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都市

 悪が広がれば、善がそれを食い止め、光が続けば、悪がどこからともなく現れる。この世は終わりのないレールの上を走っている列車のような物だ。

 ~何者かの記述~












 大通りに面した商店街は賑わい、活気があふれている。瘴気など微塵も感じない。これだけの人数が居ても狭苦しさを感じさせないほどの大きな町。それがこの国の都市、イチヤである。その中心には大きな城が建っており、この国の中心であるということを認識させる。これだけの人がいるのは中心であるからこその物の流通がいいからだろう。

 しかし、それとは裏腹にやはりこれだけ広いと事件も起こりやすいものだ。しかし、この街の住民はそれすらも娯楽としてとらえ、行きすぎた行動をとるようならば、集団で止めにかかる、と言った良いような悪いような人の集まりである。


「うわぁ…」

「まずは口を閉じろ。」

「あ、うん。」


 手続きを済ませ10メートルはあるであろう門をくぐり町へ入る。俺の身分証は偽装済み、エレナの身分証は俺の物をまねて魔法で作った。結構セキュリティがあまいな。

 慣れていないのか、余りの人の多さに口をあけたまま棒立ちになっていたエレナを注意する。こんなところでそんな姿を見せたら変な奴みたいじゃないか。もしかしたら珍しくは無いのかもしれないが。


「ねぇ!あっちから良いにおいがする!」

「後にしろ。先に宿の確保と何処か空き家がないか探すのが先だ。」

「何で空き家を探すの?」

「しばらくここを拠点にして過ごすつもりだからな。」

「そうなの?」

「何か不満でもあるか?」

「いや、別に…」


 恐らくだが、彼女は魔界かどっかに帰ろうとしていたのだろう。ひと段落ついたら送ってやってもいいが、俺の中での優先順位は拠点を立てることだ。あると色々便利だからな。


「じゃあ、宿を探すぞ。それが終わったら、空き家があるか調べる。ひと段落ついたらその辺の出店で何か買ってやる。それまで我慢しろ。」

「うん!」


 俺が何か作るんじゃなくて、適当に保存食を食わせておけば面倒なことにはならなかったか?だが、あの村で出た料理で俺がこの世界の食べ物に興味が出たのも事実だしな…。この辺は妥協点か。


「まず適当なところで話を聞く。はぐれるなよ?」


 そういってエレナの手を握ってやる。俺もそこまで大きいわけではなく、いくら広い大通りとはいえ、それでも人が多い中で流されないとも限らない。俺よりも小さいエレナであればなおさらだ。


「…ん?どうした?」


 引っ張ってやっても歩かないエレナに声をかける。なんか目を見開いて口をパクパクさせているんだが…大丈夫だろうか。


「おい、どうした、起きてるか?」

「ぴゅっ!?」

「ぴゅ?」

「な、何でもない!」

「そ、そうか…じゃあ行くぞ。」


 危ない、もう少しで盛大に吹き出すところだった。もしかしたら父親に手をつないで貰ったことも無いのかも知れないな。恥ずかしかったんだろう。まあ俺はそういう趣味は無いから何とも思わないが。

 少しして、客に気軽に話しかけている店の主人らしき男がいたので、その人に話を聞くことにしよう。


「すまない。」

「ん?なんだい?」

「お勧めの宿と、空き家が無いか探しているんだが。」

「空き家は専門のところ行って聞いてもらわないといけないけど、宿ならわかるよ。」

「なら宿の場所を教えてもらいたい。」

「じゃあうちで買い物してくれ、それなら教えてやろう。」


 なるほど、なかなか商売根性の据わった奴だ。


「なら、この店のお勧めは何だ?」

「そうだな、値が張る物でいいなら、こっちの魔力供給薬8級かな。これは銀貨2枚でいいよ。安いものがいいなら、こっちの薬草。調合出来るなら、体力回復薬になる。値段は三つで銅貨5枚って所だな。」

「そうか。なら魔力回復薬を10個、薬草は50個ほど頼む。」

「え、良いのかい?そんなに買って。」

「金には余裕がある。そもそもそれだけ用意しておかなければ旅など到底できん。」

「そうかい。じゃあサービスで金貨4枚、銀貨5枚のところを、金貨4枚に負けようじゃないか。」

「助かる。で、宿の情報だが…」

「それなら、ここから右の2つ隣りの大通りをまっすぐ行って四番目のところだよ。看板を出しているからすぐにわかると思うよ。それと、空き家を探しているんだったっけ?空き家を探すなら、左隣りの大通り、左側の建物一番手前がそうだよ。」

「助かる。」

「じゃあ、またよろしく!」

「ああ、良いものがあればな。」

「なんかいっぱい買ってたね。」

「これから必要になってくるからな。」

「そうなの?」

「ああ、この街に居る間にお前には自己防衛用の防御魔法を覚えてもらうつもりだ。」

「できるかな?」

「大丈夫だろう。お前はもう体に流れる魔力を感じ取れるのだろう?そもそも、最初に会った時にも魔力を使ってたじゃないか。」

「そういえばそうだったね。」

「ならすぐに使えるようになるさ。」

「頑張る!」


 子供は好奇心旺盛でやる気もあるからいいよな。俺なんかもうグダグダだったからな。勉強に関しては特に。俺も小さい頃は色々手を出してたって母さんも言っていたんだが、俺はもうそのことを覚えてないし、今になっては常識とかがほとんど一致しない別の世界に来てるからな。

 まあそんなことはどうでもいい。先に宿に向かう。でないと部屋が無くなったりしそうだからな。そうなればここまで来たのに野宿になるか、このものすごく広い町で空いている宿を探すことになってしまう。


