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格の違い

 本当の力とは、仲間を思う心ではないだろうか。

 ~世界の記憶 第2024章 第11節 22項~











 治療室から出た俺は、そのまま宿の部屋へと帰り、ベッドの上で寝ていた。


「…ハヤト・カミカゼ、一体何者だ?」


 呟きながら、さっきの試合を思い出す。

 試合開始と当時に、魔法と似た何かによって自身を加速、時間の流れをほんの一瞬だが遅くしたのを感じた。アーネさんの後ろに回り込んでから、剣を鞘からは抜かず、黒い、恐らくアーネさんが悪夢を見た原因となるスキルのオーラを剣にまとわせ、そのまま後ろから首筋にむかって一撃を加えた、といったところだろうか。実際あれをやられた場合俺でも見ることはできるだろうが、避けるのは難しいだろう。

 それはともかく、奴は本戦で優勝したらしい。奴の戦いを控室から見た二回戦、三回戦の相手は棄権し、決勝で戦ったSSSランクの冒険者すらも圧倒したらしい。俺が言えることではないが、本当に人間なのか?それと、俺の対戦カードは明日発表されるらしい。とにかく、俺は奴をブッ飛ばさないと腹の虫が収まらない。

 夕方くらいだが、もう休んでおこう。






 次の日、起きて宿屋の食堂にいくと、ウルとアーネさんはすでに朝食を終えていた。それと、本戦の対戦カードが決まった。SSランクの冒険者だそうだ。正直、見ているところの違う俺にとってはただの邪魔でしかない。試合開始は今から約十分後。ウルと、あとアーネさんに声をかけておこう。


「ああ、キシナミ、やっと起きたのかい?」

「まぁ、少し寝過した感じかな。」

「試合まであと十分ないじゃないですか!急がないとだめですよ!」

「分かってますって。では、私は失礼します。」

「ちゃんと観に行きますから、頑張ってください!」

「言われなくてもわかってますよ。」


 そして闘技場、控室。もう選手の点呼は始まっていたようだ。


「Fランク、キシナミは居るか?」

「はい。」

「もうすぐ出番だ。準備しておけ。」

「分かりました。」


 時間まで、あと3、2、1、


「時間だ。健闘を祈っている。」


 俺は静かに、闘技場へと入った。割れんばかりの歓声があたりを包み込んでいる。そして、向かい側に立つのが、一回戦の相手だろう。種族はエルフだろうか。ヒトより長めのとがった耳をしている。容姿は若く見えるが実際は200歳を超えているだろう。


「手加減は、しない。」

「そうですか、じゃあこちらも本気で行かせていただきます。」


 軽く一言、二言、言葉を交わし、その後少しの沈黙が広がる。…そして


「試合、開始ッ!!」


 開始の合図がでた。…実況者は昨日とは違う人物のようだ。


「…《グラビティ・バインド》。」


 足元に黒に近い、紫色の魔法陣が広がる。結界型の魔法か、珍しいな。


「これで、あなたは動けない。《プチ・メテオ》」


 上からの岩石というには大きく、星と言われれば笑ってしまうような、何とも言い難い大きさの岩がものすごい勢いで落ちてくる。


「これで、おしまい。」

「…これで、───なんだって?」

「え?」


 むこうが目を大きく見開いてこちらを凝視してくる。

 俺は落ちてくる岩に向かって、一つの魔法を使う。何かを掴む動作を行い、


「掴んだ、術式。《コード・ブレイク》。」


 魔法の発動と同時に手を握る。

 魔法を使うに当たって必ず使う魔法陣、その魔法陣には大量の情報が圧縮されている。

 例えるなら、ゲームのプログラムの入ったファイルだろうか。その中にある情報、つまり魔法を構成している術式を破壊した。そうなればプログラムの失われたゲームと同じように魔法は意味をなさなくなる。つまり魔法は消える。


「そんな、でもまだあなたは結界の中…。まだ打つ手は、」

「ないよ。《クリエイト》、《ホーリースピア》。」

「───ッ!!」


 相手に無数の光の槍が降り注ぐ。もはや小規模の流星群だと言ってもいいだろう。俺の魔力だと創れる槍の数は130万本ほどだ。それ一本一本がBランクの魔物を一撃で消し飛ばす力を持っている。1200本ほど投下し、発動を止める。目の前には槍が刺さっているだけで人影は見当たらない。俺の勝ちだ。

 しかし、これだけの魔法を使って崩れない闘技場は一体どんな構造をしているんだ?


