魔族
人間、動物、植物、魔族、獣人、この世界は多彩な種族によって構成されている。
~記述 第18節より~
中に入ると、光の類はなく、それでも周りが確認できるほどには明るい部屋。それでも暗いことには変わりなく、そこかしこにある魔法陣の淡い光が良く見てとれる。
そして、その魔法陣を管理していたであろう、へやの真ん中の肘掛のついた椅子眠っている、自身の身長とそう変わらないであろう三対の黒い翼を持った人間とさほど姿の変わらない魔族と思わしき人。その様子は美しい金髪に似つかわしくない、力の入っていない垂れさがった腕、俯き、光の入っていない目、そしてその生気を感じさせない土気色の肌。恐らくすでに死んでいるだろう。それでもなお、扉の外側からでもあれだけの悪寒を感じさせるくらいの覇気から、生きていれば自分ですら勝つことができないと確信できる。
そして、魔法陣から目をそらさず、調整もあったもんじゃない魔力の注ぎ方をしている、椅子で眠っている魔族の子供であろう、小さいが同じ三対の黒い翼をもった見た目7歳くらいの少女。
こちらに気付いたのか手は離さず、こちらに殺気だけを向けてきている。
「随分と不安定な魔法陣だな。」
「うる…さいっ…人間ごとき…お父様が生きていれば…今頃っ…」
少女がそのまま汗を噴き出しながら答える。魔族とは言え魔法の扱いはまだ出来てないようだ。
それにしても男だったのか、あれ、魔族は結構見分けが付きにくいな。それにしてもこの場所でこの魔法が維持できなくなればこの結界もろとも俺も消えそうだな。ま、もちろんそんなことは御免なので、
「《マジック・クリエイト》、魔法解析。」
「な、何をっ…」
自分で出した魔法を押しつけ、解析を始める。不安定なこの魔法陣から大量の綻びが確認できる。そこから俺のMPを突っ込み…
「《ブレイク・コード》」
部屋中にあった魔法陣が一斉にバリンという音を立てて崩れさる。その衝撃で少女が軽い悲鳴を上げて吹き飛ばされたが、人間よりは丈夫だろうから平気だろう。
「一体何が…!!き、貴様ッ…」
「結界もろとも消滅、なんてことは起こらないぞ。」
「何?」
「俺がそう作り変えた上で魔法の効果を打ち消したからな。」
「そんなこと、お父様が作った結界で出来る訳が…」
「言っただろう。不安定だ、と。」
「そ、それがどう関係して、」
「不安定な物には綻びがある。そこは必然的に弱点となり、大きな損害をうける。たとえそれが魔法でもな。」
「く…、それで私をどうするつもりだ。」
「どうもしない。」
「何だと?」
「何かしたところでこっちには何の利益もない。俺がここに来たのは魔力のせいで起きた水質汚染を止めるためだからな。」
「そ、その程度の理由で私の、私たちの拠点を壊したというのか!」
「どちらにせよ、あのまま放っておけば死んでただろう。」
「…そ、そんなことはない!」
「ならばあの状態は何だ?周囲にまき散らしながらがむしゃらに魔力を注ぎ、それでぎりぎりのラインで結界を維持、出口を作ることすらできずにいたあの状態は。」
「そ、それは…」
「お前のレベルが低くてほとんど魔力を制御できていない。これが現実だ。」
「だ、だって…」
「あのままだったら10分も持たなかっただろうな。」
「…」
「俺が来なかったらあのまま父親と一緒に消えて無くなってただろう。まぁその父親の狙いとしては、自分を倒したものと一緒に消滅することで目撃者をなくそうとしていたのだろう。その辺はどんな理由があるかなんて興味はないから聞かないが、もっと魔力、魔法の使い方を覚えるべきだろうな。」
「…だって、私、そんなの教えてもらってないもん…」
「あ…しまった…」
「教えてもらう前に、お父様が…ひっく、死んじゃって、ぐすっ、うわぁぁぁぁ…」
言い過ぎてしまったか、泣きだしてしまった…。俺子供とかと遊ぶの苦手だからな…その辺は弟がよくやってたからあいつに聞けばいいんだろうけど、残念ながらここは異世界。俺の家族はいません。元気にしてるかなぁ…。
「…悪かったから、泣かないでくれよ…。」
「わあぁぁぁぁ…」
「参ったな、どうするか…ここはベタに、」
そう言って軽く魔法を使ってあるものを創る。そしてそれを少女の前に差し出し…
「アメちゃんいる?」
「…ひっく、ぐす、いる…」
この手の慰め方ってほかの世界でも通用するもんだな。それにしても話し方が変わったということは虚勢を張っていただけだろう。
「さて、次にこれは…どうするか。」
問題はこの少女の父親の遺体。それだけでも相当瘴気を持っているので、放っておいたら強力な魔物に変化しかねない。のだが、
「お父様…」
目の前で燃やしたりするわけにもいかないよな…素材として回収するか?
