危機感
「成果はどうだった?」
「すばらしいの一言だな。」
「そうか。」
「それにしても、あの銃だけでなく、もっととんでもないものもあるんじゃないか?」
「まあ、あるだろうな。」
「早くそいつも試してみたいところだ。」
「都市を落とすならまた渡してくるだろう。」
「そうだな。」
近代兵器による町の住民の大量虐殺、これが本当だとしたら、一体だれがそんな物をこっちに持ち込んだんだ?いや、それよりも先にこの状況をどうにかしないとな。最悪、無数のアンデッドを相手にしなければいかなくなる。
「おい、エレナ。…エレナ大丈夫か?」
「う、うぷ…」
「さすがにお前にはこれは厳しいか。」
まぁ、実際俺もこういうスプラッタなのは勘弁なんだけどね。早くどうにかしないと俺も吐きそう。
「空間と土地を浄化し、さまよえる魂を黄泉へと送らん、《プリフィケーション》。」
浄化の魔法を唱え終わると、あたりの空気が軽くなった気がする。同時にアンデッド化することはこれで防げたので、死体の処理をどうするかが問題だ。…というか、もう建物の陰で色々と戻し始めてるエレナがかわいそうになってきた。でも死体をインベントリに突っ込むのには抵抗あるしな…いっそのこと大穴空けてそこに全部放り込むか?まあ今はいいか。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん…何とか…。」
「これで拭いとけ。」
「ありがとう。」
「さて、ここからどうするか…」
「とりあえず、このあたりの死体を片付けないと、寝れないよ…」
「そうだな、じゃあお前は死体が見えないところで待ってろ。」
「うん…」
しかし、魔族なのに、人間の死体で悲しそうな顔とかするんだな。これは少し認識を改めないといけないかもしれないな。
適当に散らばっていた死体を大きめの家にまとめて、火をつける。こういうことにも抵抗はあるがこの際仕方がないだろう。そろそろエレナを呼んでくるか。
結構遠くに行ったのかもしれないが、気付かないようにエレナにマーカーをつけておいたから、大体の位置は把握できるようになっている。空間把握と併用すれば分かったも同然である。それなりに離れたところに居るようだが、周りには敵の気配が無いことを確認してから離れていろ、といったから何かに襲われることもない。
「おい、エレナ、終わったぞ。」
「そう、ありがとう。」
「明日は早めに出発する。飯はもうできているから、早く食べて寝ろ。そうしないと疲れが取れないぞ。」
「分かった。」
さてエレナが飯を食っている間に次にやるべきことを決めておかないといけないな。
安全確保のために、ここら辺に敵感知用の結界と、遠距離から攻撃されないように防御結界も貼らないといけないな。銃自体は大した脅威にはならないが、この世界だ。何かしらのエンチャントなどで強化されていないとも限らない。それに、エンチャントが無くても使っている素材の質が良ければそれだけで普通の物より強くなっている可能性もある。俺が狙われるならともかく、エレナに攻撃が行ったら致命傷になりかねない。
「まだ何か考え事?」
「ん?ああ。」
「私はもう寝るから、プランクも早く寝たほうがいいよ。」
「ああ。」
「じゃあ、おやすみ。」
エレナが俺がこの前作った色々と詰め込んだテントに入っていくのを確認する。そろそろ結界張っておくか。範囲は大体半径500メートルでいいな。防御結界の質も魔法陣を5つ重ねて強力なものにしておかないと、住民を殺したのは恐らくアサルトライフルとかその辺だろうが、ショットガンでも持ってこられたら、破られないとも限らない。
だが、これだけのオーバーテクノロジーをこの世界でやるにはそれなりに時間がかかったはずだ。作ったのが素人なら、設計図を立てる時点で難しいはずだ。となると、俺と同じ、向こうの世界から技術を持ち込んだ奴がいる可能性がある。大会の時も日本人っぽいのがいたしな。
やはり犯人がやるなら、次は向こうの都市を狙う可能性がある。そこで何人か捕まえて聞きだすか。まぁ実行犯は下っ端なのはお決まりと言っていいから大した情報は手に入らないだろうがな。
「…ハッ、しまった少し寝てしまったか。」
いつから寝ていたのかは分からないが目を覚ますと、すでに明け方になっていた。結界に何か引っかかった形跡もないから、とりあえず、この辺にはもう敵がいないと見ていいかもしれないな。
「エレナは…、まだ寝かしておくか。子供に明け方から起きていろ、というのは流石にきついだろうからな。」
そもそも、睡眠を取らなくても平気な俺がおかしいだけなのだが、さっき寝ていたのは恐らく暇を持て余し過ぎたのだろう。仮に寝ている間に結界に引っかかった奴がいれば俺に軽い電気が走って嫌でも目を覚ますだろうから、寝ていても大丈夫と言えば大丈夫なのだが。
だがエレナを起こすまでの間に何をしておこうか。適当にエレナでも使えそうな武器でも作っておくか?だがこいつが何を使えるか分からないしな。武器は起きたら何がしっくりくるか色々試させるか。
