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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第二章
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夏の日の追想

長かった終業式を終え、やっと夏休みの実感がした悠介は夏休みの斬新な計画を立てるが、それは彼の母親によって悉く壊される羽目になるのだった。


「ねー、悠介(ゆうすけ)帰ろー」


「部活どうする?俺一応楽器持ってきたけど、学食行く?」


「一回帰って、ご飯食べてから学校戻るって昨日……」


「言ってないからな!」


 ちょっと怒り気味で言ったが、ジュンは言ったよ~。みたいな顔をしていたので軽く平手でチョップをかましてやった。


「いたいっ」


「いたいじゃねーよ。どーするんだよ。雄平(ゆうへい)先輩は?」


「帰った」ボソッ


 もう一度チョップ。それをジュンはよけた。


「なんで避けるんだ!」


「だって家にもうお母さんが作ってくれた昼食が!」


「答えになってない!」


 俺にはどうも理解ができない。学校と家を往復するんだぞ?マジか?あの坂をまた上るんだぞ?


 なぜかずっと俺を見つめてくるジュン。


「しょうがない、一回家帰るか…。出掛ける時家に寄るか、連絡するかどっちかしろよ」


「うんわかった」


 俺たちはまた昨日と同じように毎日景色の変わらない通学路に自転車を走らせている。


 暑さからなのか俺とジュンは一回も口を開こうとしなかった。今日は特に暑い真夏日だった。


 背負っていた通学用のリュックサックと制服のワイシャツとの間に汗が溜まっている。これがより一層俺の不快感を高めていた。


 気晴らしに夏の計画でも立ててみようかと思案した。家までまだ結構距離はありそうだ。


“夏休みの計画

1日目、部活。2日目、部活。3日目、部活。4日目、部活。5日目、部活。6日目、部活。7日目、部活。8日目、部活。9日目、部活。10日目、部活。…………最終日、部活。”


 ……まあ別にリア充じゃなくても十分に充実しそうだな。(リア充じゃないやつの言い分)


 校長が言ったことも一応一理あるな。夏は、ようは、有意義にすれば良いわけだ。王道へ行かずとも地道を渡ればよい。


何となく自己満足に至って気が晴れたところで、気づくとマンション。この暑さにも多少は馴れてきたようにも思えた。馴れないとやっていけないような気がする。


「悠介、またあとで」


「おう、あとでな」


 エレベーターに乗り、俺は部屋を目指していた。


 そして俺は先程立てた計画が丸潰れになることを思い知らされることをまだ知らなかった。




 ドアの鍵を開ける。不思議な事にまたもや閉まっているはずの鍵が開いていた。


 俺は少しドアの前で立ち尽くす。


 二連続ともなれば流石に悪い想像しかできない。何となくもうこの状態でそういうフラグが立っていた。


 中にはまず母さんがいる。これは絶対確かだ。必要十分条件だ。


 そして問題はなぜ?という事だ。


 今日は暑い。そして汗でぐっしょり濡れた背中は不快指数がMAXだった。考え事には環境が悪いような気がした。


 一回入ってみよう。検証すればいいだけさ。もしかしたら、母さんが俺のために昼食を作っておいてくれているのかもしれない。そして家の中は冷房がついていて俺の不快をやわらげてくれているのかもしれないという期待を胸にいざ。ってところで。


 ガタッ


「いった~」


「あら悠介。どうしたの~?」


 いや、本当に痛い。笑い事じゃない。


 ドアノブに手を掛けた瞬間、部屋の内側からドアが開き見事、凸にヒッツ。もちろん犯人は俺の母さん、横山奈緒子(よこやまなおこ)


「ドア開ける前にここ見ろや!ここ!」


と、俺はドアについている覗き穴に指を指した。そんな当たり前の事をしていればこのような過失事故を起こさなかっただろうに。


「おかえり悠介、早いわね。帰りが早いならさっさと準備しなよ。学校行く前に早く帰ることを言っておき…」


「今日、終業式!」


 俺は母さんの言葉を遮り、言葉をストレート160km級で投げつけた。


「行事予定表見て!ここに書いてあります!」


 電話機の上のコルク板に貼ってある学校の年間行事予定表に指さす。こんなの見ていれば、終業式なんて一目瞭然だ。


「じゃあ明日から夏休み?」


「左様」


 恰好をつけていったわけじゃない。ただ言葉を短くして話したくなるほど、この女と話すことが億劫なだけだ。


 ところで少し気になったことがあった。


「そういえば、準備って何の準備?今日、昼食食ったら部活行くんだけど、今日飯なに?」


「明日引っ越しするから、荷物を送るの、その支度。荷物まとめておいてよ…えっ、ところで悠介部活入ったの?」


「あん?ああ、軽音のね…」


「そーなんだ」


 ………


「じゃねーだろ!」


「えっ、何が!?」


「何が!?じゃなくて今日引っ越しなんて話聞いてねーんだよ!なんで俺の回りの奴らは情報伝達不十分(サービスエラー)能力LV5持ってんだよ!」


「また、親に向かってそんな口きいて!」


 その言葉で俺はうっ、とくる。しかし、母さんの言い方には迫力がなかった。


「引っ越しってどこに?早くないか?昨日結婚決めたばっかりだろ」


「いや~、悠介が昨日どういっても結婚と引っ越しはずいぶん前から決めてあったから、婚姻届け提出済み!家はもう建ってる♪そしてもう既に私たちは東雲(しののめ)家だよ」


