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次の旅路へ

 人間の本気と言っても、余程の状況ではない限り能力の100%を使用することはできない。

 ~世界の記憶 第2024章 第10節 31項より~











「さて、色々ありましたが、そろそろ時間となります。この大会最後の試合、ウィナーズ・バトル!対戦方式はバトルロワイヤル、各部門優勝者一名ずつによる試合です。今回はどんな試合になるのでしょう!非情に楽しみです。なお、この試合で勝ち残った選手には部門優勝賞金に金貨500枚が上乗せされます。」


 さて、やっとアーネさんを苦しめた奴をボコボコにすることができるのか。それにしても俺とハヤト以外ランクSS以上か、面倒なことに…はなりそうもないが、多少邪魔くらいにはなるだろう。


「それでは選手の入場になります!まずは剣部門、その圧倒的な速さと剣技によって上のランクの物を容易く倒し、この最後の試合に出場する権利を得たAランク冒険者、ハヤト・カミカゼの入場です!この試合も彼の圧勝に終わってしまうのでしょうか!?」


 俺が唯一警戒しているこの謎の男、ほぼ確実に日本人と言っていいだろう。俺の勘がそう告げている。


「続いて、前回もこの試合には出られたものの、あと一歩のところで総合優勝を逃してしまった、槍部門優勝者、エルロット・シャークの入場になります!はたして前回の雪辱を晴らすことはできるのでしょうか!?」


 自分の身長よりは少し短めの魔力を漂わせている槍をもった、この男。正直試合開始とともに退場になりそうだ。


「三人目、鈍器部門優勝、前大会総合優勝を勝ち取ったこの少女!!その圧倒的破壊力、剛力、そして何よりも自らの身長を大きく超えた巨大な鈍器を振りまわす、マーズ・シャルロッテ!!しかし、そんなことするとは思えない可憐な容姿は別の意味で破壊力を持っています!!」


 時々居るんだよな、こういう残念な女子。見た目いいのに行動が無駄にパワフルで逆に誰も近づけない奴。


「そして、魔術部門!突如現れた謎の人物、その見たこともない魔法で敵を圧倒!最高ランクの人物すらも降参したその強さ!一体何者なんだーー!レイ・キシナミーー!!」


 さて、試合開始はまだかな。魔力余り過ぎてダダ漏れなんだよね。いつものことだけど。


「それでは、試合…開始イイイイィィィィ!!」


 実況者が最高にハイになってやがる。


「この一撃は、痛いぜぇ!!アースジャベリン!!」

「うわっ!」


 槍の男が地面に槍を突き刺すと俺の足元から巨大な鋭い岩のようなものがつき出る。上に飛んで避けたが、


「不用意に飛ぶなんて馬鹿ね!グランドインパクト!」


 鈍器をもった残念美女がスキルによって巨大化したその武器を上からたたきつけようとしてくる。これはまずい。


「《フォートレス・シールド》!!」


 さっきも使った防御魔法。今のところ実戦で使った内最強の防御魔法、しかし


「その程度で防げると思わないことね!」

「なっ───ぐぅ!!」


 相手の一撃は予想以上に強く、防御は易々と砕かれ、威力を落とす気配もなく強烈な一撃が俺を襲う。

 前回総合優勝は伊達じゃないようだ。


「倒れてる暇はないぜぇ!スマッシュスピア!」


 打撃系の槍技とか斬新過ぎる。ハヤトはさっきから剣で攻撃が見えないあたり端っこの方でこの様子を観察しているのだろう。

 だが、優先すべきは迎撃だ。俺の体力は余裕があるとはいえ、痛いものは痛い。


「《バブルスフィア》!」

「甘いッ!」


 一瞬だが、泡のなかに相手を閉じ込める。これによってわずかだが狙いがそれたようだ。あたることに違いはないが。


「めり込んでいるのに打撃なんて喰らったらめり込むわ。容赦はないんですか…」

「ない。」

「ないわ。」

「そうですか。」


 真顔で言われた。少しぐらい手を抜いてくれたっていいじゃないか。


「そろそろこっちも攻撃させてもらおうかな。」

「魔法を唱える時間をあたえるとでも?」

「時間が無いなら作ればいいじゃないか。」

「は?」

「何言ってんだ、お前。」


 どこぞの処刑された女王のような考えだが、実際時間なんてないなら創ってしまえばいい。俺の魔法にはそれができる。いや、実際に時間を創れるわけじゃないから言葉のあやなのだが。


