我が家での異常事態
何かがおかしく感じた。
家には久しぶりに見る母親がいて。
出掛けた先には思わぬ人物が…
「おかえり悠介」
今日は何もない普通の木曜日。
しかし、目の前では普通では無い、いつもと違う光景があった。
聞きなれた声、だけど見慣れない光景。少し疲れているのだろうか、いやそんなことはない、授業でたくさん寝たはずじゃないか…
もう一度目を擦って確認してみると、
母親が既に家に帰ってきていた。
腕時計を凝視する。7時15分、ついにこの時計も壊れたか、まだ母親が帰ってくる時刻ではない。いつもよりも格段に早い。
「なんで…今日仕事早く終わったの?」
いや、いつもの帰宅時間が午前1時位となるので、早く帰ってきたとしても、早すぎだろう。早く帰ってこれたとしてもせいぜい11時が限界。
そしてまず母さんは朝の5時に家を出るわけだから、普段母さんの姿を見ることなんてのはまずない。そして俺は、久しぶりに母を見る度、行き違った友人が久しく再会、といったような感情を抱くのだ。いや、マザコンじゃない。
母の横山奈緒子は芸能関係のマネージャーの仕事をしている。マネージャーの担当の人は、国民的に有名なロックバンド『DragonFly』である。ちなみに俺がギターをやり始めたのは、このバンドが強く影響している。
「なんで…って?今日は夜、外食しに行くって言ってたでしょ」
「いつ?どこでに?なぜ?When? Where? Why?」
「言ったのは、いつだったけな、場所は駅近くのレストラン。何故?って伸仁さんちと約束してるってあれ程言ってたのに。」
「伸仁さんてだれ?」
「伸仁さんは伸仁さんよ。東雲伸仁。あんた忘れたの?」
「あぁ、ドラゴンの…」
伸仁ではなく、東雲さんだったらわかったのに。
東雲伸仁。母さんの担当する『DragonFly』のギター兼ボーカルの人だ。そういえば、確か、つい1年前位に、結婚していた女優の人と離婚する、というニュースで、よくTVで目にしていた。俺は何度かその人と会ったことがあった。
しかし、前は、『伸仁さん』ではなく『東雲さん』と母さんは呼んでいたような気がした。
……なんか、気にかかる。
「そう!あんたが帰るのが遅いから伸仁さん待たせちゃうじゃない」
いや…、その話いつ言った?てかそれ絶対今日決めましたよね?そうですよね!!
俺の母親はまだ歳が30代で、若いから、なんというか、性格が乱暴で、俺の父親もたぶんこんな女に呆れて出ていったに違いない。
俺の顔も見ないで出ていったって言ってたしなぁ、相当なものだろう。まだ籍を入れずして俺が生まれて、その前に勝手に出ていきやがった。だから俺は戸籍上父親がいない状態かもしれない。今でもこんなことを考えているとムカついてくる。そしてそのムカつきの元の根端がこの母親のせいであると思ってしまうと、俺は余計鬱憤がたまってくる。
しかし、俺だってもう高校生だ。そんな事はもう忘れ、考えず、母親の機嫌を悪くしないよう平穏としているのだ。
俺は母親にしか、生きていくにあたって頼れる人がいない。母親との関係が悪くなるのはできるだけ避けておきたいところだ。
それにしても、今日はなぜ外食に行くのだろう?今日は仕事がない?そして伸仁さんちとはいったい東雲さんと、誰の事だろうか?