 あきれてものも言えない。開いた口が塞がらない。鳩が豆鉄砲を食ったよう。とはこのことだ。怒りすら込み上げない。


 俺はすぐさま制服のポケットからケータイを取り出し、拓磨(たくま)と雄平先輩という連絡先にメールを送る。


『ごめんなさい。今日は用事がありました。』との内容で。本当は『今、用事が出来ました。』なんですけどね…と自分を嘲笑う。そして自室へ入り、数秒して心が落ち着いた所でもうすぐ空き部屋となる大切な仮住まいの壁に思いっ切りグーでパンチを決めてやった。


 無駄なエネルギー消費をしたところで、そういえば昼飯を食べていない事を空腹で実感し、部屋から出て台所へ向かう。どうせ昼食なんて作ってないだろうから、冷蔵庫を覗いて適当に残っている材料で飯を作り始める。しょうがないから母さんの分も……


 炒飯を作った。簡単だった。冷凍庫に冷えたβ米をレンジでα化し、卵と野菜、ごはんを炒め、適当に味付けをした。


 母さんが図々しく、「ありがとねー」などといってテーブルについていた。なんて奴だ。


 俺は食べ終わった後、食器を二人分洗って部屋に戻った。何となく自分のベットに横になった。先程、引っ越しの準備を母さんに急かされたのだが、母さんは元々俺がいつ通り、6時とか7時とか遅くに帰ると見込んでいたようなのでしばし休憩。




 天井を見つめる。不思議なものだ。明日になればこの天井を見ていないのだ。そして今日とは違った天井を明日は見るのだ。


 体を起こす。部屋を見つめる。


 天井まで届く本棚。そこに敷き詰めてある本や漫画本。お気に入りのバンドのCD。ものが散らかっている机。黒茶のアコースティックギター。さっき学校から持って帰ってきたピカピカの赤黄色のレスポール。


 そういえば最近ギターに触っていなかったな。


 レスポールに手を伸ばす。そして丁寧にチューニングをしてディアドロップ型の柔らかいピックを手にギターを弾く。母さんに怒られそうだから、アンプには繋げない。3万円もしたBOSS製のマルチエフェクターME-25に接続し、ヘッドホンをつける。夏場なのでヘッドホンは耳が蒸れるのだが、不思議と気にならなかった。


 オーバードライブをかけ、歪み具合が自分の好みに達し、好きな曲のギターソロを弾く。


 気分がよくなった。俺って意外と単純。これからだってギターは弾ける、しかもバンドで。そう考えただけで昂揚感は十分に上がった。


 気が済むまで弾いて、やっぱ自分が下手だなぁ。なんて思いながら、そろそろ片づけを始める。


 やっぱギターが好きなんだなぁ、と改めて感じたひと時だった。


 十年くらい古いラジカセでCDをかけ、曲を聴きながら荷物を整理していると、以外にも作業が順調に進んだ。順調と言ってもダンボールに荷物を詰め、この際だから、必要なものと、必要でないものとに分別し、必要でないものは捨てる、という単純作業をしていた。 懐かしいものも出てきたなぁ。


 そして作業開始から4時間。時刻は午後5時にして引っ越し業者が来て、荷物を運ぶ。まだ空は明るかった。


 ギターはどうしても自分で運びたかったので、そのまま部屋に。


 母さんは今日だけで1か月分の体力を使い切った様な顔をして萎えていた。よっぽど大変だったんだろう。


 しかしそんな母さんからこんなお誘いが来た。


「ねえ悠介。今から新しい家に行くんだけど、悠介も一緒に来る?伸仁(しんじ)さんちも来るらしいのだけど」


「え?行く行く!」


 興味が無いわけがなかった。明日引っ越すにしても今日行けるのだったら、見ておきたい。そして、今は不満も何も感じなかった。目的がはっきりしているからだろう。今回は伸仁さんちと、という事は、秋桜(あいか)さんたちも一緒だという事が分かる。


 俺はそこのところをしっかり考慮した上で支度をした。昨日みたいな地味なTシャツを止め、汗で乱れていた髪を整え、ヘアアイロンを前髪にかけた。そして出発をする。


 母と車に2日連続して乗ることになろうとは…かなりの異例である。昨日は後部座席に座っていたのだが、今日は気分的に前に乗る。そして暑苦しいのではなく、夏っぽく爽やかな曲を車内で流した。Cleanの単音が滑らかでボーカルのきれいな声とよく合っている俺一押しのバンドの曲だった。ドライブには最適だった。


 1曲目が終わった頃から市内のはずなのにあまり見たことのないような地域に来た。ここは土地が広く安定していて、昔からの旧家、名家が多いらしく、また最近の区画整理や土地開発から一軒家が数多く立ち並ぶ住宅街だ。古い家と新しい家とが混ざり合い、不思議感覚がした。自転車で行ける距離には大きなスーパー、ショッピングセンターもあり、人が住むには人気とまた比例して地下の高い所だ。これは小学校の時、社会科で調べた時の記憶。


 ここの住宅地を走り、数々の家々を過ぎていくと、100m位先方に一際大きい家があるのに気が付いた。俺の目は良い方である。


「あの家でっかいね」何気なく言ってみた。


 指を指す。


 母さんは当たり前のようにこう答えた。


「あ、あれ(うち)よ。大きいでしょ」


 ???


「いま、何て…?」


 その会話の途中でもう100mという距離は縮まり、母さんは何故か車をその家の前で停止させた。走行時間は約7分弱。あのマンションからは全然遠くない。そして車のドアを開け、母さんは言う。





「ここが東雲(しののめ)家よ」


どーも水無月旬です。

今回は突然の引っ越しという訳なんですが、私作者は生まれて一回も引っ越しという大作業をしたことがありませんので、引っ越しはどういう手順で行われるか知りません。

引越社に1日荷物を預ける事は可能なのか?

知識が乏しくてすみません。

2年後は恐らく大学で1人暮らしを始めます水無月旬でした。

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