護衛クエスト
人間は生きながら、罪を重ね続けている。
~世界の記憶 第2024章 第10節 5項~
「じゃあ、探してきますね。」
「さ、先に腕何とかしないと危ないですよ!顔青いじゃないですか!」
「あ、忘れてた。《リ・バース》。」
腕を固定して、時間を巻き戻すと、この通り。切られる前の腕になってくっつきました。
「なんでもあり…ですわね。」
「こういう人ですよ、キシナミさんは。気にしないでください。」
「何か言いました?」
「何でもありません。」
さて、早速探しに…
「お嬢様ー!」
「あ、戻ってきた。」
「エクストリオ!遅いですわよ!」
…すごい名前だ。
「お怪我はありませんか、お嬢様。」
「大丈夫ですわ。この方が守ってくださったので。」
「おお、貴様はさっきの冒険者!感謝する。」
「いえ、当然のことしただけです。」
「この方の魔法はすごかったですわよ。屋敷の皆様にも見せてあげたいくらいですわ。」
「ハハ、勘弁してください。魔力の消費が激しいので…。」
「そうですの?残念ですわ。」
それにそんなポンポン使うわけにもいかないしね。威力高すぎるし、下手したらこの辺何も無くなっちゃうし。
「さて、依頼の確認をするが、お嬢様を隣のシャルミット国の南に位置する都市まで護衛するのが貴様らの仕事だ。」
「報酬はいくらですか?」
「道中がどの程度危険だったかで決める。向こうについてから報酬金額を出すからな。」
「そうですか。…厳しい道中でありますように。」
「アーネさん、変なこと考えてないですよね?」
「いやー、安全に行けるといいなー、なんて思って。」
「キシナミ、うsムグゥ!?」
「ウルちゃんはこっちでお姉さんとおしゃべりしましょうかー。」
「…変わったパーティーですわね。」
「気にしないでください。通常運行です。」
「?」
ああ、このお嬢様には意味が伝わらなかったようだ。まぁいいや。
「では、貴様らはこの馬車の半径1メートルほどのところでついてきてくれ。」
「分かりました。」
門を出た後、俺達は指示通りに馬車の約1メートルのあたりを歩き出す。すると、
「おい!早速魔物だ!」
「よし!総員戦闘態勢!」
さすが、といったところだろうか。そこらの冒険者と比べて戦闘に入る準備と周囲の兵士への伝達が早い。
「ぼさっとするな!お前らもだ!」
「これは失礼しました。」
「む?貴様は武器を持たないのか?
「魔法主体なので、中距離から援護させていただきます。 加速。」
周囲の兵士、と混ざっていたアーネさんに加速の補助魔法をかける。目に見えて動きが速くなる。スタミナの消費は大丈夫かな。それよりも出てきた魔物は…キラーラビットか。良く見かけるな、こいつ。
動きはそこまで早くないが、鋭い前歯と発達した爪で襲いかかってくる。それを相手に、魔法兵が動きを封じ、前衛が回り込んで切りつける。2分もかからずに倒していた。俺なら5秒で終わるけどね。
「よし!全員配置にもどれ!」
「手際がいいんですね。」
「これでも訓練はしっかりとしているからな。貴様の補助もなかなかだったぞ。」
「恐縮です。」
「やはりあそこの町の冒険者は腕がいいな。」
「私は独学ですけどね。」
「そうなのか。何故だ?」
「七色魔力を持っていなかったので…」
「そうか、苦労したんだな。」
「そこまででもありませんよ。」
そんなことを話しながら進んでいるとあっという間に夜になってしまった。それまでに何回か魔物が出てきたが、すぐに倒せた。さっき役に立たないとか思っててすいませんでした。
さっき、こっそりと兵士たちのステータスをのぞいてみたんだが、平均LVは50くらいのようだ。訓練の成果かな。
「む、そろそろ国境の関所だな。身分証の準備をしておけ。」
「分かりました。」
それから進むこと数分。高さ20メートルほどの大きな門とその脇にいる、少し変わった格好の…なんだろう、魔法使いでもなさそうだし、兵士でもなさそうな人たち。しかし、ここでこの場所を通る人たちを見張っていることに変わりはないだろう。
「入国希望だ、手続きを頼む。」
「了解した。身分証をだせ。」
そういわれて、一人一人身分証を見せて行く。聞いた話によると偽装されていないか、罪を犯していないか、などを調べているらしい。
