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伯爵領 アルテ・レーゼ

 矛盾を含むからこそ、人であると言えるだろう。

 ~世界の記憶 第2090章 第7節 24項より~











「そろそろ着くぞ。」


 そういって目の前の兵士、エクストリオが話しかけてくる。


「では、私たちの仕事ももうすぐおわりですね。」


 たった一日のことではあったが、それでもいつも宿に泊まって過ごしていた俺にとってはいい経験になったと言えるだろう。


「そうだな。で、報酬の件だが…」

「一体いくらくらいになるんですか?」

「大体金貨5枚くらいになるだろう。一人、5枚だ。」

「そうですか。良かったですね、アーネさん。」


 と、アーネさんのほうをみると、


「フフフフフフフフフ…」


 ニヤニヤと黒い表情で笑っている。正直、怖い。


「ああ、そうだ。」

「どうしたんですか?」


 エクストリオさんがこっちに向き直って少しにやけながら話しかけてくる。嫌な予感がする。


「昨日の夜の話だが、ちょうどいいことに今度武道会があるんだ。」


 ああ、やっぱりか、


「でも私は剣術も武術もできませんよ?」

「それなら問題ない。一応カテゴリーというか、とりあえず色々と別れてやるんだ。もちろん魔法部門もあるぞ。」

「いやいや、でも私ランクFのいわば雑魚に当たるやつですし。」

「む、そうか。そういえばそうだったな。」


 とても残念そうに肩をすくめている。よし、これで何とか参加は回避でき…


「しかし、Fランクでも参加している奴は大勢いるから大丈夫だろう。できるだけ同じランクで戦うように配慮もされるはずだしな。」


 だ、誰か救いの手を差し伸べてくれ…


「大会ということはもちろん賞金とかでるんですよね!?」


 アーネさんが食いついてしまった。もう駄目だ、参加は不可避だ。


「ああ、でるぞ。部門優勝で金貨100枚、総合優勝で400枚加算される。」

「ご、500枚ももらえるんですか!?」

「総合で優勝出来ればの話だ。貴様らにはあまり期待はしていない。ただ、明らかに本気じゃないと判断した場合は罰金でも科させてもらおうかな。」

「…アーネさんは何の部門に行くんですか?」

「そうですね、やっぱり剣ですかね。」

「そうですか。私は出たくないんで頑張ってください。」


 俺が強いと思われているということは、アーネさんも強いと思われていると考えていいだろう。寄って俺はアーネさんに任せて参加を…


「貴様も出ろ。むしろ出ないとお嬢様から何か面倒事を押しつけられる可能性がある。ここだけの話、罰金とかよりもお嬢様の我が侭のほうが非常に…」

「聞こえておりますわよ!エクストリオ!」

「し、失礼しました!お嬢様!」


 そう言って馬車の窓から顔をのぞかせたお嬢様。やはり一介の兵士では頭が上がらないか。


「失礼ですが、まだあなたのお名前を伺っておりません。この機会に教えてはいただけますか?」

「そうでしたわね、え~っと…キシナミ様、でよろしかったかしら?」

「はい。」

「あの時は助かりましたわ。私から後でなにか報酬を出さなければいけませんわね。お父様にでも頼もうかしら。」

「いえ、そこまでしてもらわなくても結構です。」

「これは私が決めることですわ。渡すと言ったら渡しますわ。」


 なるほど、貴族はやはり我が侭だ。


「…忘れるところでしたわ。私の名前はエリシア・アルティエル・レーゼ、この伯爵領を管理しているアルベト・アルティエル・レーゼの娘ですわ。」

「ご丁寧にありがとうございます。」


 …なんか今更になってすっげー失礼な態度取ってた気がしてきた。向こうについて即投獄とか、ないよね?


「さて、着きましたわよ。」

「そ、そうですか。」

「どうかしましたの?」

「…大会、出ないとダメでしょうか…?」

「ええ。」


 ああ、胃がキリキリする。人前に出たり、大勢に見られたりするの苦手なんだよ。いや、まあそれなら何でライブなんかやってんだって話だけど。

 とりあえず、身分証を出して町に入る際の検査も終わり、仕事はここで終ったのだが、


「キシナミさま、私の屋敷に招待しますわ。断るなんて、言わないですわね?」

「はい…行かせていただきます。」


 何とかこの場所から逃げなければ、俺の胃に穴があいてしまう。早急に手を打たなければ。


「ところで、大会の開催はいつなんでしょうか。」


 アーネさんが目を光らせながら近くにいた兵士に聞く。


「そうですねー、えーっと?ああ、2日後だよ。」

「聞きました?キシナミさん!これなら一度帰らずに観光していれば期日になりますよ!」

「そうですね…。」

「がんばれ、キシナミ。」

「ウル、君も出るかい?」

「わ、私は遠慮しておくよ。戦闘にはあまり向いていないからね。」


 おのれ、こうなったら自棄だ。とことん暴れてやる。


「ああ、言い忘れていたが、大会の中で死亡率が一番高いのは魔法部門だぞ。」

「そんな危険なことやらされそうになってるんですか!?私!」

「いやー要するに本気でやらないと死ぬぞってことだ。」

「そんなに危険なら無くなってもおかしくはないはずでは?」

「いつもそれは会議の議題に上がるんだが、それでもこの街に住んでる人は好いているわけだ。それと、10年ほど前にとある魔法使いがやってきてな、それで死亡に関しては解決したんだ。」

