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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第四章
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どうにもならない夜


「ごめん。出来合のものが多いけど…」


「いいよ、ありがとう」

  

 かんなは俺と秋桜(あいか)を気遣ってくれ、夕食の支度をしてくれた。何も文句など言うところがない。


 正直、俺は夕食を食べたくても食べれるような状態ではなかった。おそらく秋桜もだろう。


 空腹という感覚をもっても、食欲というものが湧き上がってこなかった。


 しかしかんなは提案してくれた。「ごはんを食べよう」と、かんな自身も自明していたと思う。俺達に食欲が無い事くらい。


 しょうがないと俺は思ってしまった。何せ西から太陽が昇ってくるくらいの事が起こってしまったのだから。これでいいのだ、では済まない。


 けれどいざかんなが食事を食卓に並べてくれた時、俺は食べずにはいられなかった。


 気を使ったわけでも、残してしまう事に関して遠慮してしまったのではない。それだけははっきりと言える。


 多分俺が自分で作った料理ならどんなに美味い料理でも一口も口にすることなく残していただろう。


 かんなが屈託のない笑顔でそれを運んできたから食べる気になったのだ。ひと時だけ今抱えている煩悩を断ち切りたいと思った。


 秋桜も気が落ち着いたのかもしれない。表情が少しだけ明るくなったように思えた。


 箸を手に取りご飯をつつく。静かな夕食だった。


「………」


 誰も話そうとはしない。誰かが話すのを待っているだけなのかもしれない。あるいは、自分たちで思い悩んでいるのかもしれない。どの道、俺は話を切り出せなかった。色々あって…。


 三十分くらいしてもう夕食が終わろうとしていた。ゆっくり食べていたが、無言だったのであまり意識しないまま料理を口に運んでいたのだろう。


「ごちそうさま。かんな、おいしかったよ」


 かんなにそう伝える。かんなは少し安心したようだった。


「俺、片付けするよ。片付けならできるからさ」


 と食器を手に持ち、席を立とうとすると、


(ゆう)、ちょっと待って…」


 今までずっと黙り込んでいた秋桜が俺をまじまじと見つめてくる。俺の顔だ。目の前にいるのは確かに真面目な顔をした俺の顔だった。だけど何となく秋桜がとわかる。それは秋桜が俺の身体の中にいる事が既知だからではなく、オーラ的なものだった。


