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結界内ダンジョン

 自己防衛の本能はどのような生物であれ、ときに強力な力を示す。

 ~世界の記憶 第2024章 第11節 17章~











「なるほど、やはり簡単には犯人を見つけられないか。」


 結界の中に入って、少し頭を悩ませる。なぜなら、結界内部は普段の冒険者としての活動で迷宮やダンジョンの類に入ったことが無いから断言はできないが、恐らく巨大であろうダンジョンだったからだ。自動散策を使ってもオートマッピングができず、こんなところで大きな魔法をつかおうものならばダンジョン、自分もろとも結界を破壊しかねない。そんなことになれば、お世話になっている村にも当然被害が出てしまうだろう。


「やっぱりそろそろ武器が必要になってくるのか。」


 武器が必要になるのがここまで早くなるとは思っておらず、何の対策もしていなかったことを後悔する。かろうじて剣術がFランクだが、フレイに居た時の先輩冒険者の話だと、Fランク程度の武術じゃ実戦ではとても役に立つとは思えないという話だった。

 ちなみに剣術、槍術、その他の武術全てにおいて一度使えばF-ランクのスキルくらいなら手に入る。だからと言ってあちこちに手を出してばかりではスキルの伸びが悪くなってしまうので、普通の冒険者や騎士、その他の戦闘を主としている職業の人は多くてせいぜい3つくらいしか手を伸ばさない。


「ここで実戦に使えない剣で戦ってもな…いっそのこと何か創るか。」


 と、何でも創ってしまえばいいという何か残念な発想で乗り越えることにする。


「剣みたいに一定の経験が必要にならない物じゃないとすぐに役に立たないからな。誰でも使えて余り技量の要らないもの…銃でも創るか?となるとどうするか…」


 銃を創ると決め、しばらく思考を巡らせる。その結果思いついたのが、


「7発装填型の魔法銃だな。これにしよう。」


 この魔法銃の構造は属性を刻んだ空の薬莢に魔力を通すことで弾を発射する簡単なもの。薬莢は使いまわすことができるが、それでも限界があるのでそれなりの頻度で取り換える必要がある。なお、この銃にリロードの概念はなく、リボルバーを回し属性の変化を行う。魔力を通し、引き金を引くだけで弾が出ると言った、一般に出回ってしまえば一般人が戦えるくらいの性能を持っていることをまだこの時は理解していなかった。また、この銃は魔力を込めると、アルテ・レーゼの時に使ったスコープなどが自動発動される仕組みになっている。


「…少し試し打ちでもしておくか。」


 そう言ってダンジョン内に勝手に壁を創り、何発か撃ってみる。着弾地点は何処か現代じみた画面に映し出されるので照準を合わせるのは簡単だ。しかし、発射までに弾生成のラグがあるのと、魔力伝導率が余り良いとは言えず、改良が必要になってくるのも事実だ。

 この辺の物作りは繰り返しやっていれば、スキル:品質向上のランクアップによってどうにかなってしまう。このラグや魔力伝導率は今は我慢するしかない。


「さて、武器はこれでいいとしよう。しかし、森の中の結界だけあって中も森なのか…」


 そう、森。どこからどう見ても、森。暗くてよくはわからないが青々とした葉の生い茂った森。正直、日が昇っても光など微塵も入らないだろう。


「悩んでても仕方がないか。」


 と仲間がいないことによりはげしく出始めた独り言とともに前に進む、が


 ビンッ


「---ッ!!うわっ!」


 意図的に設置されたであろう罠に引っ掛かり、前から有刺鉄線のようなものを巻きつけた太い丸太が襲いかかってくる。


「…この結界をはった奴はそこまでして人を近付けたくないのか?」


 それにしては、罠の危険度が低い。打ちどころが悪ければ死ぬかもしれないが、それなりの冒険者ならさっきのように引っ掛かったとしても瞬発力で回避できる程度だ。


「罠があるのは少し面倒だな。それにしても結界内だけあって魔力も濃いな。なかなか面倒なことになりそうだ。」


 罠に注意を払いつつ、このダンジョンの攻略を始めるのだった。






 数十分後、


「扉?何故こんなところに、しかも中からは魔力とは違う、何かが漏れ出てるな。」


 森の中、少し開けた空間に森では似つかわしくない扉が一つ。中から悪寒を感じさせる何かを発散しつつ存在している。


「流れからすれば、ボスがいるのだろうが、何の対策も無しに入るのは気が進まないな。」


 普通の冒険者なら何かしらの補助魔法をかけ先制攻撃をされないように中にはいるだろう。しかし、


「ここはあえて、突っ込んでやるか!」


 ひとつ気合いを入れ、扉を蹴り飛ばし、中に侵入する。そこに居たのは…


「…これは、またすごいな。」


 そこに居たのは大人を横に5人くらい並べてもそれでもまだこっちの方がでかいであろう、巨大な木だった。流石にフレイにあるほどの大きさではないが普通の木と比べると遥かに大きいことに変わりはない。

 そして、周りには先ほどと同じように木が生えていて、逃げる道をなくすかのように扉が消える。この木の後ろに道があるようだが、何かしらの方法でふさいでいることが分かる。


