帰路の途中で、
悠介と拓磨の四方山話といったところ
「悠介~、一緒に帰ろー」
先輩は同じ学年の人と帰るようで、必然と俺はジュンと一緒に帰ることになった。幼馴染だし当たり前か。
辺りはもうすっかり暗くなっていて、やっと梅雨が去ったのか、夏には珍しい雲のない空があり、星と月が出ていた。
俺の住んでいる家は学校から自転車で約40分。結構遠い上、本校は山にあるため、帰りは良いが行きがとても辛い、超辛い。入学初期は毎日学校に行くのが憂鬱で仕方がなかったくらいだ。今もだけど…
俺は帰り道、何かジュンと話す話題があるかなあ、なんて考えて思いついたことをジュンに話してみる。そうださっきあれを聞いてみよう。
「あのさ、ジュン、なんで新しく作った部活の部活名は『アンサンブル部』なんだ?」
ジュンならきっと知っているはずだ。先輩に聞くのは何となく聞きづらい。
「なんか、雄平が言うに、軽音部と音楽部が既存してるから部名が被らないようにってのと、部活内容が被るのがいけないらしいよ」
「部活内容軽音部とマル被りじゃねーか!」
「アンサンブルって、クラシックギターとか、弦楽、ボロロンな感じだからうまく教師の目を欺いたらしい。雄平曰く部名の略称は『アンブル』だってさ、そここだわりらしい」
ジュンはなんかバカにしたように言っていた。
俺はなるほどと、聞き流した。活動がばれたらどう誤魔化すつもりなんだ…
「ところで顧問の先生は誰なんだ?」
それも重要だな。
「えっと、たしか16の担任だったとおもう」
「えっ、うちの担任じゃん」
「あー、悠介16HRだっけ?」
えー!何?長年親友だった人のクラスも覚えてないのこいつ?さっきの感動を返せ!俺はジュンのクラスもしっかり覚えているぞ。そう、確か14HRだったよな…
うちの担任は、授業で倫理政経の教鞭を執っている現代社会の先生だ。歳はたぶん20代後半だろう。結婚できないことが悩みの女教師、小包叶恵、みんなから『かなちゃん』との愛称がある。結婚の話以外だと明るくて良い教師だ。逆に結婚の話だと……言えない……、20代じゃそこまで気にしなくていいと思うのだが…
「あ、あとうちの担任は副顧問だから」
「あの光源氏?」
そう。とジュンもわかったように告げる。『あの光源氏』とは、ジュンの14HR担任の事である。古典の先生で歳はもう中年をも過ぎたおっさん。その先生は古典の中でも『源氏物語』が特に好きで熱弁をよくうちのクラスでもしている。さらにその教師の名前が、『鐘光源氏』なんて変な名前だからこんな風に呼ばれてしまう。この呼び名は学校共通だ。俺だったらこんな名前なら逆に『源氏物語』嫌いになると思うんだけどな…、ほかの特徴としては、流石古典の教師といったところか、男なのに品のある言葉で喋る。
かなちゃんと光源氏が顧問なんて味のあるコンビだ、よくこんな部活の顧問になってくれたものだ。こんな部活は、失言…、けどたぶん形だけの顧問だ、部活には来ないだろう。
「あ、先生達、滅多に活動来ないらしいよ」
「たまには来るのかよ!」
「ん?」
「いや…」
ジュンは昔から少し抜けている所があって、その事は、最近会うことが少ないが今でも健在らしい。しかし、なんか安心というか心が落ち着く感じだな、ツッコミもしやすいし。
「で、それでよく委員会の方に活動申請書と部室確保ができたな、部員3人なのに」
「まあ、桐原高校だからね」
「そうだな…」
あきれてしまうものだ。我が桐原高校は県内最多の千二百の生徒数で、県内最大規模の敷地にして県の一応の進学校として名を連ねており。校風である『生徒の自治を重んじ…』という言葉から、自由且つ民主的な学校生活の一環として生徒の総意に基づいて、と、結成している『自治会』なんてものがあるから、校則は緩々で、自由なんて余って要らない程あり、他校にする我が校の自慢なんてのは、これが普通と思っているから、逆に言うことが皆無なくらいである。部活申請がたやすく通るなど日常茶飯事なのだ。だからうちの学校には部活動が腐るほど存在する。野球部、サッカー部などメジャーなものから始まり、ビーチバレーボール部、アイスホッケー部など、大会が存在するか不明な部や、文化部などは、ボランティア部、小説研究会(小研)、ハンドベル部などなど。
そんな話をジュンとしながら、道路交通法的悪行である、自転車並走をして帰宅していると、いつもの通学路の途中、我が町の中心部へと入っていく。
今日は夏休みの前々日の木曜日、街中では今週末に開催が予定されている夏祭りの準備を執り行っていた。歩道に並ぶ屋台。それに沿って取り付けられている提灯。嗚呼、まさにこの季節がやってきた。
こんな時、普通の男子高校生ならこういう会話が出てくるのがメジャーだ。
「なあジュン、お前今週の夏祭り、誰かと一緒に行くの?」
「ん?今週夏祭りあるの?だれかって?友達まだ誘ってないけど…悠介一緒に行く?」
「う、あ、ああ…」
じゃない。じゃない。じゃない。じゃない…
異様な返事が返って来たことに数秒気づかなかった。ツッコむどころか、なんか曖昧な返事をしてしまった。こいつの話には四つほどおかしな点がある…
1つ、今目の前で夏祭りの準備をしているのに、祭りあるの?はないだろ!