 まあ、今はおとなしく次の出番を待とう。…ん?足音がこっちに近づいてくる。歩いている音ではないな、明らかにドタドタ、とまではいかないが、あわただしい走ってくる音だ。そして少しするとバン!という音で扉が勢いよく開けられる。


「キシナミさん!」

「アーネさんでしたか、どうしました?」

「すごいですよ!SSランクを圧倒するなんて!」

「でも決勝ならほぼ確実と言っていいほどSSS以上の人と戦うんですよ?」

「そうでしたね、でもキシナミさんなら優勝できますよ!」

「せいぜい頑張りますよ、それと警備員の人とか来たら面倒なことになりそうなので、早めに戻った方がいいですよ。」

「そうですね。次の試合も頑張ってください。」

「分かりました。」


 Fランクにも関わらず、本来は同じ人間とは思えないほど強い力を持ったSSランクを倒したのは後にも先にもキシナミただ一人である。そして、ランクSSS++の選手以外が全て棄権した、という伝説が語り継がれるのはこの時本人には想像すらできなかったのは言うまでもない。


「え~…と、言うわけなので、魔法部門決勝戦を開始したいと思います…」


 もちろん、そんな事態が起これば予定が大きく狂い、形容しがたい、微妙な空気が流れるのも当然と言えるだろう。


「…本当にFランクなのか?あんた。」


 そう言ってくるのはSSS++の本来では足元すら見ることのできない高見にいる冒険者。


「一応、そうですが。」


 正直に答える以外方法が無い。仕方が無く懐からFランクの冒険者証明証を取り出し、相手に見せる。それをみた相手は苦虫をかみつぶしたような顔で、


「世の中ってまだ広いもんだな。」


 とか言っている。


「そ、それでは試合、開始ッ!!」


「《エレメントブラスター》!!」

「《フォートレスシールド》!」



 瞬間虹色に輝く、某宇宙戦艦の主砲みたいなビームが打ち出される。とっさに出した魔法陣8つを重ねて出した、現時点で俺の見せることのできる最強の盾で防ぐが、このまま消耗戦に持ちこまれると…ん?


「参った。」

「え?」


 光が消えるとそこには、地面に頭をこすりつけている最高ランクの冒険者がいた。


「ちょっとまって、何で降参なんかするんです!?」

「いや、だって今の邪神ですら一撃で吹き飛ばすくらいの威力持ってるんだよ?そんなの防げるなんてありえないでしょ。勝てるわけないじゃん。それに俺まだ人間辞めてまで頂点に立ちたいわけでもないし、いやおかしいだろ、だってオタクFランクだろ?それにまだ子供だろ?将来性とか考えるだけで気が遠くなってそのまま昇天しそうだわ、しかもこれだけの防御力持ってるってことは同じくらいの攻撃力を持ってるって考えるのが普通だろ?そんな攻撃くらうどころか見るだけでトラウマになって毎日夢に出てくる自信があるわ、だから俺の負けです、調子にのって最高ランクまで登ってるけど、今日井の中の蛙だ言うことを思い知らされました。ごめんなさい。許してください。俺の負けです。」

「一言でお願いします。」

「降参します。」

「わかりました。」


「…こ、この試合キシナミ選手の勝利となります。」


 観客席からは歓声ではなく、え~、などといった不満の声が聞こえる。


「そ、それでは両選手、退場してください。」

「はい。」

「わかった。」


 退場し、総合戦が始まるまでの時間は自由にしていていいと言っていたので、アーネさんを探す。が、その必要はなかったようだ。


「キシナミさ~ん!」


 思いっきりダッシュで手を振りながらこっちに来る彼女の姿が確認できるまで、控室をでて20秒とかからなかった。


「ゆ、優勝おめでとうございます!」

「ありがとうございます。でもまだ総合優勝取ってないですし、私もまだ気が晴れたわけでもありませんから。」

「あ、そうでしたね。総合戦も頑張ってください!」

「総合戦だけ、特別に本気でやるので楽しみにしててください。」

「はい!」


 そういい残して残りの時間を潰すために町へでる。店空いてるかなぁ…。











「…あんな大勢いるところで本気なんか出したら目立ってしょうがない。勝ちに行ったわけじゃないから別に降参でもよかったんだけど、やっぱり釈然としないな。もう少し戦っとくべきだったか…」


 頭を抱えながら独り言をつぶやく黒髪、黒眼の男、先ほどの決勝でキシナミと戦った相手である。その時はフードとローブで姿がまったく確認できなかったため、この黒い髪と目を見られ、キシナミに目をつけられることは無かった。


「向こうからこっちに来て三カ月、ようやく話が通じそうな奴を一人見つけたわぁ…。日本が懐かしい…。」


 この男は仮にもSSS++の功績を持っている。それだけの実力を持っていれば正体を見破る事は造作もない。その証拠に、一目見ただけでハヤト・カミカゼが同じ日本人であることは確信できていた。しかし彼はさっきの規格外の存在も同郷であることには気づいていなかった。

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