大会・剣術部門、第一、第二試合
力を持たない者は上をみて成長するが、頂点に立っているものは何をみて成長するのだろう。
~世界の記憶 第2025章 第9節 16項より~
さて、とりあえずは観客席のほうに移動してきたが、アーネさんの試合の前に第一試合がある。どうやら、この試合の対戦カードはBランクとAランクのようだ。そして二人の入場とともに実況が始まる。
「剣術部門、最初の対戦カードは~。これだぁ~!!二年前、Bランクの時に初出場し、Aランク冒険者と互角の勝負をしていた、十分に剣豪と言っていい腕前を持つ、ドラン・クランスぅ~!!彼は今でもなお成長を続け、現在ではAランクに上ってきている!今回はどんな勝負を見せてくれるのでしょうか!?」
…ノリノリの実況ですか、俺こういう紹介苦手なんだよね。
「対する相手は~大会初出場!予選で幾多の相手を吹き飛ばした、大剣を豪快に振り回すこの男、ザルク~!この試合でドラン相手にどのような戦いを見せてくれるのか、楽しみです!」
大剣使いか、大体3メートルくらいあるな、あの大剣。大型のモンスターでもあれで粉砕しようって魂胆かな。
「それでは早速、試合開始~!!」
大きなドラの音と同時に動いたのは大剣の男。対するAランクのほうは…あの細身の剣はレイピアだろうか。大剣の男がそれなりに近寄ったところで自分を軸にしてハンマー投げの要領で振りまわし始めたな。俺からすれば大きな隙でしかないが。レイピアを使うほう、ドランだったか、は上に飛んでそのまま突き刺すつもりらしい。
「おおっとザルク、いきなり攻めてきた!しかしドラン一歩も引きません!それどころかカウンターを仕掛けに行きました!」
大剣の男、ザルクが剣を上に振り上げる。ドランはそれに剣の切っ先をぶつけ、そのままザルクから離れた場所に着地した。なにもなかったかのように落ち着いているが、ザルクはもう息が上がっている。一撃必殺タイプか。
今度はドランのほうから動いた。ジグザグに相手を翻弄するように迫っていく。ザルクは目で追えていないように見える。だが、懐に入られたのは分かったようで、大剣を正面に構えるが、その時にはすでに背後に回っている。そのまま突きを3回ほど放ち、バックステップで距離をとる。そんな簡単には終わらせないようだ。
「おっと、先にダメージを受けたのはザルク~!!やはりAランクが相手はきつかっただろうか!?」
ザルクは背中の痛みに顔をしかめてはいるが、戦意は喪失していないらしい。まだ諦めていない目の色をしている。しかし、レイピアに何かしらの特殊効果があったのか、動きが鈍い。
「おおっと、ここでザルクの動きが止まった~!!」
これはもう決まったかな。最後に悪あがきくらいならしそうなもんだが。
「さて、ザルク…だったかな。」
「ああ。」
「残念だけど俺の勝ちになりそうだな。」
「そうだな。」
「次の大会までにはもっと強くなれると思うぞ。」
「…そうか、だが俺は最後に悪あがきをさせてもらうぜ。」
「そう来ると思った。だってまだ目から光が消えてないからな。」
「じゃあ行くぜ、俺の全力だ!」
「正面から受けて立とうじゃないか、ザルク!」
「おっと!?何やら二人が会話を交わしたあと、いきなり周りの空気の流れが変わったぞ~!?一体何をしようと言うのか~!?」
…なるほど、これがBランクそしてAランクの本気か。二人の剣はいたって普通の剣に見えるが、それを大きな、オーラとでも言うべきだろうか、が覆っている。一撃に必殺の力を込めたこの攻撃はうまくしのいだほうが勝つだろうな。この考えに確信を持てるほど今のあの二人の力は膨れ上がっている。
「来た来た来た来た来たーーー!!ドランの必殺、竜王殺しだぁ~!」
なるほど、竜王殺し、ね。本で読んだことだが、この世界の竜はとてつもなくかたい鱗で覆われている。これは一部の大技、または特定の武器でしか貫けないらしい。桁違いの攻撃力でも行けるらしいが。まぁ、それはともかく、ただでさえ強い竜の、王とも呼べる存在、それの鱗を紙のように引き裂き、そのまま一刀両断出来ると言うのだろう。しかし、あの細身の剣で大丈夫なのだろうか。