「誰も私の時間に足を踏み入れることはできない。」















 目の前の少女を注意深く観察し、次の行動を予測する。このくらいこのレベルになれば朝飯前だ。

 しかし、見れば見るほど私より上のランクを降参させたとは思えない。まあ魔法は詠唱時間という致命的な弱点があるので、魔法を打たせず攻撃をすれば無傷で倒せる。前回の大会の魔法使いも強力な魔法を持ってはいたが、使わせなければどうということはない、という考えで真っ先に撃沈させたのを覚えている。


「不用意に飛ぶなんて馬鹿ね!グランドインパクト!」


 先の槍の男が放った技をよけるために上に飛んだ少女に一撃必殺ともいえるべきのスキルを放つ。それを何やら巨大な盾を出して防ごうとしていたが、この武器で砕けない盾は無い。盾を砕き、そのまま武器を叩きつける。

 直撃した感覚があったのでしとめたかと思ったが、どうやらHPはあるようだ。地面に埋まっている。なかなかしぶとい少女だ。そのあと、槍をもった男の攻撃をかろうじて急所から外し、立ちあがると、


「めり込んでいるのに打撃なんて喰らったらめり込むわ。容赦はないんですか…」


 とか弱音を吐いてきた。勝てないからと言って相手のせいにする奴が私は一番嫌いだ。なのでもちろん答えは、


「ないわ。」

「そうですか。」


 苦笑いをしながらそう答えたが、


「そろそろこっちも攻撃させてもらおうかな。」


 と、余裕ぶった態度をとってきた。実力の差は見せつけたというのに、まだ勝つ気でいるらしい。さっさと降参してくれればこちらも楽なんだけどなぁ。しかし、


「魔法を唱える時間をあたえるとでも?」


 魔法なんて唱えられなければ何の意味もなさない。わずかな時間、ラストワードだけだろうと唱えさせるつもりはない。のだが、


「時間が無いなら作ればいいじゃないか。」

「は?」


 不可解なことを言ってのける少女一瞬、ほんの一瞬、隙を与えてしまった。


「誰も私の時間に足を踏み入れることはできない。」

「しまった!!」

「《クロノスワン・プロトラクション》。」

「何!?」


 次の瞬間目にしたのは、背後にに12の小型魔法陣を円環状に浮かべている少女、その華奢な体を守るように、盾のように周りに規則正しく並んだ8つの中型魔法陣、そして何より絶望的なのが、空高くにこの辺一帯を覆っているであろう大きさの魔法陣を浮かべていることだった。


