影武者
「やったー!あがりーっ」
「私もあがりー」
「俺も」
俺には三枚の紙。数字が書いてあり、右上と左下には赤と黒色のマークが書いてある。
トランプをしていた。
「えー、また俺、貧民?」
大富豪をしていた。
地面を照り付けるような太陽が出ている外は空間が揺れて見える程暑い。モンスーンとかいう風のせいで、要りもしないじめじめした空気が立ち込め、その中で俺たちは大富豪をしていた。
それが高校生というものではないか。
場所はもちろん学校の校舎であり、校舎の中でも最辺境にあたる第三音楽準室の隣に位置する第三音楽準備室。
以前までは机と椅子がそれぞれ三つずつのセットでこの部屋に置いてあったのだが、人数が増えたので、今は五個置いてある。この部屋は狭い上に、ドラムセット、アンプ一式、マイクスタンドにキーボード一台が置いてあるので、窮屈極まりなかった。
そんな中で、俺、ジュン、秋桜、かんなの四人で、仲良く机を四つ班のように向い合せて、富豪と貧民を決める戦いをしているのだ。
俺たちはしっかり部活をしている。
しっかりとまでは言えないが、この暇つぶしも部活のうちなのだ。
なぜ大富豪をやる運びになったのかと言うと、昨日やっとテストが終わったのだが、それは一年だけの話であって、実は他の学年はそうではない。
二年生と三年生は今日もテストなのだ。
したがって、俺達一年生は、午前中に授業が終わり、そして二、三年生はまだテストを受けている。だから俺たちは、音が出せずに部活をしなければならないことになった。
『音を出さずに』というと、エレキギターなのだからアンプにつながなければ音を出さずに練習することが出来るが、こんな暑いのにそんな神経を使うようなことはしなくない。
それは俺だけの意見ではなくて、もちろん秋桜や、かんなの意見でもあった。
「悠、貧民なんだから、さっさとカードをきって、配ってよね」
秋桜が急かす。そう焦らずともいいじゃないか。夢中になるだけで汗が出てきてしまう。
俺はゆっくりとぐじゃぐじゃに放り込まれた、カードの山に手を付けて集める。
えっ?何かを忘れていないかって?
テスト?
ああ、そんなのもあったな。
別にこれは現実逃避ではない。
断じて違う。
むしろその逆と言いたい。というか、未だに実感が湧かないというか…。
学年で二位をとってしまった…。
嘘じゃない、嘘じゃない。そんな憐れむような眼で俺を見ないで。
俺は、三教科合計偏差値200をとって学年二位になった。
平均偏差66という事だ。
一個一個のテストが帰って来た時も、名前が間違えているのではないかと思ったが、まあ一応「東雲秋桜」という名前で違う事には違うけれども、曲がりなりにも俺がとった点数なのだ。
それをかんなに告げると、
「すごいね!」
素直に褒めてくれた。
それを秋桜に告げると、
「すごいじゃん。まあそれくらいとってもらわないと」
おい、あんたは何位取れるつもりだったんだ。
ちなみに聞いてみた。
「秋桜は、俺のテストで何位とったの?」
そして秋桜はバッグからファイルを取り出して、成績表の入っている紙を取り出して俺に見せる。
俺はそれをじっと見つめると、恐ろしくて、怖いほどだった。
「七位!?」
七位が悪いわけじゃない。むしろその逆だった。
「おい、なんで俺のテストでそんな順位とってんだよ!秋桜が頭いいから俺はあんな
勉強したというのに、俺のテストでそんな順位とったら、周りから絶対怪しまれるだろ」
そして秋桜は、とぼけたように
「誰に?」
「教師とか、友達とか、親とか!」間髪入れずに叫ぶ。
「いやいや、悠介の学力に合わせてセーブしたつもりだったんだけどね、この学校の全体の学力が解らなかったから…」
嫌味っぽい言葉をさらに俺の声で聞かされるものだから聞いている方はムカつかないわけがない。眉間にしわが寄った。
「お嬢様が…」
「なんか言った?」
「いや、なんでも。 てか、セーブして七位かよ」
詳細を聞いたら、秋桜が七位。かんなが五位。それでも俺の学校にはまだ一応天才は他にもいるようで、名前を一回でも聞いたことあるような奴らが、四位とかをとっているんだろう。
「でもさ…」
秋桜が急に静かに話した。こういう時は決まって大事な話をする。もう俺はそういう間が分かってしまっていた。
「でも?」
「でも、悠介が二位をとることが出来たのは悠介の実力で、だから私は、悠介が七位、いやもっと上をとってもおかしくはないと思う」
俺は恥ずかしながら頷いた。
そーいえば、ジュンは何位だったんだろうな。
「えっ?一位だけど」
部室に着いたときにジュンが居たので訊ねてみた。
「………」
言葉が出なかった。
「どうかした?」
「…………」
「悠?」
「その呼び方で呼ぶな!」
「えっ、でも秋桜ちゃん、悠介の事そう呼んでるよね」
「それは…その……あいつの勝手だ」
俺は恥ずかしげに頬を人差し指で掻きながらそう言った。
「って、そうじゃねーんだよ!」
「ん?」
「はぁ?お前トップ?ウソだろ、ありえねぇ」
それで俺は、「うそだよ、ははは」なんてジュンから返ってくることを願っていたのに、実際はそんな上手くはいかなかった。
ジュンが秋桜と同様にして、バッグからファイルを取り出し、成績表を出して見せる。
順位の下には『1』という綺麗な数字が表示されていた。
「うそ…だろ…」
よく見てみると、今までの一学期の中間や、期末を見てみると、そこには、全く変わらない数字が見えていた。
俺は両手で持っている成績表を揺らしながら、我が友ジュンを見ていた。
ジュンは、『ん?』みたいな顔つきで首を横にかしげていた。
俺コイツに負けたの?というか、今まで負けてたの?
こんな上手く世界が動くなんて。
こんな奴に才能が…。
まさか学年四百人のトップがここにこんな奴なんて。
多分、ジュンはそういう性格ではないから、他人に順位なんて聞かれなきゃ答えないだろう。
そして恐らく、授業中に寝るわ、課題出さないわ、のジュンに注目する奴なんか一人もいなかったのだろう。通りで噂が流れてこないわけだ。
それにしても、もっと恐ろしいのは、アンブル部にトップ10が四人いることが恐ろしかった。
とりあえず、秋桜に納得してもらえる点数が取れたこと、そしてそのトップ10の四人に自分が入れたことがとりあえず嬉しかった。
テストも悪いもんじゃないなと思った瞬間だった。
どーも水無月旬です。
私はそんなにいい点数取れません!
以上!