「なに?」


 然程意味をこめず、返事をした。秋桜の言いたいことが素直に聞きたかった。


 俺は手に取っていた食器を食卓の上に戻して、立ち上がろうとしていた姿勢を正す。


 秋桜を見つめる。かんなも黙って俺たち二人を見ていた。


「悠、これからどうしよう…」


 秋桜は涙ぐんでそう言った。


「どうって…」


 さっきと同じような感じで曖昧に応えてしまった。そういう場合、男として失格だよな…


「秋桜はどうしたいんだ?」


 秋桜に答えを委ねてみた。それを訊いてから答えを出したって間違えではないはずだと俺は思った。


「戻りたい」


「え?」


「もとに戻りたい…じゃないと私…」


「そ、そうだよな。戻りたいよな」


 こんなことしか言えなかった。


「なんで入れ替わっちゃったの?」


「それがわかっ…」


 それがわかれば、と俺は言いかけて止めた。だってどうしたって、なにしたって、そんなのわかりっこないじゃないか。


 今にも泣きそうな秋桜を俺とかんなは黙って見守っていた。俺だってパニックって今にも叫びたいくらいだった。だけどそうしたら、そうしただけだ。何の解決にもならない。


 かんなは何かもの言いたげな様子をさっきからずっと見せている。ねぎらいの言葉をかけて秋桜を励ましたいのかもしれない。もしかしたらかんななら突拍子もない良いアイディアで解決法やら、そうはいかなくても今現在の状況保留ができるメソッドを言ってくれるかもしれない。しかし、かんなは何も言わなかった。これは二人の問題。たとえ第一発見者がかんなだったとしても、自分を第三者の存在とかんな自身考えているのだろう。しかし、俺は少しだけそれが有り難いとも感じていた。結局は秋桜と俺が何とかしなければいけない事。秋桜と俺が意志の疎通をはからなければならない。やっぱり他人の痛みは…と言うが俺が秋桜と同立場、同条件の元であるならば、俺は秋桜の事を考えなければならないと、かんなが教えてくれている気がする。夕食を誘うという場繋ぎをしてあげたんだから、後はやってくれ、とでも言われている気がした。


 俺は沈黙の中、考える時間を少し得た。次は俺が何かを言わなくちゃいけない。そんな使命感が俺を少し焦らせた。集中しろ、集中。


「なあ、秋桜」


 秋桜は俯いた顔をふと上げた。外見はまるで鏡を見ているようだという程、寸も違わない自分の顔は、中に秋桜が宿っているというだけで、頼りなく儚く小さなものに見えた。


「何…悠」


「秋桜はなんでこうなっちゃったのかわからないんだろ?」


「うん…」


「俺もそうだ。なんでこうなっちゃったのかわからない。こんなこと有り得ない事だからな」


「えっ?」


 秋桜は悲しい顔から少し不思議なものを見るような顔をした。


「だからさ、一緒に原因を見つけよう。突き詰めようよ。今の俺達にはそれくらいしかできないから。もちろんかんなも手伝ってくれる」


 そうだと言わんばかりの切れのあるウインクをしたかんなを俺は見た。


「でも…」


「蹲ってちゃ人は何もできない。じゃあできることから始めればいい。俺はそれしかできないと思ってる」


「でもどうやって?」


「わからない」


「え!?」


「わからないけど、俺は二人となら出来そうな気がする。時間がかかるかもしれない。でも秋桜、少しだけ我慢してくれ。俺と一緒に耐えてくれないか」


「う、うん。わかった…」


「それに今日限りの夢落ちなんてこともあるかもしれない。今日はもうこのことを考えるのはやめだ」


「うん。ありがとう、悠」


 秋桜は少し心配そうな趣を残していたが、ホッとした気分にもなっているようだった。かんなも安心したようで、笑顔になった。


 さてこれからどうしよう…。


 この後は大変な事続きだった。


 飯を食べ終えた後、寝ようとしたら


「ちょっと悠!お風呂も入らないで私の身体で寝ようとしないで!」


「い、いいじゃん一日くらい」


「よくないよ!悠サイテー」


 なんで…


 そしてこの後、風呂に入るのだが、お互いがお互いの身体を見るのは少し、というかかなり如何わしいものであるので、あれこれ大変だった。


 本当なら御想像で勘弁願いたいのだが、順を追って説明しないことには、俺が単なる変態としか扱われなくなってしまうので、その否定をしたい。


 まず秋桜(俺の身体)がシャワーを浴びるのに服を着用した俺(秋桜の身体)が手伝う。当たり前だが秋桜は目隠し状態。そして次にかんなの手伝いの元、俺がシャワーを浴びる。ここでは俺が目隠し状態。浴槽に入るのは止めた。本当めんどくさい作業だった。誰か効率の良いシャワーの浴び方を教えてくれ!


 そして就寝。しかしまたもや「悠が何か邪なことするかもしれないから!」なんてことを言い出して、俺は秋桜の部屋の床に布団を敷いて、何故か秋桜と寝ることになった。寝れる訳ねーだろ!!


 そして秋桜は


「今日と、私たちの事、お父さんや奈緒子さんには言わないでね」


 とだけ言ってすぐに眠りについたようだ。


 数分して「秋桜!?」と呼びだてても返事はなかった。わざと無視した気がしたけど。


 母さんと伸仁さんは明日の昼まで帰ってこない。


 今日はゆっくり寝るか。



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