勉強の時間
「本当に落とせるのか?ここを。」
「ああ。」
「しかし、どうやって?」
「簡単なことだ。人間は所詮人間、出来ることなど限られている。」
「確かにそうだが…」
「それにあの男が渡してきたアレを使えば一般人くらいならすぐに殺せるそうだ。」
「なるほど、アレを使えばいいのか…」
「そうだ。では私は作業に戻る。」
「まだつかないのか?」
「お前はその安定しない口調をなんとかしたほうがいい。」
「そうは言われても…」
「そうしないと、向こうについたとして、まともに会話できないぞ。」
「まぁ頑張ってはいるんだよ?」
「努力が足りん。」
「うう…」
会ったときからそうだが、こいつは人を見下すような口調になるときと、年相応の口調になるときがある。後者で会話をするならいいが、前者では一般人などの素養のある人ならともかく、傭兵や冒険者ではそうはいかないだろう。下手をしたらその場で切りかかられる可能性がある。前にそんな経験あったし。
「で、まだつかないのか、に関してだが、後半日も歩けば着くだろう。」
「半日もあるの…」
「そのくらい動いてられないと話にならん。俺についてくるなら、当然冒険者としての依頼も受けるから、それに対応できるだけの力をつけておけ。」
「うん…」
「…ところで、お前は何か魔法とか使えないのか?」
「教えてもらう前にお父様が死んだって言わなかったっけ?」
「知らん。そもそも何年父親と一緒に居たんだ?」
「私の種族は寿命が長くて成長が遅いから色々あるの。で、お父様と一緒に居たのは8年くらい。」
「結構長いな。それで教えてもらえなかったのか?」
「私がまともに喋れるようになったのは3年くらい前よ。」
「基本的な知識の教育を優先させたってことか?」
「そうなる。」
これは色々面倒だな。会った時も面倒だったが。魔法はとりあえず文字を教えてから本を読ませるとして、基本的な身のこなしとかは向こうに着いてからやるしかないか。
「仕方ない。俺は直接魔法を教えることはできないが、文字を教えて魔道書を読めるようにすることならできる。」
「本を読むだけでそこまで変わるとは思えないけどね。」
「実際効果があるのは確認済みだ。」
「そう。それで、文字を教えるとか言ってたけど、あなたに教えられるの?」
「辞書でも何でも色々ある。文字くらいなら簡単だ。」
やや疑わしそうな視線を向けてくるこの幼女。教わるのが面倒なのか、俺が相手だから嫌なのか。どちらにせよ覚えなければ後々こいつが困るか死ぬかするだけだから俺には関係ない。
「…この辺で休憩を入れるか。」
「ホント!?」
「嘘をついてどうする。」
「やった!ご飯、ご飯!」
「そういえばそろそろ昼時か。」
太陽の位置を確認しながら、おおよその時間を予想する。ほぼ真上に来ているから、昼と言ってもいいだろう。
「 創造、調理スキル・中」
俺自身は料理ができないので、調理スキルを魔法を使って創りだす。俺一人なら何の問題もなかったが、面倒な連れが居るので、仕方がない。アーネさんなら自分で色々やっていたからよかったんだが。
「ほら、出来たぞ。」
「わぁ~…」
約15分くらいで作った簡単なものだが、それでも何か感動的なものを見るような目で食事に目を輝かせている。本当にこれと言って大したものは作っていないんだが…。
ちなみに使ったのは、フレイとアルテ・レーゼで買った食料と、貰った野菜をメインに使ったスープと、小麦粉に似たような穀物を粉末にしたもので作ったパン。こちらは前に少し作ったものだったので、若干古い。とはいってもインベントリ内は時間が流れていないのだが。
「いふぁふぁきまふ!!」
「普通食べる前に言うだろ、それ。」
口いっぱいにパンを詰め込みながら言うこの幼女に突っ込みを入れる。この辺のマナーも早めに教えておかないと宿とかで飯をとった時に白い目で見られそうだ。
「満足か?」
「うん!」
「じゃあ、ここからが本題だ。」
「何?」
「さっきも言ったが、文字を教えることになる。これは自分の身分証明書を作るときだけでなく、読むのはもちろん、何かしらの契約をするときにも必要になる。」
「うん。」
「だから、まずは自分の名前を書けるようになるのが、最初の練習だ。」
「わかった。」
「で、お前の名前は?」
「エレーナ。エレーナ・エルファ・トーン・ファリオ。」
「…お前は何処かの貴族だったのか?」
「お父様が大きな力を持ってたから、結構上の身分だったみたい。」
「そ、そうか。」
少し長い名前に戸惑いつつも、紙にエレーナの名前を書き、ついでに文字の一覧も書いて渡す。
「…うわ、面倒くさい…」
「自分の身分を呪え。それと呼びにくいから俺はエレナと呼ばせてもらう。」
「え~…」
「文句言うなよ?動向を許可してる時点で考えてやってる方なんだからな。」
「じゃあ、私にも名前教えてよ。」
「名前、か…。」
本名使うのは色々拙いな。似たような名前で暴れちゃったし。となると、身分証も偽装しないとな。
「…好きなように呼べ。」
「え~、じゃあ、意地悪そうだから、プランクって呼ぶ。」
「…そうか。」
この世界に英語というか、なんというか、似たようなものがあるらしい。もしかしたら、実際に喋っているのは全く違う言葉で、勝手に翻訳されているのかもしれないが。でもなぁ、悪戯って呼ばれるのか…、何とも言えない気持ちになるな。
「それはいいから、さっさと始めるぞ。」