「それに、詠唱もラストワードも唱えずに魔法を打ち出せる魔法陣を用意しておけば、どれだけ動いてても問題ないしね。これが、《カーニバル》。今の私の最強魔法。」

「…フッ、少し驚いたが、これだけの魔法陣を同時に扱える奴などこの世に存在はしない。」

「ああ、そうだな。」


 いつの間にか私の近くに移動してきていた槍の男が私の考えに首を縦に振る。


「試してみる?」

「やってみろ、この俺に対して!」

「右に同じ。」

「後悔、しないでくださいよ。魔力供給開始、オートマジック発動。エンチャント・自動追尾。」


 一連の単語を言い終わった途端、魔法の嵐が降り注ぐ。いつの間にか、魔法陣が数を増していたのだ。


「こんな、馬鹿な───」

「ありえない───」


 そんなことを言い残し、二人は退場した。












「で、いつまで隠れてるのかな。ハヤト・カミカゼ。」

「…なんだ、やはりばれていたのか。」

「なんとなく、ではあるけどね。」

「そうか。で、お前には悪いが、俺も降参させてもらう。」

「…私は君に対してとても腹を立てているんだけど?」

「…?そうなのか。」

「一回戦の相手。」

「…ああ、あの赤い髪の。」

「そう。私が考えた通りなら、なんかのスキルで悪夢状態にしたんだと思ったけど、違うかな。」

「…俺が使用したのは、闇属性のスキルだ。特性として、負の感情や、トラウマなどが想起されてしまうことがある。」

「…つまり、わざとではないと?」

「ああ。」

「こちらとしては少なくとも彼女に謝ってほしいんだけど。」

「この試合が終わったら謝罪に向かう。それで勘弁してくれ。」

「…その言葉、信じていいんだね?」

「ああ、俺は約束は守る。」

「じゃあ、君の降伏を認めてあげるよ。」

「ああ。と、言うわけだ。審判、俺は降参する。」


 すると、


「どうやら、決着はついたようです!この試合ウィナーズバトル勝者は、レイ・キシナミーーー!!」


 その宣言と同時に観客が沸き立つ。今まで結構静かだったような気がするが、気のせいだろうか。


「そして、今大会の総合優勝もレイ・キシナミとなります!!」


 二度、沸き立つ観客たち。さっきよりも歓声は大きかった。

 表彰式と、優勝賞金を受け取り、ハヤト・カミカゼを捕まえてアーネさんの所まで行く。


「…あなたは、一回戦の…」

「申し訳ないことをした。」

「え?」


 さっきまで警戒心MAXだったアーネさんの顔が虚をつかれたように愕然としたものになる。


「一回戦の時は、予期していなかったとはいえ、ひどい目にあわせてしまったらしい。本当にすまない。」

「え、あ、あの…」

「過去のトラウマを想起させて許してくれとは言えないが、これからも冒険者として頑張ってほしいと思った。」

「え、あ、はい。」


 反応に困っているのが丸見えだなー、とか考えながら、二人のやり取りを少し離れて観察する。


「ああ、仮とはいえ、上級冒険者からのアドバイスを言わせてもらおう。」

「何でしょう?」

「君は水の魔法より、火の魔法のほうが向いているのかもしれないということと、長剣ではなく、短剣を使った方がいいかもしれない。」

「そ、そうですか。」

「では、俺も暇なわけじゃないからこれで失礼させてもらう。キシナミ、それとアーネ…と言ったか、またどこかで会おう。」

「次会うときは、本当の意味で決着をつけたいものだ。」

「ハハ、勘弁してくれ。」

「では、アドバイスありがとうございました。お元気で。」

「そちらもな。 転移(ワープ)。」


 それだけ言い終わると、彼は俺達に背を向けて何処かに行ってしまった。


「…さて、私も旅に出るとしますか。」

「え?もう行っちゃうんですか?」

「まぁ一応。」

「それはないんじゃないかな、キシナミ。」

「ああ、ウル、どこに行ってたんだ?」

「色々あるのさ。」

「そうか、でも、私が旅に出ることを曲げるつもりはありませんから。」

「いやでも、私まだキシナミさんに借金返してないです。」

「いいんですよ、そんなこと。これあげますから、これからもがんばってください。」


 そう言って、一番最初に作った全属性に耐性のあるマントを渡す。


「いいんですか、こんなすごいものホイホイ渡して、しかも私なんかに。」

「ええ、いくらでも手に入りますし。ところで、ウルはどうするつもりなのかな?」

「そうだなー、次にキシナミと会うまで、アーネと一緒にいるよ。」

「そうか、じゃ、私もそろそろ失礼しますね。」

「…さみしくなります。」

「私は会おうと思えばいつでも会いに行けますから。」

「そうですか。」

「では、失礼します。」


 そう言って俺はここに入ってきた門とは反対側の門から町を出た。

零児がレイ・キシナミ、と名乗っているのは零児だと見た目に合わないから、

という理由です。



ここで話的には一章が終わったとこですかね。これからもがんばります。

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