「地面の下から攻撃か、やはり植物系の魔物はどこからでも攻撃できるように根をはり巡らせているのは変わらないか。」


 あらかじめ植物系の魔物と戦ったことがあるからわかる、攻撃方法。まれに違った攻撃をしてくるものもいるが、大半は地面から自身の根と突き出して攻撃してくる。この辺までなら十分Eランクくらいでも対処できるだろう。しかし、悪寒を感じさせるほどの何かを持っているということは、それだけでは終わらない、ということだ。


「次は葉を飛ばして枝でも攻撃か。なかなか多彩な攻撃方法だな。」


 葉をまるで手裏剣のように飛ばしてくる。それを魔法銃で撃ちぬく。防がれていることをちゃんと認識しているのか、枝でも攻撃を仕掛けてくる。枝から撃った葉は即座に生え換わるので、弾数は無限と言っていいだろう。また、直接攻撃を仕掛けてくる枝についている葉も鋭くなっているのでのこぎりで切りかかってきているようなものだ。もちろんこれも魔法銃で撃ちぬく。属性は火にしているので普通なら延長して燃えるのだが、燃え移ったとほぼ同時に自らその枝を落とし、再生させるのできりが無い。


「《オクタグラム》!《ファイア・ライフル》!」


 ならばと、数に物を言わせた弾幕で相手を集中攻撃するべきと踏んで、魔法陣を展開、魔力の補給を続け、長い時間撃ち続ける。手に持った魔法銃ではこちらを狙ってくる葉を撃ち落とす。

 それなりの時間、防いではいたようだが、再生が間に合わなくなり、幹に被弾する。そこから徐々に燃え広がり、やがてそれは全体を燃やし始める。


「これで決着だな。」


 と、銃を腰にさし、後ろを向いた瞬間だった。無数の枝と根がこちらに攻撃を仕掛けてきたのは。


「しまっ---」


 声はかき消され、無数の枝によるざわざわとした音と、木が焼けるパチパチとした音だけが残る。相手を突き刺した枝はそのまま相手を逃さず、球を作り確実に、キシナミ自身が放った炎で焼き殺そうとする。そのまま木は燃え尽き、火が消える。すっかり炭化した球体となった枝が崩れる。そこから出てきたのは、


「…初めての、重症といったところか…」


 そこかしこに火傷を負い、刺された傷から多量の血を流しているキシナミだった。


「残りのHPは2割程度か。くそ、体が重い…《ヒール》。」


 10回に分けて行った治癒は徐々に出血を抑え、傷をいやす。それでも傷が深かったのか、10分以上時間がかかった。そして自分で創った装備は枝が貫通したせいでボロボロになっている。


「ここで少し休憩にするか。MPもそれなりに消費したし、装備もまた創らないとな。」


 そして、服を創りなおし、探索を再開したのが約5分後である。野営をするキシナミは薪のかわりに炭化したこの木を持っていったことも記しておこう。






 大きな木の魔物の後ろにあった道の先は罠ではなく、魔物の比率が高くなっていた。普通に出てくる動物型の魔物ならともかく、植物型の魔物では現時点での自動索敵スキルでは敵を見つけるのが追いつかない。それも相まって、所々で、小さな傷を作りながら進んでいるキシナミだったが、


「毒沼か、また面倒な物を…」


 現在、毒の沼の前で、足を止めていた。普通ならば回り道をすればいいのかもしれないが、あの中ボスのようなものの後から、太い蔦が壁を作り無理やり一本道にしているため、どうしてもここを通らなければならない。幸いなのが、10メートルほどあるとは言え、向こう岸が見えていることと、試しに棒を突っ込んでみたところ、そこまで深くはないということだった。しかしいかに無理やりに通れるとは言え、出来るだけダメージを受けたくないのは当たり前だ。流石に何十分もここで止まっているわけにも行かないので、出来るだけ消費を抑えて進もうと策を練っているのだが、余りいい案は浮かんでこない。


「空中浮遊は練習が必要だって聞いたし、沼を凍らせるなら、中の上くらいの魔法が必要だし、どうするか…あ、テレポートすればいいか。」


 そしてたどりついた結論、彼の魔法なら、いかなる魔法でも使えるという利点を生かし、普通の冒険者ならまず出来ないであろう方法で、沼を越える。


「しっかし、ここまでくると本当にチート臭いなこの魔法。」


 もちろん、この魔法が使えるのは仮にも彼が神だからであって、普通の人間がこんな魔法を使おうものならば、大体の場合、脳が焼き切れておわりだろう。

 まれに、儀式魔法に失敗して昏睡状態に陥る人間がいるが、これも魔法の処理で脳に多大な負荷がかかっているからである。そのため、儀式魔法や大魔法などの強力な魔法を使う場合はしっかりと修練をつんだものか、レベルの高いものである必要がある。


「さて、次が本当にダンジョンボス、といったところかな。」


 沼を越え、魔物を蹴散らしつつ進んだ先には、これまたこの場には似つかわしくない、黒い扉。

 その扉は木でできているにも関わらず、圧倒的な存在感と、ものすごい豪華な造りとなっている。そしてそれを超える、悪寒を通り越し、一般人のみならず、下手をしたら中級の冒険者までもが背筋を凍らせるであろう、魔の気配。それを前に俺は気を引き締め、扉を空ける。

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