「うん。」
でも俺って基本教えるの下手なんだよね。どうしようか。向こうに居た時も、成績はそこそこ上の方にいた時があったが、その時に色々と教えてくれと頼まれて対応してやったんだが、最後に、すげー分かりにくかったけど一応参考にはなった。と言われたのを覚えている。それに、前に出て発表するときは大体、頭が回らなくって、回りくどいことを言い始めたりすることも多かった。…良いとこねえなあ、俺…。
それから30分ほど、続けていたら、俺の教え方はともかく、以外に呑みこみが早く、そのころには文字はとりあえず、全て書けるようになっていた。
この世界の文字は一度覚えてしまえば、記号のようなもの(俺にとっては、だが)を並べるだけで文章になるので書いたりするのがやりやすい。だが、書くことが多ければ並べる文字も多いので、ものすごい量になってしまう。この辺は大きな改革が起きるか、この世界の言葉が改竄されたりしなければどうにもならないだろう。
「意外と速かったな、覚えるの。」
「結構簡単だったよ、これ。」
「魔族は基本文字とかは使ったりしなかったのか?」
「うん。」
「じゃあ、どうやって連絡とか取ってたんだ?」
「遠距離連絡用の魔法があったの。」
「それで?」
「1分でMPを500くらい使って、遠いとこでもお話できたの。」
「そ、そうか。」
えらく燃費が悪いな。よくそんなんで大丈夫だったな。まあいいか。
さて、結構休んだことだし、先に行こう。もう日は傾き始めているしな。暗くなると、大した問題ではないが、魔物が面倒だ。戦うことに慣れていない子供一人守りながら相手するなんて面倒だしな。まあ、文字覚えたから後は魔道書読ませれば基本的な魔法は使えるだろ。
「おい、早くしろ。日が暮れる。」
「頭使って疲れた。」
「簡単だったんならそこまで頭も使わなかっただろう。」
「う…」
「あと、ほら、魔道書だ。進みながら歩いてたら時間も気にならんだろう。」
「ん。」
俺から魔道書を受け取ると前に渡しておいた鞄に入れるエレナ。あの鞄にはこっそり空間魔法を仕込んであるので、見た目より多く物が入る。
「もう夕方になっちゃったね。」
エレナの言う通り、すでに日は沈みかけている。しかし、まだ都市にはついていない。予定と比べるとずいぶん遅くなっている。だが、幸い町が見えている。
「すっかり遅くなってしまったが、町がある。そこで今日は宿をとるぞ。」
「えーっと、あの町?」
「ああ。」
エレナが指をさして確認をしてくるので、それで間違いないことを伝える。それなりの大きさの町にしては、妙に活気が無い感じがするが、気のせいだろう。望遠の魔法を使って確認もするが何処か目立っておかしいところはない。
「このままだと魔物が活発化するから少し急ぐぞ。」
そう言って足を急がせる。寝るような時間にはまだ時間があるが、宿についてから、魔法の使い方も教えるつもりだからだ。少なくとも自身の身を守る程度の魔法が使えるだけで、戦う時にエレナのことをいちいち気にしなくても済む。レベルを上げて防御力をあげたいなら、エレナに一回攻撃させて俺にとどめを刺させれば良いが、それだと入る経験が若干少なく効率も悪い、それなら、とっとと戦うだけの力をつけさせて一人でも十分にレベリングを出来るようにした上でも魔法が使える方がいいと思ったのだ。
「…ねぇ」
「何だ?」
「何か臭わない?」
「そうか?」
「うん、なんか、鼻にツンと来るような感じの臭い。」
「…」
俺も何か臭わないかと鼻を利かせてみるがこれといった感じの臭いは来ない。しかし、エレナには臭うらしい、魔族だから鼻もいいのだろうか、危機感知能力的には俺よりエレナのほうが上ということになるだろう。だとすれば、本当に急がなければいけない気がしてくる。
「俺は先に走って向こうまでいく、遅くてもいいから、魔物につかまったりしないように来い。」
「え、ちょっと、」
加速の魔法を使って、走りだす。近づくほど、エレナの言っていた鼻にくる臭いが濃くなってくる。そして、町の門をくぐったころには、その臭いは鉄を連想させる臭いに変わっていた。
「…こ、これは、どういうことだ…」
「急に走りださな…何、これ…」
少し遅れて到着したエレナが俺と同じように目の前の光景に、絶句する。
そこに広がっていたのは、黒く変色を始めている赤。鉄のような臭いと吐き気を催すような臭いに気分が悪くなる。
そう、町は目につく限り死が広がっていたのだ。町の人の死体には不自然な無数の穴があいている。死因は主にその何かによって心臓を貫かれたか、それによってできた傷による失血だろう。だが、俺の知っている限り、こんな殺し方を出来る物は無い。しかし、血の匂いとは別に何か鼻にくる臭いがくる。何処かで嗅いだ事はあるが、なんだろう。
臭いから何か記憶を引っ張りだす。体育祭、短距離走、花火…そんなことを連想させながら活気が無く、陰鬱な空気に包まれた町を歩いていると、何かが足に当たった。それを確認してみる。
「鉛の玉…そしてこの臭い…、まさか…」
大量虐殺の原因、それがこの世界にあってはいけない、まだ開発するだけの技術も無いはずの、銃によるものだったのだ。
最近手首が痛くなり肉体的に疲れがたまってますが、
精神が平気なら人間なんでもやっていけるでしょう。
諦めたらそこで終了ですもんね。
結局主人公が名前を呼ばれていない件について。