「問題ない。通ってよし。」
「感謝する。」
なにも問題なく通れたようだ。さすがに引っかかると色々拙いことになる。
「さて、貴様らに言っておくが、野宿だぞ。道具は持ってきたか?持っているようには見えないが。」
「問題ないです。空間魔法が使えるので。」
「珍しいな。まあ、持ってきているのならいい。まだ夕方だが、この人数だとそれなりに時間がかかるからな。早めに始めるぞ。」
この人数、とはいっても俺、ウル、アーネさんの三人、兵士が8人、でもってお嬢様。名前聞いてなかったな、後で聞いておこう。
「では、貴様らはこのあたり焚き火に使えそうな木を探してこい。」
「わかりました。」
「りょーかーい。」
「私、休んでていいですか?」
「夕飯、無くなりますよ?」
「是非、行かせていただきます!」
「じゃあ次、兵は3人のチームを組んで安全の確認と、水が手に入れられる場所を探せ。」
「了解!」
「俺と、あともう一人はお嬢様の近くで待機だ。」
そういえば、宿屋に来たこの人が仕切ってるのか。名前は…確かエクストリオだったかな。チーム組んで行ったけど近接戦闘が得意な人たちと、魔法兵で偏ってたな。
「キシナミさん。この辺でいいんじゃないですか?」
「そうですね。じゃあ10分くらいたったら合図を出すので、そしたら集合しましょう。」
「わかりました。」
「はーい。」
約十分後、
「合図、どうしよう…あんまり派手なのやると、他の人が敵と間違えそうだし…。」
「そういうと思ったよ、キシナミ。」
「ウルか、どうしたんだ?」
「何か、困っているんじゃないかと思ってね。」
「ウルがいるんならいいや、先戻ってて。アーネさん連れてくる。」
「わかった。」
「さて、アーネさんはどの辺まで行ったのかな。」
千里眼の魔法を使って周囲を見渡す。森のほうに人影が見えたので、もっとよく見てみる。アーネさんだな、間違いない。彼女はどうやら木を見上げているようだ。走って彼女の近くまで行く。
「どうしたんですか?」
「えっ?キャッ!」
声をかけると少し叫び声をあげたが、そこまで驚いていないように見える。
「いや、あそこにある木の実が珍しいな、と思って。」
「ん?」
あった。木の上のほうを見ると、紫と黄色のウェーブがかかった模様の木の実がある。
「あれ、おいしいんですかね。」
「私にはどう見たって毒にしか見えませんが…。それよりも早く戻りましょう。他の人たちに迷惑をかけては申し訳ないと思いますし。」
「そうですね。」
アーネさんを連れて戻ったころにはすっかり日が落ちてしまった。俺の速さで走ったからこそ、あまり時間がかからなかったのものの、普通に歩くと結構時間がかかってしまった。
「遅いぞ、何をしていたんだ。」
「すみません。少し重かったもので。」
適当な言い訳でごまかす。あの木の実のことは言わないでおこう。下手に調査だ何だってなって、怪我でもしたら大変だし。
「…まあいいだろう。火をおこすぞ。」
「道具が見当たりませんが、魔法で、ですか?」
「そうだ。お前の魔法で起こしてもらう。力量も見ておきたいしな。」
「分かりました。《フレア》。」
魔法を唱えると同時にそれなりの火が起こる。制御もバッチリのようだ。
「それで本気、とか言わないだろうな?」
「そんなことはないですよ。」
「じゃあ、明日の昼には町に着くだろうから、この辺に戻って本気でも見せてもらおうかな。」
「え、それは…ちょっと…」
「どうした?できないのか。」
「そういうわけではないんですが、加減を間違えたら危険なので…」
「ほう、自信があるようだな。お嬢様も他の皆にも見せたい、と言っていたしな。」
どうやら引きさがってくれないようだ。熟練の人は魔力の流れとかで本気か本気じゃないかとかもわかるらしいからなー。
「とりあえず、この話は置いておきましょう。みなさんも疲れているでしょうし夕食の準備を始めないと…」
「む、そうだな。昼ごろから出たとはいえ、時間が経っているからな。」
「では、とりかかりましょう。」
こうして、この夜は過ぎて行くのだった。
遅くなって済みません。
次回の投稿は出来るだけ早くできるよう善処します。