屋根の上のポッチャリ
「にゃーん」
ふとのび太の鳴き声がした。
しかし周りを見渡してものび太の姿はいなかった。
「今、のび太の鳴き声がしたような」
「うん確かに…」
秋桜にも聞こえていたようだ。
「にゃーん」
いつもの声より低かった。どこかで助けを呼んでいるようだった。
「あっ、あそこ!」
「あ、」
秋桜が指差した方を見る。なんと頭より上の方を指していた。
見ると屋根に乗ったのび太の姿が。
どうやら、のび太が屋根の上に乗って、怖くなって、動けなくなってしまった様だ。
しかし不幸中の幸いというところか、屋根は三階ではなく、三階より少し出っ張っている部分の二階の屋根に乗っていた。ちょうど、俺の二階の勉強部屋のベランダのすぐ真ん前にのび太はいた。
「やばい、部屋の窓開けっぱなしだったかな」
「何やってんのよ悠。そんな事より、早くのび太を助けないと」
「う、うん。でも、どうやって…?」
秋桜は少し得意げに、
「悠が二階に行って、屋根に乗って助けてくればいいじゃん。悠が窓開けたままにしてくるのが悪いんだし」
「そ、そんなこと言いましてもね、そう簡単にはできるかどうかわからないんだけど…」
「何言ってるのかわからないんだけど。もしかして怖いの?高所恐怖症?」
なんかすっごいどSキャラ走ってんだけど…
「う、うるさい。秋桜も手伝ってよ」
「二人で屋根のぼってら屋根が抜けちゃうかもしれないでしょ」
「じゃあ上でのび太受け取ってよ、流石にのび太抱えたまま屋根をまた上るのは少し厳しいよ」
俺は必死だった。
「その必要はないよ、屋根の斜面結構緩やかだから、下に降りちゃった方が早いよ。案外二階までそんな高くないしね」
「それはそうだけど…」
泣きたい気分だった。
屋根の高さは本当にそんな大したことのない高さだった。2メートルから3メートル位。屋根の斜面も人間が手放しで立てる位に緩やかだった。
しかし怖いものは怖い。何か特別なトラウマがあるわけではなかったが、ただ俺の高所恐怖症だけはなかなかセーブできるものではなかった。もちろんジェットコースター無理です。
けど秋桜を上に行かせるわけにはいかない。というか元々秋桜自身行く気はないようだけど…、ここは男として一つ任されなければならない。
「しょうがない、行ってくるか…」
「早くいって来てよね、じゃないとのび太落ちちゃうじゃない」
せっかくの俺の決意を…
「じゃあ秋桜ものび太落ちないように二階に行く間見張っといてね」
そう言うしかなかった。
「はいはい」
急いで二階の自分の部屋へと向かった。乗り気にはなれないが、そうするしかなかったのでしょうがないとお思った。のび太にも怪我してほしくないしな。
「のび太待ってろ、あと少しだからな」
「にゃー」
ベランダの柵から顔を出すと、のび太が蹲っていた。よっぽど怖いのだろうか、俺だって怖いよ…
滑ってしまわぬよう靴下を脱いで柵を越えて屋根に足を着ける。掃除がいき届かない場所だけあって表面は汚く、足の感覚がざらざらしていたが、屋根に乗った瞬間から感じられるこの何とも言えぬ恐怖感がその感覚を黙らせ足が竦んでいる。
「ねー、命綱とかないのー」
俺は屋根の上から下にいる秋桜に声をかけた。
「バカ言ってんじゃないよ。早くして、のび太受け取ってあげるから」
「う、うん」
命綱がなくて本当に心配だったけど、のび太に近づいて手に取り、屋根の先の方までゆっくりゆっくり歩いた。のび太の体重がプラスされた分余計危険度が増したように感じられた。ダイエットしろよなまったく。
あと1・5メートル、あと1メートル、あと50センチ。
屋根のっ先端まで心の中でカウントしていた。あとほんの少しだった。
「にゃー!にゃー!」
「な、なんだのび太!やめろ、危ないって!」
なぜかもうあと秋桜にのび太を手渡すくらいの所まで歩み寄ったとき、のび太が急に驚いたように暴れだし、俺をふらつかせた。空中に持ち上げられたとき、この猫はかなりの恐怖を抱いたらしい。それにしてもこの暴れっぷりは気違いだった。
「悠、危ないって、落ちちゃうよ!のび太を落ち着かせないと」
できたらやってるっつーの。
秋桜はもう、のび太を受け取るべく、手を伸ばしている。
「わかってるって、でも…あっ、あぁぁぁぁ!」
「ちょっと悠!あっ」
「にゃー」
気を抜いてしまった瞬間、屋根に足を滑らせ、屋根から落下した。
たぶん秋桜の方に落ちたような気がしたが、よく解らなかった。少し頭を打って、気が飛んでしまった様だ。
どーも水無月旬です。
本当にやばい!!
来週の分書いてないよ…
水無月旬でした。