ザルクの方の必殺らしき技は見た感じでは恐らく剣に周りの空気を圧縮、それをそのまま切れ味か爆発力に変換するというものだろう。この場合、ザルクが切れ味に変換させるというのであればドランが勝つと思われるが、爆発の場合、爆風によって吹き飛ばされ、ドランが戦闘不能になるだろうな。
「ザルクも全力を尽くして立ち向かうつもりのようです!おお!?ザルクの大剣からすさまじい爆発が起こりました!!その衝撃で何も見えません!!」
しかし、次の瞬間、舞い上がった煙は引き裂かれ、爆発の衝撃は起こらず、圧縮されていた風はバラバラになったように見えた。そして、そこに立っていたのは、
「ドランだ!ドランが立っているゥーー!!流石と言ったところです!!」
まさか相手の攻撃すらも引き裂くとは思わなかったな。竜王殺しと言っているだけあるか。
…これ、俺総合優勝できるのかな…
「ザルクの姿は見当たらなァーーい!第一試合、ドランの勝利です!…では、ここから10分ほどの休憩に入ります。次の試合の選手は準備、観客の方はしばらくお待ちください。」
アーネさん大丈夫かな…。相手はAランクだし、勝負と言える勝負すらさせてもらえないような気がする…。俺は休憩時間は新しい魔法でも考えておくか。それにしてもここの大会、武器の種類結構少ないんだよな。剣と槍と鈍器と魔法だろ、時々あと一種類くらいでるらしいけどな。槍と鈍器は見なくていいや、どうせ使わないし。時間の都合で魔法は明日だし、アーネさんが終わったら帰ろう。
魔法…創造…なんかそれと言っていい案が湧かないなー。ウルは宿に帰って暇つぶすって言ってたし、ヒント貰うならやっぱりすぐ帰った方がいいのかな。…おっと、もう時間になるのか。
「続いて、第二試合はー…大会初出場!まだEランクと発展途上と言えますが、予選を勝ち抜いた腕を見せていただきたいと思います!期待の新人、アーネ・フレイルゥーーーー!」
フルネームそんな名前だったんだ、知らなかった。
「そして風のように現れ、風のように去っていく、最後に現れたのは6年前、今も変わらずAランク、疾風迅雷の速さをもった、赤い疾風、ハヤト・カミカゼェーーー!!」
日本名?まさかな俺と同じような感じでこっちに来たやつなのか、それとも日本と類似した国があるのか…、なら俺もフルネームを参加者名簿に書いておけば…いや、今は試合を見るべきだろう。
「それでは、試合…開始ィーーー!」
開始と同時に、フッという音とともに、ハヤトの姿が歪み、次の瞬間にはアーネさんの背後に立っていた。すでにアーネさんの姿は闘技場内にはない。もう治療室に転移したのだろう。…ぶっちゃけ俺には見えていたけどな。しかし、周りの観客、実況者もそのことに気がつくのに約十秒ほどかかっていた。そして、
「ッハ、な、何が起こったのでしょう…いつの間にか片方の選手が消え、ハヤトが移動しています!アーネの姿はありません!この試合、ハヤト・カミカゼの勝利となります!」
その実況で観客は我に返ったようだが、それでもざわめきが絶えない。それよりも、俺は治療室に行こう。アーネさんが心配だ。あれだけの奴が相手だったのだ、何か精神的に参っていないとも限らない。
コン、コン、コンと三回ノックをして治療室にはいる。
「失礼します。さっきの試合のアーネ・フランクはいますか?」
「ええ、本人も試合では何が起こったかわかっていないようだけれど。」
そう答えてきたのは、白衣を着た桃色の髪の女性。こっちの世界にも白衣ってあるんだな。身長は160くらいだろうか、つい見上げてしまう。135の身長が憎い。
「ありがとうございます。…アーネさん、起きてますか?」
そう呼びかけながら彼女を囲っているカーテンをあけると、
「ひぅ…ぐすっ…」
泣いているアーネさんの姿がそこにあった。こちらを見る目は出会った最初の頃のように、何かを疑い、警戒している。そして、綺麗な蒼い目はくすんだ色をしている。
「どうしたんですか?」
「ひっ…」
小さく悲鳴をあげ、そのまま黙りこんでしまった。そこまで相手が怖かったのだろうか。
五分ほど向き合っていると、アーネさんが静かに口を開いた。