借金
積もったものは必ず自分の元に降ってくる。
~世界の記憶 第2023章 第12節 18項~
「で、どうするんですか?アーネさん。」
「ご、ごめんなさい…。」
「借金、金貨18枚って、一体どれだけ食べたらこんなことになるんですか?」
「あう…」
まだこっちに来て一週間くらいで早速借金作るて結構すごいよな。いや、俺が借りてるわけじゃないけど、それでも仲間の借金はパーティーの借金とみていいと思う。
そして金貨18枚と言ったが、利子が頭おかしいくらいに高く、返す金額が金貨177枚になっている。ちゃんと見ておかなかったのか。
「はぁ、仕方がないですね。ここは私が払っておきますから、ゆっくり返してくれればいいです。」
「キシナミ。これは彼女の借金だから自分で変えさせたほうがいいんじゃないかな。」
「このままだと膨れ上がりすぎて返せなくなるよ…。なら払えるうちに払ったほうがいいかな、と。」
「あ、ありがとうございます!キシナミさん!」
「ただし、私に金貨177枚を返すまで、屋台やその他の店での買い食いは禁止。食事はちゃんとだしますから、それまで何か食べるのも禁止ですよ。」
「そ、そんな!」
「そんな!じゃないですよ。少しは自重してください。これで私の手持ちも無くなって…」
ん?待てよ?魔法で作ったものを売ってしまえばいいのでは?いや、それだとどこで手に入れたか聞かれたときとか困るな。ありふれたものを作れば大丈夫かな。今度色々試してみるか。
「とりあえず、私の手持ちの物も売らないと一週間持たないな。」
「じゃあそのローブ売っちゃえば?」
「あーこれかー手に入れるの大変なんだよなー」
「本当はものすごく簡単なくせに。」
「ま、クエストに死に物狂いで行けばしばらく大丈夫でしょう。ね?アーネさん?」
「は、はいぃ!」
「じゃあクエストボード見てくるから、少し待ってて。」
「ああ、頼んだ。ウル。」
「どーれがいーいっかなー」
「おう、嬢ちゃん。これなんかお勧めだぜ。」
振り向くと、大きめの棍棒のようなものを担いだ男が立っていた。年齢は30くらいだろうか。
「おじさんだれー?」
とりあえず子供のフリをしておこう。まともに話したら怪しまれそうだからね。
「おお、すまねぇ。俺はラジン。こう見えてもDランク冒険者だ。」
「裸人?」
「なんかイントネーションが違わなかったか?今。」
「聞き間違いでしょー?」
「まぁいい。でこのクエストはEランク。クロゴブリン討伐だ。」
「クロゴブリン?」
「ああ。こいつはゴブリンに似てはいるが本当は違う種族でな。体が大きいのと好戦的。そして名前の通り黒い。」
「ヘー。」
「最近はおとなしかったんだが、この前の地震で気性が荒くなってな。それで討伐依頼が来てるってわけだ。」
「そうなんだ。」
「強いわけじゃあねぇが、気をつけるに越したことはねぇ。行くなら気をつけてな。」
「うん!」
報酬は銀貨1枚と銅貨6枚か。まだ私にはいいのか悪いのか分からないな。
「キシナミー。」
「ああ、ウルか。どうだった?」
「あのね、これがお勧めなんだって。」
「へー、討伐クエストか。」
「じゃあ武器が必要じゃないですか。」
「その点は大丈夫ですよ。 空間魔法に入ってますから。」
「そういえば、空間魔法使えるんでしたね。」
「便利ですよ?結構。練習してみてはどうですか?」
「私は水魔法しか使えませんから…」
「あきらめたらそこで終わりですよ。」
「…」
「まぁ私は魔道書を貸すくらいしかできませんけどね。」
「キシナミさんには分かりませんよ。私のことなんて…」
非常に重い空気になってしまった。どうしよう…。いや、確かに水属性しか使えない周りから避けられてる人が後輩ができて喜んでいたら、その後輩が実はものすごく強かった。なんてなったら気持はわからんでもないけど、実際部活の中でそういうのあったし。
「まぁ、気が向いたら言ってください。何かきっかけだけなら作れるかもしれませんから。」
「はい。」
「ねーそろそろ行こー?」
「さすがにわざとらしすぎないか、ウル。」
「そうかな。」
「アーネさん。」