「…なぁ。」
「なに?」
「お前は父親をどうしたい?」
「どうって、何が?」
「このままだと魔物に変化する可能性が高いんだよ。」
「そうなの?」
「ああ。」
「でも、お父様と離れたくない。」
「そうか…じゃあ、こうするか。」
「え?」
「《クリエイト》、《クラフトマジック》―――」
「あ、お、お父様!ちょっと、何を―――」
「お客さん、そろそろお昼になってしまいますよ。」
「ん…ああ、すまない。手入れの行き届いた良いベットだったものでな。」
「ありがとうございます。お昼はどうなさいます?」
「お勧めの物で頼む。」
「畏まりました。では10分くらいしましたら、一階の食堂まで降りてきてください。」
「了解した。」
俺はあの後、村に戻って、抜け出したことが分からないよう、二階の窓から、借りた部屋に入り、即眠りについたのだ。昼過ぎまで寝るとは思わなかったが。ちなみにあの魔族の少女だが、俺がかかわるような問題ではないと思い、あの場に簡易的な人を寄せ付けない結界を張った拠点を創ってそのまま放置してきた。前にあった結界が無くなったことによる川の汚染は無くなったが、まだ食料事情が改善したわけではない。その辺は村の人たちで何とかなるだろう。
「そろそろ時間になるか。」
何やら一階から食欲を程よく刺激するいい匂いがしてきたので一階に移動する。
「あ、今ちょうど出来たところなんですよ。どうぞ召し上がってください。」
「料金は?」
「宿の代金に含まれています。」
「そうか。それじゃあ、ありがたく頂くことにする。」
見た目、ファンタジーの定番と言える黒パンと、味の薄そうなスープだったが、黒パンは予想していたよりはやわらかく、普通に噛み切れる硬さだった、少なくとも、ガリガリ食べるような硬さではない。次にスープだが、この地域では香辛料の類がとれるのだろう。唐辛子に似たような辛さの中には、じっくりと煮込んだであろう野菜の甘みが際立っている。これなら辛いものが苦手な人でもヒーヒー言って食べることはないだろう。正直、これが魔力として体の中で変換されているせいで腹が満たされることもないというのが何か心苦しいが。
「た、大変だ!」
「どうしたの?」
「は、畑が…」
何やらあわただしく一人の農作業用の服を着た男が駆け込んできた。一体に何があったのだろう。夢中になっていつの間にか空になっていた食器を置き、後についていく。すると…
「さっき見たら畑が急に元気になってて、野菜がものすごく良くなってたんだ!」
「まぁ、これならおいしい料理が作れるわ。」
「…俺のせい、じゃぁないよな…」
原因は分からないが、昨日は確かに俺には分かるほど邪悪な魔力が混ざっていた土が、今日になったらいきなり、俺の目には白く見えるほどの正常な魔力が畑一体に広がっている。周りを見てみると、他の畑も同じようなことになっている。良い意味で川に魔力が漏れ出してるかもしれないな。これで人が困らないなら放っておくけど。
「という訳だ、お客さん、これ良かったら貰って行ってくれ。」
「え、ああ、おう。」
いつの間にかこの二人の間で、話が進んでいたらしい。俺に野菜を分けてくれるようだ。くれると言うなら貰っておこう。さっきのスープもおいしかったし。これは、旅の中で食べ歩きをするのも悪くはないな。今更フレイで何も食べなかったことを後悔するとは思わなかったが。
後から聞いた話だが、宿の中にかけ込んで来た男はここの店主らしい。そうでなければ駆け込んだりはしなかったかもしれないが。
「すまないが、そろそろ俺はこの村を出るつもりだ。村長には世話になったと言っておいてくれ。なにしろ忙しいというのにいきなり押しかけて宿まで用意してもらったんだからな。」
「お客さん、もう行っちまうのか。」
「この野菜使って何か食べさせてやろうと思ったんだがね。」
「料理は次来た時にでも馳走になろう。あと、一番近い町か、都市は知ってるか?」
「ああ、ここからずっと北に行ったところにこの国で一番でっかい国の首都がある。」
「そうか、恩にきる。」
視界の隅っこのマップに印をつけ、村をでる。
出るときに村長らしき人物が頭を下げてきたが、たかが一日泊まった程度の冒険者にやけに親切すぎてはないだろうか。気にしても始まらないので気にしないが。そんなことを考えつつ歩いていると前方に人影がみえる。あれは…
「あ、いたー!」
「ハァ…」
「私も連れてって!」
「断る。」
「な、なんで?」
「仮に連れて行ってもいいが、守ってやらないぞ。」
「それでもいい!」
「だが断る。」
「拠点壊したくせに。」
「なるほど、もう一度説教のフルコースが味わいたいと見える。」
「フン、あの程度もう何でもない!」
「そうか。」
「それに、無理矢理置いていこうとしたくせに。」
「それは、まぁ…面倒だったから。」
少し時間はさかのぼる。
「《クリエイト》、《クラフト・マジック》」
「あ、お、お父様!ちょっと、何を―――」
「《クラフティング》。媒体選択、確認、不確定名・魔族。魔力変換開始。」
「何を…」
「お前の父親がいい素材になりそうだったんでな。形見かなんかとしてこいつの魔力でお前のコートでも織ってやろうと思っただけだ。」
「そんなこと…」
「再構成、型・上半身用防具、工作完了。…ほら、出来たぞ。」
「これが、お父様の…」
「じゃあな。」
「待って!私もついていく。もう一人で居たくない…」
「…拠点作成。捕縛結界。」
「え?ちょっと―――」
とまあこんな感じで適当に作った拠点の中に突っ込んどいたんだが、流石に抵抗力が大きかったか。割と早く結界からでてきやがった。これ以上付き合ってられないな。
「…ついてきても構わんが、自己責任でな。」
「…ありがとう。」
顔を赤くしてお礼の言葉を言ってくる。出来るだけ早く何処かに置いていかないとな。
見た目幼女にも近い子供を泣かせた上に
小さな部屋に閉じ込める見た目15歳の主人公ってどう思います?