それにしても、こっちに来てから色々警戒ばかりしている気がするな。たまには何処かでゆっくりしたいものだ。忘れていたが、都市に着いたら拠点を立てるんだったな。そこでゆっくりすればいいか。それまでに都市が無くなっていなければいいが。
真っ暗な闇の中、部屋だろうとは思われるが、扉は無い。だがそこに二つの声が響く。その声は低く、人によっては寒気を覚え、不快な気分になるだろう。
「で、今回は何をするんだ?」
「そうだな。今のところ、このジュウとか言うのをしっかりと使える奴を育てているところだが…」
「別に育てなくても奴らを制圧するくらい簡単だろう。」
「いや、これを扱うのは結構難しいことが分かってきたんだ。いくら奴から受け取れるとは言ってもそれでも無駄遣いするわけにはいかんだろう。それなら、ちゃんと使える奴を育てて出来るだけ少ない消費で多くの敵を排除する。少なくなった消費分また多くの敵を排除できる。」
「そう言われれば確かにむやみに使って無駄にするのはもったいないな。」
「そうだろう。それに、ジュウにも種類があってな、種類によって使える弾が違うんだ。」
「そうなのか。」
「ああ、この片手でも十分に扱えるこれなら、この小さい弾でいいが、両腕で扱うこれはこの細長い弾、そこのスコープとか言うのが付いているのも同じ弾でいいそうだ。しかし、この口が大きく空いているこれはこの大きな弾でなければいかん。これは特に弾が少ないからなおさら無駄にするわけにはいかんのだ。」
「そうか、なら、向いてそうな奴を育てて使った方がいいというのも頷けるな。」
「そうだろう。だが、まだ都市に攻撃するには良いものが完成していないとも言っていたからな。まだ待機だ。」
「俺としては早くこいつを使って暴れたいんだがな。」
「あと一週間もあれば大丈夫だろう。」
「待ち遠しいな。」
その言葉を最後に、真っ暗の部屋のにある気配は消え、声もまた消える。何処かに移動したか、闇に交じるかをしたのだろう。
「おい、そろそろ起きろ。」
「ん、眩しい…。」
「もう日が昇っているからな。」
俺が起きてから、感覚的に約2時間。朝食の準備を済ませてからエレナを起こす。恐らく、野営とは思えない良い匂いがこの辺に漂っているだろう。だが俺にとってはこれが当たり前なので、そんなことは正直わからん。
「顔洗ったら、飯だからな。早くしろ。」
「うん。」
ここ数日でやけに言うことを聞くようになったなと思いつつ、インベントリからだした組み立て式のテーブルの上に作った朝食を並べていく。たまには他の物も作ってみようとは思うが、俺の知っている物を作るには調味料やら食材やらが足りない。
「終わったよ~。」
ちなみに、作ったテントには鞄と同じように空間魔法が仕込んであって見た目より中は広い。鞄に魔法を仕込むのは簡単だったが、テントなどのそれなりに大きなものになると結構時間がかかる。その辺は慣れとか、熟練度とかそんな感じの物で補うしかないだろう。
「いただきまーす。」
「召し上がれ。と言っても大したものではないがな。」
この前の騎士たちの朝食に比べると結構豪華なのだが、俺はこれくらいの物を当然だと思っている。騎士たちの朝食はカッチカチの黒パンと干し肉をあぶったもの、それと適当に水とか飲んでたな。俺も水以外の飲み物は調達できていないから、水だけは同じだが。
今日の朝食は前に貰った野菜を使った、サラダとそれに使ったドレッシング(向こうに居た時の物と比べるとモドキにも満たないが)、と調理スキルに丸投げして作った良くある白いパン、それとスープの残りに少し調味料を足して味を変えたものだ。苦労して手に入れた調理スキルでは無いせいなのか、宿で出てきたものに比べるとどうしても味が落ちる。時間があればちゃんと習得してみるか。
「ごちそうさま。」
…早いな。何がって?もちろんエレナが飯を食うのがだよ。まだいただきます言ってから5分くらいしか経ってないぞ。まったく、こんなんだと昨日までの緊張感が無くなるな。まあ危機感を持つのと焦るのは全くの別物だと俺は思っているがな。
危機感を持てば周りを良く観察でき、危険を察知、回避できるが、焦ってしまうと、視界が狭まり周りのへの注意が疎かになるだろう。結果的に事故に遭いやすくなる。
その点で言えば俺はエレナに感謝をするべきだろうな。昨日の俺は少し焦っていたかもしれない。冷静に考えれば、何者かが都市を落とそうとするならばそれなりに時間がかかるはずだ。それまでに向こうに着いて自己防衛ができるくらいにはエレナに魔法を教える時間もあるだろう。と言っても俺が教えなくても結構使えるようになっているようには見えるが。まあいいか。
「満足か?」
「うん!」
「じゃあそろそろ行くぞ。今日中には着くと良いんだがな。」
「そうだね。あっちに行ったらおいしいものあるかな。」
「知らん。」
「じゃあ、一緒に探そう?」
「呑気な奴め。探すなら自分で探せ。」
「やっぱり意地悪。」
「何か言ったか?」
「何でもなーい。」
俺達は丘の上からうっすら見える城に向かって歩きつつ他愛もない会話をしながら、出発の準備を続けるのだった。
なんだかんだ言って仲のいい二人でした。
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