「よう、兄ちゃん。」

「有り金全部置いて行きな。出ないと痛い目見るぜ?」


 …こんなのにかまっている暇などないのに、邪魔くさい。まあ店であんな買い物すれば目もつけられるよな。つーか何だこのテンプレどもは、


「急いでいるんだ、どけ。」

「おお?かわいい嬢ちゃんまでいるじゃねえか。」

「こいつは上玉だ、高く売れるぜ。」

「売るんだったらその前に俺らで楽しんでも良いんじゃねえか?」

「そうだな、ウヒヒッ」


 こっちの話を聞くそぶりも見せない上に教育上良くない会話までしやがって。


「ねえねえ、上玉って何?」

「知らなくて良いことだ。」

「えー、意地悪ー。」


 ああもう、食いついたじゃねえか。この野郎ども。興味もった子供をごまかすのって結構大変なんだぞ。俺少しご立腹ですよ、まったく。


「おら、早く金とその嬢ちゃん置いていきな。」

「断る。」

「良いんだな?」

「よし、やっちまえ!」

「プ、プランク!」

「うるさい。」


 いつの間にかギャラリーも集まってきている。目立つのは嫌なんだけどな。仕方ないか。


「おらぁ!」

「遅いな。」

「は?」


 拳を振りおろしてきたので、身体能力に物を言わせてエレナを抱えて後ろに回り込む。何が起こったのか見えていなかったのか、男1が間の抜けた声を出す。男2は目の前から消えた俺達を探すようにキョロキョロしている。この辺で逃げるか。


「じゃあな。」

「あ、おい!待ちやがれ!」


 待てと言われて誰が待ってやるか。エレナを抱えたままギャラリーの間を駆け抜け、店主に言われたとおりの場所に行く。


「宿屋・肉の極…ここでいいのか?」

「私に聞かないでよ。」

「まあここでいいんだろう。」


 それにしても肉の極み、か。なんかここに泊まったら朝から肉食わされそうだな。正直あんまり居たくない。とは言っても、俺が知っているのはここしかないのも事実。まあ久しぶりに肉も食えるかもしれないから良いか。というか肉の匂いでよだれを垂らしてる残念幼女がこっちを何か言いたげな目で見てくるからさっさと入るか。


「失礼する。」

「お、兄ちゃん、宿泊かい?」

「そのつもりだ。」


 宿に入ると、結構気の強そうな、水色の髪と目をした、数年前ならまだ20代で通せたであろう面影の残った、それでもまだ若く見える女の宿主と、その奥の厨房でドタバタと色々やっている料理人が一人。あと二人くらい人を雇ってもいいんじゃないかな。


「今は一部屋しか空いていないんだ。二人で一緒の部屋でもいいなら用意できるが、どうするね。」

「プランクと一緒の部屋なんてヤダー!」

「じゃあお前だけ部屋を借りればいい。俺は適当に朝まで時間つぶせるからな。」

「一人もヤダ。」

「じゃあ何がいいんだよ。」

「…」


 そこで黙られても困る。先のことまで考えてから発言…はまだ子供だから難しいか。成長早かったりとかしないのか。いや、むしろ遅いかもしれないが。


「で、結局どうするんだい?」

「部屋を先に見ることは出来るか?」

「ああ、大丈夫だよ。」

「案内してもらえるか?」

「こっちだよ。」


 そう言って二階へとついていく。黙ってそのあとをついていくが、宿主俺にしか聞こえないくらいの声量で話しかけてくる。


「にしても、兄ちゃん。面白い連れ人だね。」

「なんのことだ?」


 エレナのことを言っているのだろう。魔族だと気づかれたか?まあ、コート着せて羽隠してるくらいだもん。気付かれるよな。


「私は昔冒険者やっててね、まだ勘は鈍っちゃいないのさ。何で魔族なんか連れているんだい?」

「こっちにも色々あってな。」

「ふーん。でもまあ何か問題さえ起こさなければいいさ。まだ子供みたいだしね。」

「助かる。」

「まあ長い間冒険者やってたからね、そこまで珍しくもないさ。一回だけだけど、人間と魔族が兄妹、なんてのも居たしね。」

「そうなのか。」

「そうなんだよ。その兄妹はどうなったかは知らないけどね。…着いたよ、ここの部屋だ。」


 案内された部屋は板張りの床にカーペットが敷かれ、こっちの世界にしては珍しく、ソファーらしきものが置いてある。ベッドは一つしかないが、俺がソファーで寝ればいいだろう。


「随分と良い部屋だな。」

「それなりに値段は張るけどね。」

「いくらだ?」

「一泊、銀貨2枚。」

「食事代は?」

「入ってるよ、それとここの料理は、宿の名前からわかるだろうけど、肉料理が主だから、胃もたれに気をつけるんだね。」

「ご忠告どうも。エレナは肉は大丈夫か?」

「うん。」

「肉以外に何かつくのか?」

「別料金でサラダとスープが頼めるよ。」

「あの厨房に居たのが大変そうなんだが。」

「ああ、あいつは私の旦那でね、掃除サボったから今日だけ罰として一人でやらせてるのさ。」

「そ、そうなのか。」


 おもいっきり尻に敷かれてるな。俺も気をつけないとエレナの尻に敷かれるかもしれないな。気をつけておこう。


「じゃあ今日からしばらく世話になる。」

「具体的には?」

「空き家が見つかるまでだ。」

「そうかい。」


 早く見つかると良いんだけどな、拠点。

話の進展が遅いけれど、私は反省しません。

むしろ、書きたいことを詰めていくのでもっと遅くなります(多分

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