東雲の双子
母親に無理やり高級レストランへ連れていかれた悠介は、
東雲伸仁の娘、双子の秋桜とかんなと出会う。
そして、その中で語られた母親、奈緒子の衝撃の願いとは…
予想外の光景に、思わず立ち尽くして、彼女らを見つめていた。あるいはもしかしたら、見とれていたのではないかと思う。
彼女らも俺たちを見ていた。しかし、俺とは違く、然程驚いているような素振りを見せず、ただ俺を見ているだけだった。そのうちの一人と目が合った。
不思議に思った。普通の人よりも出色して目が大きかった。
肩までしかないショートヘア、髪色は夕日を浴びたような茶色、そして左サイドを止めているピンク色のピンが目立ってた。目鼻立ちも整っていて、誰が言ってもそれは美人に見えるだろう。美人ではなかった、少し幼く見えるので、美少女か。
そして、もう一人と目があう。顔がショートヘアの子とよく似ている。双子なのか?
しかし、完璧なまでに容姿が似ているわけではなかった。栗色のショートヘアとは対照的に今目が合っているその子は、純真な真黒な髪のツインテール、そしてありえない程に長かった。しかし、髪はつやつやとしていて、くせっけや枝毛など一本もないように思えた。
俺は、自分も気づかないくらい幾何かじかんがたった後に、はっ、と二人を見つめていた自分を起した。そして俺は思う。
女の子(美少女)が来るのだったら、髪の毛のセットや、衣服にもう少し時間をかけてくればよかったと、いつも着馴れしている白地の文字の入った地味なTシャツをみて少しばかり落胆した。
しかし、辺りを一瞥すると、何か妙な感覚に襲われた。
まず、この二人の女子の顔に見覚えがあったような気がした。デジャブとでも言おうか、いや、でも、こんな顔の二人組だったら、以前お会いしていたのなら、この俺が顔も名前も憶えていないはずがない。
「ごめんなさい。悠介の帰りを待っていたものだから」
母がそう適当に言い訳すると(事実なのだから仕方がないが)席に座っていた東雲さんは、いいよ、いいよ。と返事をして立ち上がり、何故か俺に慇懃に礼をする。そして後に続いて女の子たちは、立たずとも礼をする。そして俺は一応に空気を読んで合わせ礼をした。
やはり、何故だか、色々と不可思議な事があるように思えた。(十の六十四乗じゃないぞ)
東雲さんは立ち上がったまま、そのままになっていたが、そのたった姿、もっと言うと身形が変わっていた。
これは俺のもともと持つイメージなのだが、彼は普段絶対着なそうな、馴れないようなスーツを着ていた。彼は、その彼が着ていたスーツは高級そうなダンヒルのスーツだった。流石にこれは一流の彼らしさが出ていてこれは否めなかった。
俺が言いたいのは、東雲さんにスーツと、ネクタイのような堅苦しい服装は合わないということだ。それに今が夏という季節感から見てもそれは不思議な光景だった。
また。東雲さんの横に腰を下ろしている少女二人もまた普段着る服ではないものを身に着けているように見えた。
一言でいえば、まるで結婚式場にでも来たような、上品で且つ堅苦しいおめかしをしていた。この違和感も先程の『妙な感覚』の一環であったと思う。
「悠介、さっき言った通り紹介するわ。彼が東雲伸仁さん。有名だし、何回か会ったことあったからわかるわよね。で、そちらの可愛い二人の女の子が伸仁さんの娘たちで、そちらのショートヘアの女の子があいかちゃん。『秋』っていう字に『桜』で秋桜、そちらの子がかんなちゃん。かんなちゃんはひらがなだから覚えておきな。二人とも双子で、歳は悠介と同じよ」
「……よろしく」
「こ、こちらこそ」
と、秋桜というショートヘアの女の子が、
「よろしく!」
と、元気よく返事をしてくれたのがかんなというツインテールの子。
「悠介、あんた、秋桜ちゃんとかんなちゃんに何回か会ったことあったけど、覚えてる?」
「えっ?あ、まぁ、」
本当はあまり覚えていなかった。覚えているとしたら、どこかであったことがあるかないかの記憶の境目だった。先程の既視感が、やはり本当であった事がわかった。
いまいちな記憶だったのだが、彼女らがどういう人だったのかは一応にわかる。
前話題であった東雲さんの離婚問題に関わっていた、東雲さんの元、実の妻の女優と、東雲さんとの間の子供だと思う。推測するに、親が女優と考えれば、この彼女たちの美貌が証明されたのと同じことだ。そして、ここに彼女たちが、東雲さんと同行しているのを読み取れば、離婚後、2人を預かったのは東雲さんということになる。
「よし、みんなそろったからな、食べよう」
「そうね、私、ワイン飲みたかったけれど、車で来ちゃった」
と、東雲さんと母が区切りをつける。
数分後、料理が運ばれてきた。
フランス料理なんて食べたことがなかったから、マナーなんてわからない。ましてや、食事にナイフなんて使ったことがない位、小市民な俺だったりするので、俺は、ナイフを流暢に使う東雲さんや母さんをよそに普通にフォークで食した。上品さなど高校生男子に求めるな。
