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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第一章
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幸せにするよ。

突然に秋桜から話しかけられた悠介。

その中でだんだんと皆の気持ちを理解して…

ついに結論を出す。


「えっ?」


「この場所でいい?」

 

「うん…」


 今日初めて秋桜さんの方から話しかけてくれた。なんだろう。


悠介(ゆうすけ)くんさ、結婚のことどう思う?」


 予想はしてたけど、やっぱりその話か…俺は正直に話すことにした。嘘はすぐにばれそうな気がした。


「どうって…びっくりしたけど」


「反対なの?」


 さっきと違い向こうから話しかけてきているので、次は逆にこっちが話しづらい気がした。


「いや、反対って訳じゃ……まだ実感がないんだ。そしてこれからの生活が想像できないだけなんだけど…」


 これは本当の気持ちだった。無理に反対を押し切りたいという気持ちは一応俺にはなかった。


「許してあげて欲しいの…」


「えっ?」


「結婚の事、同意してほしいの。これはお父さんの要望じゃない。私からのお願い」


「なんで?あんなわがままで転校しなきゃならなくなるんだよ?友達ともわかれちゃうし。 ………、そっか。さっきの部活をやめたのだってこのことだろ?」


 うん、と申し訳なさそうに頷く。それでもこの人は良いというのだろうか?


秋桜(あいか)さんももっと真意を表した方がいいって。わがままだよあんなの。大人の理不尽な…」


「わがままなんかじゃない!」


 えっ。急に秋桜さんが大声を出した。然程大きくはなかったと思うが、目の前ではとても迫力があるように聞こえた。少し怒り交じりの声だからだったかもしれない。


「ごめんなさい…でも、お父さんも奈緒子(なおこ)さんも、しっかり私の事も考えてくれているの。もちろんかんなの事だって。きっと悠介くんの事も」


 さっきの大声で圧倒されたが、俺だって言いたいことがあった。


「何も知らないから、そう言えるんだ。俺は母さんのわがままに何年も付き合わされて、振り回されてきたんだ。それでいつも俺に残るのは、温かくもない、寂しくもならないただの孤独だよ、孤独な生活しか残らない。俺はそうやって生きてきた」


「でも!」


 これじゃ半ば喧嘩だ。埒が明かない気がした。


「孤独だったんだ……なら……」


「なら、なんだ?」


「なら私が、私が嫌ならかんなでもいい。どちらか一人でも悠介君と一緒にいるから」


「それでも俺が良くても、秋桜さんが転校することには変わりがない。俺はそれも嫌なんだ」


「そんな事は良いの。もう覚悟はとっくにできているから、かんなもいるから大丈夫。私たちが悠介くんに嫌な事が無いようにするからさ。それでも悠介君が嫌だ。というならもう私は何も言わない。私は悠介君に幸せになってほしいの、奈緒子さんでもなく、お父さんでもなく。悠介君に幸せになってもらいたい。私が悠介くんを幸せにするから!」


 激しく高まって訴えてきた。感情に走って言っているようだったが、冷静に聞いていた俺としてはこれはまるで告白のように聞こえた。何も思わないわけないじゃないか。


 秋桜さんも少し落ち着いて気が付いたのか、周りを少し気にして、今の会話が聞かれていないかを確認して安心した後、顔を赤くしていた。


 ドキッとする。胸が疼いた気がした。


「あ、うん……わかった」


「えっ!?」


「考え直してみるよ。もう戻ろ」


「うん…」


 俺たちは奥の部屋へ戻っていく。その間は無言だった。しかし重い空気ではなかった。すっきりした気分。本音をぶつけられて、しっかりけじめがついて結論が出たのか心に開放感があった。今度、母さんにも本音をぶつけてやろう。そう思った。そして、


(秋桜さん、ありがとう)


 そう心の中でお礼をする。


 すると別室の扉の前まで来て前を歩いていた秋桜さんが振り返って俺を見る。そして一言。


「私、新しい生活はとてもいい予感がするの。」


 そういって、部屋へと入る。そして席へ着かずに真っ先に俺はこう言った。



「伸仁さん。こちらからもよろしくお願いします」


 頭を深く下げた。




 俺には母さんの幸せを奪う権利はやっぱりなかったのだと思う。これまで俺が生きてきたのは間違いなく女手一つで育ててきた母さんのおかげだと思ったから。まして、東雲(しののめ)さんはこんな一介の高校生である俺にあれ程の御辞儀で懇切丁寧に頼んできたので断ろうにも断れなかった。


 はっきり言って東雲さんがどんな人か俺にはよくわからない。


 一回離婚した人だ、まあうちの母さんもだけど、けど秋桜さんの人柄を見てこう思ったのかもしれない。


 もしかしたら、東雲さんは良い人かもしれない。


 そして俺は今日の帰りの車で東雲さんがそういう人であってほしいと信じてこういう会話を親子でしたのだ。


「幸せにしろよな、母親らしく」


「あったりまえでしょ!」


「あと、幸せになれよな…」


「ん?今なんて?」


「何でもない!」

と車窓に目をそらせ外を見る。


 俺は最初っから決まっていたのかもしれない。


『私が幸せにするから!』


 さっきの出来事が記憶に積っていく。


 顔が赤くなっているのが車窓の反射で薄く見えた。何となく歯痒く、恥ずかしい気持ちがした。俺はそれがどういう気持ちかわからなかった。そして俺は何となくこう思った。




 孤独なんて昔から大嫌いだったんだな。と。





どーも水無月旬です。

何となく終わりのような最後でしたが、実はこれはまだ1章の終わりです。

次からはその後の2章に入っていきます。

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