「それに、魔法部門は見ていて一番綺麗ですのよ。」

「もうやだ、この世界…」

「そんなに綺麗なんですか?」

「ええ、確か三年前は火の龍をだしたり、5年前は対戦相手が氷の塔に閉じ込められたり、去年なんかは七色の花火が上がったですの!」

「それは楽しみですね!期待、してますよ?キシナミさん。」

「で、その魔法使いは何をしたんですか?」

「決闘結界と言うのを張っていってな、HPが必ず1残るようになって1になった時点で医務室に転移されるようになった。」

「随分と複雑な魔法を使える人がいるんですね。」

「あれには皆、驚いたものだ。」

「そうですわね。」

「じゃあ、これで想いっ切り魔法を使えますね!」


 皆で俺の胃に集中攻撃をしないでくれ。しかし、それだけ演出が必要となるとやっぱりLV上げとかないといけないな。明日は、いや今日の午後からLV上げに専念しようか。でも屋敷に呼ばれてるし、これを理由に途中で抜け出せるかな。






 歩いて20分ぐらい経っただろうか。エリシアさんは馬車に乗ったままだ。しかし、


「あれが私の、私の家族がいる屋敷ですの。」


 そういってエリシアさんが指差したのは、城とまでは行かないがそれでも予想していたものより遥かに大きい屋敷。お手伝いさん何人雇ってるんだろう。あれ10人程度じゃ掃除しきれないぞ。


「お父様ー、今帰りましたのー。」


 そういってバーン、と豪快に扉をあけるエリシアさん。あなた伯爵令嬢でしょう。もう少しおしとやかにしていないといけないのでは?と思って


「…エクストリオさん。」

「どうした?」

「いつもこんな感じなんですか?」

「今回は割とおとなしかった方だぞ。馬車の中で暴れなかったからな。それにいつもは扉を蹴りで空けている。」

「そ、そうですか。」


 これで自重していたのか。そんな豪快、というかお転婆なのかエリシアさんは。この世界にはまともな貴族がいるといいな。そもそもそれだけできるんだったらあの冒険者たちくらい蹴散らせたんじゃないかな。

 ウルとアーネさんが中に入って行ったので俺も入る。すると


「おお、やっと帰ったか!我が愛しのエリシアや!」


 あれがエリシアさんの父親なのだろう。青い、見るからに高そうな服を着ている。見た目はエリシアさんと同じ青い目に、よく目立つ、流れるようなエメラルドグリーンの短髪。


「あなたは本当にエリシアのことが大好きですのね。」


 次に出てきたのは恐らく母親の方だろう。ウェーブのかかった長めの金髪がそっくりだ。しかし目は淡い黄色の目をしている。


「ただいまですの。お父様、お母様。」

「ああ、おかえり。」

「おかえりなさい、エリシア。ところで後ろの方々は…」

「この方は…」

「ム…」


 なにか、父親が睨んできている。何か失礼なことでもしただろうか。もしかしたら跪いて頭を下げないといけなかったのかもしれない。


「貴様には決してエリシアをやらんからな!」

「はい?」

「ちょっと、お父様!」


 エリシアさんが顔を赤くして父親に向かって声を上げる。それにしても、何を考えているのだろう。この人は。


「キシナミさんはそんな人ではなく…」

「エリシアは黙ってなさい。」

「あらあら、エリシアあなたも成長したのね。」


 お母さん、ウフフなんて笑ってないで止めてください。とりあえず向こうの勘違いを解かなければ。


「お言葉ですが、私は少し自分でも変わっていると思いまして、性別はありません。」

「「「え?」」」


 三人とも声をハモらせて固まってしまった。






「なるほど、気が付いたら丘の上に倒れていた、と。そういうわけだな?」

「はい。」

「しかし、性別が無い、とは一体どういうことですの?」

「エリシア、それは繁殖を必要としない、つまり神様や位の高い生物によく表れる特徴なのよ。」

「ですが、私は亜人ですよ?」

「まあその辺は置いておこう。」

「そうですか。」

「だが、何があっても貴様にエリシアはやらんからな!」

「キシナミさん。」

「なんでしょう。」

「気が付いたら丘の上に居た、なんて話聞いてませんよ?」

「忘れてるだけじゃないですか?」

「で、ここに来たのはどういう理由だ?」

「それは…」

「それは私がお話ししますわ。」

「わかった。」

「キシナミ様は、向こうの町で襲われかけていたところを助けてくださったんですの。」

「何!?襲われただと!おのれ、これだから冒険者どもは…!」

「話は終わっておりませんわよ?」

「おお、すまない。エリシア。」

「で、その冒険者から守ってくださった魔法がすごかったんですの!」

「ほう、それは気になるな。是非、明後日の大会に…。」

「それで、帰ってくるまでの護衛もしてくださったんですのよ。」

「…貴様、まさかエリシアに」

「してません。できません。」

「即答なんですね。」

「変な誤解は受けたくないですから。」

「それで、キシナミ様方に何かを差し上げようかと思いまして。」

「そうか。では、大会にでたらエリシアを守ってくれた褒美をやろう。」

「ありがとうございます。それでその大会のためにLVをあげておきたいので、そろそろお暇させていただきたいのですが…」

「うむ、いいだろう。宿は自分たちで気に入りそうなところを探すといい。ところで、だ。」

「なんでしょう?」

「貴様の魔法、どんなものかしっかり見させてもらうぞ。」

「わかりました。期待にこたえられるようにLVもしっかりと上げてきます。」


 なんか、余計にプレッシャーをかけられた気がする。

次回の話は少し時間が飛びます。

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