか。
「《インベントリ・フルオープン》、《MPチャージ》。」
ようやく作りすぎた武器達の出番がきたか。最初やった時はちょっとレッサーデーモンがかわいそうなことになったけど、ワイバーンなら大丈夫だろ。
「《ファイア》。」
その言葉と同時に俺の魔力を纏い、薄く紫色に光った剣が落ちて行くワイバーンに降り注ぐ。数は大奮発で3000ほど。見た目は…どこぞの慢心さんのお宝自慢を想像してくれればいい。
「さて、どうなったかな。」
結構狙いを粗くつけたので100本単位で外れているだろう。そのせいか、砂が撒きあがってワイバーンが見えない。これで攻撃されたらちょっとシャレにならない。よけられるとは思うけど。
「GUGUGUGUGUGUGUGUGUGU…」
煙がはれてワイバーンが見え始める。結構しっかりと生きてるな。ボロボロになったのは翼だけか。Cランクでこれだけ硬かったらAランクとか俺勝てないんじゃないかな。そうなると闘技場で戦ったSランクあたりの人って遊んでたことになるんだよな…。ちょっと俺浮かれたわ、これからはちゃんと修行しておこう。それと、まだ電撃のしびれが残っているらしく、痙攣して動こうとしないので決定打を打ち込むべく右手に魔力を溜めていく。数値的に40000くらい。右手が魔力で眩しいくらいに光ってるけど気にしない。さて、ワイバーンがこれで倒れてくれると良いんだけど。地面から飛び降り、拳を振りおろす先はワイバーンの背中。
「《アースクエイク》!!」
先に言っておこう、これに星を砕くほどの威力は無い。そしてこんな技も無い…はず。
流星が落ちるが如く振りおろされた拳はワイバーンを的確にとらえる。命中した瞬間には目も眩むほどの光と、轟音が響きわたる。結構とんでもないことをした気がするが大丈夫だろう。ワイバーンは体を貫かれたりはしていないが、ダメージは入ったようだ。口から血を吐きだしている。俺も魔力を使いすぎたな。しばらく逃げ回らないといけないかもしれない。と言うかなんでこれで死んでいないのか不思議でならない。このワイバーンだけ特別強いとかないよね?
「流石に疲れるな、まだ倒せないとなると、後どれぐらい戦えばいいんだ?」
ジャック・ザ・グリッパーを使うにしても相手が強いほど魔力消費が高くなるし、今の攻撃でMPが半分以上吹き飛んだからな…。ここは弱点を探して物理攻撃で叩くか。
「さて、早く見つけないと面倒なことになるな。」
残りのMPは20%ほど。それでも常人からすればものすごい量なのだが、俺が魔法を使うには少し少ない。観察眼を起動して相手の弱所を探す。ワイバーンはまだ動いていないので、それなりに時間をかけて観察することができる。しかし、ワイバーンは動かないことで翼を回復させているようだ。Cランクだけあって再生能力も高い。とっとと攻めるなら、さっきつけた傷も一応弱所に入るのだが、弱点に比べるとダメージの入り方は薄い。それに俺も観察しながらMP回復させてるし。
そんなこんなで見つけられないままワイバーンの翼が治ってしまい復帰許してしまった。しかし、今回はそれが良かったようだ。
「なるほど、これなら見つからないのも無理はないか。」
そう、ワイバーンの弱点は腹だった。地面に伏していたため外からは見ることができず、見透けられなかったのだが、復帰し、飛び上がったことで腹、つまり弱点を見つけることができた。逆に背中はそのままだとダメージがほとんど入らないようだ。俺のMPを返せ。
しかし、下から狙うとなると、尻尾の攻撃やら火球やらをよけながらの戦闘になる。ここは中級魔法を重ねて貫くか。
「《トリプル・アイスパイル》!」
3つに重ねられた魔法陣から出る、中級魔法の氷の杭は上級魔法には及ばないものの、それでも強力である。杭、とは言っても柵を作る時のようなものではなく、攻撃として使う物の為そのままでも太さは半径20センチ、長さは2メートルくらいあるだろう。それが三重に重ねられたので三倍の太さ半径60センチ、長さ6メートル、とか言うものではなく、もっと大きい小さめの塔のようなものが、地面から突き出す。それはワイバーンの弱点である腹をあっさりと突き破った。
「終わるときって結構あっさりしてるもんだな…。なんか拍子抜けしたな。」
だが異変が起きたのはその直後だった。
主人公はそこまで良いものを持っているのでお宝自慢は出来ていません。