「……ん?」
目の前に置かれた魚料理をおいしそうだと、フォークで突こうとした矢先、ふと何かの視線を感じた。
この部屋には現在、店員が居ないので、俺たち5人だけいることになる。
そんなことを前提において、気になり辺りを一瞥すると、目の前にいる秋桜さんと目が合った。
実際、俺は少し動揺せずにはいられなかった。しかし、秋桜さんは、突然びっくりしたように視線をずらす。
何かすこし悲しい気分に襲われた。目が合った瞬間に目をそらされたのだから、当たり前なようなきがした。それに、同年代の女子に…
そして、俺は、その後数回の視線を先程同様に感じていたのだが、先程同様に、視線そらされ、一抹の悲しみを覚えないといけなくなるので、当然わかりきっている視線の主をあたかも気づいていないように普通を装い、食事をしていた。
「……………………………………………………………………………………………………」
しかし、無言での食事というのは、一人より数人の方がなにより辛いことをこの状況が教えてくれた。
実際、この場は沈黙が漂っているわけではなかった。東雲さんと母さんは二人で色々と世間話的な何かを話していた。
気になるのは後の二人なのだが、かんなさんは、どうやら明るく剽軽な性格のようで、歳の差など気にせず、母さんたちの会話に混ざったりしていた。
問題は、こちらの子、秋桜さんの方だ。無言で元気がないというか、覇気が無いというか。人見知りなのかなぁ?それとも、何か嫌な事でもあるようにも見えなくない。
きっと席順が悪いのかもしれない。
東雲家と横山家が向き合って、右から東雲さん、かんなさん、秋桜さん。横山家は、母、俺の順で並んでいて、なぜか俺との間に一つ間が空いているのだ。故に、俺は秋桜さんと向かい合う体型になっていたのだ。
「……」
「………」
耐えられなかった。耐えられるはずもなかった。そうして俺は思い切って話しかけてみることにした。
「ねえ、秋桜さんはどこの高校に行ってるの?」
「……、N女子大付属高」
「すげー名門だ」
「いや、そんなでも…」
いや、本当にかなりの名門、エリートお嬢様学校だ。我が桐原高校も進学校であるが、大学付属なので、学力はおそらく足元にも及ばないと思われる。よく耳にする、そのままの名門校だった。
「部活は何に入っているの?」
「文藝部です…」
「文藝部?本とか書いたりするの?」
「いや…、そういう人もいますけど、私は読むだけです。たまに読書会と、文集の発行をするんです…」
三点リーダの多い人だと思った。
「へぇー」
「けどやめました…」
「え?なんで?」
「一身上の都合です…」
と、そういって彼女はまた喋らなくなった。聞いたことしかしゃべらない。俺はそこからは何か聞いてはいけないような気がして、納得した。
現段階では…。
そしてまた、自分の中にある、存在するかしないかの沈黙に耐え、一通りのフランス料理のコースを食べ終えた。
「ごちそう様」
「おいしかったわ」
目の前の皿が片づけられ、俺たちは食後のコーヒーでも飲むことにして、それを待っていた。いや、本当においしかった。
コーヒーが来た後。厳密に言うとコーヒーを持ってきた店員が部屋から出た後。なぜか周りの空気が一変し、重くなったように感じる。俺以外の4人が何かを感じ取るように、空気を読むように皆が一斉に俺を凝視してくるのだ。じーっと、しかもシリアスな趣を顔に浮かべて。
目は口程に物を言うと言われているが、彼女らの瞳からはシリアス意外に何一つ感じ取れず、何も理解できていない俺だけが、この空気にミスマッチしているようで、妙な緊張感を感じた。
喉が渇いて飲み込む唾さえなかった。
まだ、ミルクも砂糖も入れていないコーヒーをとにかく飲もうとした。ブラックは苦手だが……、甘党の自分だったがかまわなかった。
コーヒーを飲もうと、カップに手を付け、口まで運んで飲もうとした。しかし、カップを口に付けた所で、
「あのね、悠介…」
と母親が俺に声を掛ける。なんだ? と思い、ほんの少しコーヒーを口に入れ、返答する。
「何?母さん?」
何かとても真面目な話があるようだ。これは目を見ても目を見なくても分かった。場の静寂した空気がそれを物語っていた。
母も幾分緊張しているようだ。はぁー、と大きく息を吸って、母はこういった。
「あのね、私、伸仁さんと……結婚したいの。」
どうも水無月旬です。
今週は難なくやっていけそうです。
この連載は、土日、或いは金曜日に投稿なので平日のアクセス数が少ないです、
どうか平日読者さん増えてください!!
一つ、東雲秋桜が文藝部に入っているという件。
これは何度も言いますが、二重丸の証明問題のシリーズとは関係ありませんので、ご注意を。
もっと言いますと、二重丸の証明問題の設定や、ストーリーは、東雲秋桜が文藝部に入っていると自分で書いていて、文藝部ネタを使おうと思いました。
実際自分も学校で文藝部入りたかった。
そんな水無月旬でした。