あれこれ考えても疑問しか浮かばない。訳も分からず、一応言う通りにし、制服から出掛ける為にと着替え、身形だけ整えた。
一方、母親はというと……
いつもとやはり何かが違う。いつもより濃い化粧。いつもより明るさを感じる服装。気になるところが少々ある。しかし、出掛けるのだからそれが普通か、と心で抑え、納得する。それに『いつもより…』なんて言っておきながら、いつもの母さんを知らないのだ。不思議に思えて当たり前なのかもしれない。
しかし、久しぶりに母さんといると、意外な面も見つけた。家を出て、マンションの駐車場から車で移動していると、車で『DragonFly』の歌を歌っていた。
すると不意に、
「ねえ悠介。今日、あとで大切な事を話すから、よく聞いておいて欲しいの」
「あ、ああ、なんの話?」
「それは向こうで……でさ?悠介にお願いなんだけど、その話の中で、悠介が、『Yes』or『No』で返事をしなきゃいけない場面があったら、悠介には必ず『Yes』で応えて欲しいの。これがお願い。わかった?Yes!orNo?」
「はい?」
「いや、ここで返事じゃなくて!」
「こっちがツッコミたいわ!どういうことだよ!どういう意味なんだよ!」
ついに、今日の母さんの行動の無理解さにイライラしていたのか、車内で声を大きく張り上げた。母さんは少し驚いていたが、気にしない。
さっきから母の言っている意味がわからない。支離滅裂だ… 考える事が無用な気がしてきたので、自分なりに1つ1つ解決することを選択しから選んだ。
「今日、結局誰が来るの?」
「だから、伸仁さんちって言ってるでしょ」
「違う!東雲さんちって、東雲さんと誰なの?」
まず1つ、それからだ。今回も目的は、どうも食事だけではない気がする。まずは、今日のメンバーを抑えておきたい。
「誰だっていいでしょ?もうすぐで着くから、着いたら分かるじゃない。私が紹介してあげるから、もう少し待ってて」
しょうがないから受忍した。どうも言いたくない人が今日のメンバーの中にいるらしいと俺は推理した。
母さんは運転が、ド下手で、事故になりそうな事もしょっちゅうだが、今回は何事もなく、無事に目的地に到着したようだ。
着いた所は、高層ビル群が並ぶ通りからすぐ離れた駐車場だった。此処から少し歩くようだ。ビルの通りへ出る。
駐車場からはすぐの所に本当の目的地があった。此処も高層ビルで、お店はそこそこの、10何階の高さの所にあるらしい。
エレベーターに乗っていく。俺たち二人だけだった。そのレストランの階に着くと、そこは、感嘆が少し漏れる程、高級そうなフランス料理店だった。
男性の方がギリギリのお金で来れたような雰囲気のカップル達、お金持ちそうなセレブ感を出しワインを飲む老夫婦、しっかりと決まったタキシードを着ている店員、やたらと長い帽子を被ったコック、見るからに華奢な雰囲気を醸し出しているお店だった。そしてなんと店の窓ガラスは大きくて、そこからこの街の輝かしい夜景が見渡せるようになっている。おそらくこれがこのお店の一番の特徴だろう。
「いらっしゃいませ」
「予約をしていた東雲ですけど……もう来ていますか?」
母さんがそう言うと、ウェイトレスは、こちらへどうぞ、と店の奥へ案内した。
俺たちは言われるがままに連れていかれたが、俺は来てみて驚いた。
連れていかれた場所は、店の奥に唯一ある別室で、それも相当な広さであった。
先程の客席が並ぶルームのように、その部屋にも窓ガラスが一面に張られていて、その向こうには、言わずともわかると思うが、言わば絶景というものがあった。
まるでセレブや名家なんかのお見合いの場であるかのようだった。お見合いしたことないが…
今更、なんて思うかもしれないが、こんな席、前から予約していないと、とるのは当然無理なような気がした。それかまさか東雲という芸能人の字名を使ったか…職権乱用だぞ。
そしてもう一つ驚くことに、どうせ俺が最年少なんだろう、かと思っていたが、その部屋で俺たちを待っていたのは、TVで良く見慣れた東雲さんと……
なぜかその隣には良く見慣れない美少女が2人?の3人であった。それにその美少女たちはおそらく俺と同じぐらいの齢であった。
どうも水無月旬です。
活動報告で今週は投稿が難しいといわれていたんですが、今日、早く帰宅できたもので、短いながらも投稿させていただきました。
少し、訂正というか、あれなんですけど、私実は、芸能人のマネージャーという仕事をよく知らないくせにこの設定で書いているので、普段マネージャーさんがいつぐらいから出勤して、いつぐらいに帰宅することはあまり知りません。
ここはシングルマザーとして、忙しい母親という設定で読んでいただくとうれしい限りです。
無能ながら、こんな文で謝罪をさせていただいて本当に申し訳なく思っております。
次回もお楽しみに。