ふたりの意識の交換
「ねぇ、悠!悠ってば、ちょっと大変なの!悠!」
「秋桜やっぱ病院連れてった方が良いって」
「だめだよ、病院で目を覚ましたらどうなるかわからないし…」
薄く、微かに二人の声が聞こえる。一人は女性、一人は男。
「ん、ん…」
何か頭がぼーっとする。意識があるような無いような、それとも夢でも見ているような。
「悠、悠!」
強く声をかけられ少し意識がはっきりとしてきた。目の前の光景がはっきりと見え、音も次第に明確に耳に届くようになっていた。
しかし、何故だろうか、頭がまったく働こうとしない。少し頭が痛かった。いや違う、そんな事ではなかった。俺は明確に戻った意識の元、頭が何を考えたら良いかわからなかった。
何が起こったんだろう。今、何が起きているんだろう。
どう捉えたらいいのかわからない。どう解釈したらいいのかわからない。何と言えばいいのだろう。何がどうなっているんだ。まだ俺は夢を見ているのだろうか…
目を覚ました俺の顔はどうなっていたのだろうか。きっと目を大きく見開いて口を半開きにして間抜けとも言える顔をしていたのだろう。
その顔の前には、俺の顔を覗く、俺、東雲悠介の顔がそこにはあった。
もう数分もしただろう。目を覚ましてからずっとぼーっとした様子から離れられず、体をようやく起こした俺の目の前には鏡を持ったかんなが座っていた。なんだ?寝起き直後の自分の顔でも見ろってか?それよりも大事な事があるだろう。と俺はそのかんなの持つ丸い手鏡を覗いた。
鏡の中には秋桜がいた。
頭がまだよく回らないから。なんだ秋桜は無事だったのか、なんて思っていた人物が、鏡の中の自分と気が付くのは数秒後の事だった。
「悠!悠!大変だよ!私たち入れ替わっちゃった」
「入れ替わった?入れ替わったって?」
自分から発せられた声はまさに女らしくかわいらしい声だった。そしてその声はまさしく秋桜の声だった。
それとは打って変わって声をかけてきたのはまさしく俺の声。そしてその方を見ると、俺自身が俺の目の前にいた。
ここでやっとのことで俺は悟ることが出来た。いや、もう少し前からわかっていたのかもしれないが、あまりに信じがたく有り得ない事だったので、理解の範疇に修めようとしなかっただけなのかもしれない。
そう、俺は秋桜と体が入れ替わってしまったのだ。
「秋桜…」
何とも情けない女のような声を出した。いいや実際女の声だけど…
「悠…」
俺はまだ少し痛む頭を押えて訊ねた。
「詳しい話を聞かせてくれ」
「うん…」
秋桜は心配そうに返事をした。
どーも水無月旬です。
ついに三十話までいきまして、まあ一回一回の内容が薄いんだけれども…
そこはまあ読みやすさを考慮しただけで、との言い訳。
今まで読んでくれている人、何かの間違いでこの話から読んでしまった人。
どうもありがとうございます。
水無月旬。