「…はい。」
「買い食い禁止ですからね。」
「はいぃ…」
それにしてもアーネさんの食欲は一体どこまであるんだ。ちゃんと見てないとまた借金を作りそうで怖い。どこかで大食い大会とかないかな。
「アーネさん、クロゴブリンについて何か知ってますか?」
「クロゴブリンは、手の先についた鋭い爪で攻撃してきます。でも、動きはそこまで早いわけではないので対処できると思います。気性が荒いと言われている今はどうなっているか分かりませんけど。」
「そうですか。なら遠距離から攻撃するのがいいですかね。」
「じゃあ、私が遠距離やるねー。」
「私とアーネさんが近距離になりそうですね。」
「そうですね。」
「…ちゃんと返してくださいよ、お金。」
「分かってますよ!うー…」
さて、クロゴブリンが良くいるという場所に来たのはいいけど…
「いつもこんなにいるんですか?」
「そ、そんなわけないですよ!」
「わー、真っ黒ー。」
うん。黒い。真っ黒。地面なんて見えない。それなりに高い丘の上から見てるけど、クロゴブリンの数が多すぎて、これ普通の適正レベルの冒険者が来たらボコボコじゃ済まないだろうな。それくらい多い。数えるのも馬鹿らしい。もう波だろ、これ。
「どうします?」
「ここで止めたら違約金払わされちゃいますよ!」
「ウル。」
「さすがにこれ全部相手にするのはなー。」
「よし、ここは練習で色々できるようになった私の出番…」
「この辺一帯を焦土に変えたりしちゃだめだよ。」
「わかってるよ。少し離れてて。」
「何をするんですか?キシナミさん。」
「空間魔法の応用でクロゴブリンを殲滅します。」
「相変わらず無茶苦茶ですね…」
「それが私ですから。」
アーネさんとウルには大体5メートルくらい離れてもらった。さて、パーティータイムだ。
「目の前の大軍を殲滅するは、彼らの命を掴んだ左手。この手が握るは数多の命。この手が示すは敵の殲滅。」
俺が指定した場所を中心にこの辺一帯の魔物、少なくともクロゴブリンが全部入るくらいの範囲まで対象を広げる。
「《ジャック・ザ・グリッパー》!」
左手を何かを潰すように握る。その瞬間、魔法の範囲内にいたクロゴブリンが全員、ボン、という音とともにはじけ飛んだ。
血の雨が降る。千切れた手足が宙を舞う。弾け、原形をとどめていない臓物も降ってくる。この辺一帯の黒は一瞬にして赤へと変わった。正直見ていて気持ちのいいものではない。
素材の回収どうしようかな。
「終わりましたよ。」
「キシナミ。やりすぎ。アーネさん白目向いて倒れちゃったよ。」
「あちゃー…」
「でも、君も頑張ったみたいだね。」
「正直、物足りないかな。戦闘なんてあんまりできないから、もっと色々やるべきだったかもしれない。」
「やり過ぎとは言ったけどこの数を放っておくのは危険だったから正しいともいえるかな。」
「そうか?まぁ、いいか。少し早いけど、今日はもう帰ろうか。…あ、LV上がってる。」
更新されたのは次の通りだ
LV1→44 HP 24500→42890 MP 64380→82270
筋力 5077→6002 E 敏捷 6279→6813 E 耐久 7814→8274 E+
魔力 10024→13744 D- 精神 8017→9213 E+ 感性 3016→4228 F+
第四段階解放/魔法登録可能
一度使った魔法を登録可能。登録後はラストワードのみで発動可能。
第五段階解放/物質創造制限緩和
作れる物質の幅が広がる。
何か今回は全体的に伸びが悪いような気がする。気のせいか?
とりあえず、魔法登録可能はうれしい。上級冒険者は皆持ってるらしいし、アーネさんもそのうち覚えそうだな。
制限緩和については時間をかけて調べる必要がある。
その日は気絶しているアーネさんを宿に運んでからクエストの報酬をもらって夕方から後は物を創ってから色々売って時間をつぶした。残りの所持金、金貨88枚。
次の日、
「お、お金ちゃんと返しますから、つぶさないで!」
とアーネさんに泣きながら言われた。仲間にこんなこと言われて泣きたいのはこっちだよ。