2つ、普通な、誰か=どの女子と?ってことになるだろ!
3つ、俺をなぜ誘う!まあ一緒に行くけど…
4つ、なぜ全部疑問形なんだ!質問したのはおれだ!
嗚呼、ジュンのおかしな点を挙げていただけなのに、なんでこんなにもツッコまなければならないんだ。正直、疲れるなんてもんじゃないぜ。
「悠介は誰かと行く約束あったの?」
「ん?ま、まぁな…」
「そうだよね、悠介モテそうだし」
おい、おい、おい、おい、もうこれは耐えられない!
「どの顔で、どの口がそれを言うのかな拓磨クン?」
「うわっ!悠介怖い」
「常々思ってたんだけど、ジュンモテるのに、モテないような素振り見せてんだよねー、『きゃっ、拓磨クン、カッコイイ!』『えー、拓磨クンは可愛いんだよー!』なんていつも女子にちやほやされているくせに、平然としちゃってさー、天然も大概にしろってガンジだよ!」
「悠介怒っている?」
「怒っているわけじゃないさ、ただ…」
「ただ?」
さわやかイケメン+天然なモテ要素しかないこいつにだけは『モテる』なんて言われたくない。何一つ励ましになってない。
実際俺は、今まで、誰からも何一つも女子からのアプローチなんか受けたことがない。皆無だ!そう、皆誰しもが憧れている告白や告白的なことだ。自分でそう言っていて泪が出てくるぜ…
そんなマイナスなことを考えていると周りが見えなくなるものか、永遠と続くようにこぎ続けていた、俺たちの自転車はいつの間にか街を抜けていて、我がマンションへと到着していた。
いつものように、自転車に鍵を掛け、鍵についている輪っか状のキーホルダーに指を掛け、くるくると回しながらジュンとマンションのエレベーターに乗り込む。エレベーターの中では、何となく何も話さなかった。特に何も話すことがなかったからな。
我がマンションは8階建て、そのマンションの702号室が俺の家。603号室がジュンの家だ。
エレベーターはあっという間に六階に着き、エレベーターのドアとともにジュンは口を開く。
「じゃあね、明日からはよろしく。一応楽器持ってきてね」
「あ、うん、じゃあね」
最後は案外普通の会話で終わったなと、少し期待はずれなところもあった。
そして俺は、もう一つ上の階、七階へと行く。ここから先は、少ししょんぼりとしてしまう程、寂しい空間へと行くことになる。なぜなら、どうせ家に帰っても唯一の家族である母親は仕事で帰ってこなく、また一人の時がやってくるのだ。俺はスクールバッグから部屋の鍵を取り出し、ドアを開けるスタンバイをする。
そして7階に着き、部屋の前で鍵穴に鍵を差し込み、捻ると、なぜか鍵は開いていた。
どうも水無月旬です。
自治会は実際存在します。
全く話が進まない、って思っている読者さん(いるのか?)もいるのではないでしょうか。
すみません、この話の内容的に、最終章までの文字数を目測してみたところおそらく10万文字は行ってしまうのではないか、ということになりました。
はたして連載はいつまで続くのか、そしていつごろから起が始まって結がやってくるのか、そこのところを楽しみにしてもらえるとうれしいです。
いまのところ第1章の中間も言っておらず、第一章でおそらく2万文字は行っていまうかもしれない、水無月旬でした。