猫型ロボットの飼い主は猫?
家に帰ってきた。時刻はもう10時を少し過ぎていた。
家は真っ暗で、母さん伸仁さん、途中で逸れてしまったかんなさんもいないようだ。まあかんなさんはジュンがついているから安全?だろう…安全だと信じたい。
家の門を開け、そこから余分とも思える広い庭を進み家の玄関の前までさしかかり、俺はふとある小さな物体を目にした、と言うより見つけた。闇より光し2つの眼を!
家の外には人が近づくと点灯するライトがあり、俺が玄関のところへ来るとそれが付いた。
「……」
俺は目を疑った。
もしかしたら幻覚を見てしまう程、疲れているのかもしれない。
「なあ、あれって…」
「うん…」
「猫だよな…?」
一応それが俺だけの幻想であるのか秋桜に確かめた。
「う、うん、そうだけど…」
扉の前に一匹の猫がいた。
何をどう間違ったのかわからないが、その猫はこここそ我が家であるというがごとく、退屈そうに、はたまたリラックスしているかのように、玄関の前のコンクリートの床部分に寝そべっているようだった。
秋桜も見えたらしいので、それはそれで少し安心したのだが、不思議な感じできょとんとしている秋桜の横で、俺もさも氷のように固まっていることしかできなかった。
「どっかの家の飼い猫か、何か?」俺は秋桜に知恵を求めた。
「うん、そうかもしれないけど、うちは間違って入れるようなところじゃないと思うけど」
「そうだよな…あんな壁、越えられるわけないだろ、2メートルくらいあるぞ」
「それに第一首輪つけてないよ。野良かな?」
「ぽいな。見た所雑種のようだし」
俺の敷地に迷い込んできてしまったのは、薄茶と白色が混じったカフェオレのような毛の猫だった。辺りが暗く、目だけ光ったその猫に最初は少し恐怖を覚えたが、ライトがついて、近づいてみると、ぽっちゃりとしたデブ猫で、いまいち緊張感に欠けていた。
しかし、奇妙な猫だと俺は思う。さっき言った通り、我が家の敷地の周りには2メートル前後の壁が隙間なく並んでいる。それが意味することは、すなわち、こんなデブ猫ではこの壁を越える脚力は持っていないだろうという事だ。
どうやったんだコイツ!?
ためしに近づいてみる…逃げる気配はなかった。やっぱおかしい。
今から、この家の中へ入る訳なのだが、ドアの前で寝っ転がってもらっていては外開きの家はとても困る。かといって、この猫を無理矢理どけて、無視する訳にもいかないだろう。
「にゃー」
何ともやる気のない鳴き声。欠伸してんじゃねーよ!
「……腹減ってるのかな?」俺がそうなので試しに言ってみた。
「どうするの?」かんなさんが心配そうに問う。
すると
「ただいまぁ、どうしたの二人とも?」
かんなさんが帰ってきた。どうやら敷地の門の前にジュンが立っているようだ。手を振って帰っていった。
「いや、猫が…」
「猫?あーかわいい!」
かんなさんは浴衣姿だったので抱きつくまでのことはしなかったが、俊敏に動いて猫を撫でていた。
美少女に撫でられるのがそんなに嬉しかったのか先程まで無愛想だったそいつは上機嫌の模様だった。
「私も」
「えっ?」
秋桜も猫に近寄った。猫を撫でまわす。その二人の姿が何となくかわいらしく、猫がうらやましくて仕方がなかったのは言うまでもない。
「ねえ悠、この子飼おうよ」
「えっ?」
「そうよ、飼いましょうよ悠介さん!!」
「そんな事言われても…。」
「じゃあこの子どうするの?」
秋桜が猫を持ち上げる。浴衣に毛が付かないように手だけで。
猫はだらんと足をぶらつかせる。そして俺を少し挑発的な目で見つめてきた。
じー…。
「うっ」
猫と俺の目の会話が始まる。俺はそいつにも『俺を飼え』とでも説得されているように思えた。
「しょうがない」
「やった!」
「けど、伸仁さんちに許可取ってからだよ」
『いいよ/(^o^)/』
かんなさんが猫の写真付きのメールで母さんと伸仁さんに許可をもらおうとしたところ、2人から全く同じ内容、全く同じ顔文字で返信が来た。どうやら飼ってもいい、という事だ。
彼女たちは相当猫が好きらしく、俺が風呂の準備をしたり、夜ご飯の簡単な準備をしている間も俺の手伝いをすることは全くなく。家にあったミルクをたくさん飲んでいる居候猫に抱き着いたり、触ったりしていた。別にうらやましくないし。
二人が言うにはこの猫の垂れているお腹の部分を触ると気持ちが良いらしい。
祭りで買ってきた食べ物を広げ、やっと食事に至った。腹は既に極度の空腹を迎えていた。どうやらかんなさんはジュンと食べてきたらしいが供に食卓に着いてお茶を飲んでいた。
「ねえ、名前は何にするの?」
一応家族になるのにあたってこの居候猫に固有名詞は必要だと俺は思う。明日あたり首輪でも買って名札をつけておくかと考えた次第だ。そうでなければ、俺はこの猫をずっと『居候猫』と呼び続けるだろう。
「うーん」
秋桜さんは悩んでいるようだった。
「ドラえもんは?」秋桜が言った。
「ロボットなの!?」
ボケなのか真面目なのか?一応つっこむ。
「ニャース」
「喋るのかよ!」
「う~ん、じゃあヘドウィグ?」
「カッコイイなそれ!でも梟だから!」
「ねこまた?」
「こえーよ!」
「スフィンクス」
「またもや人殺し!?しかもその名前はもう取られてます!」
疲れる…ただでさえ疲労が溜まっていたのに。
秋桜はまだ悩んでいるようだった。
俺はこんな無愛想な猫、タマでもポチでもジュンでも適当に名前付けて、適当に可愛がればいいじゃねーかとそう思った。
「のび太…」秋桜さんの口からそう漏れた。
「えっ?」
「のび太がいい」
秋桜はそう呟く。アニメの概念から離れろや!なんてそう思ったが、秋桜にとってこの案は意外と真面目なようだった。猫の目を見て話すなんておかしな言い方だが、秋桜は近くに座っていたそいつに向かってそう言ったのだ。
俺もそいつを見る。ふぁ~、なんてどうもご機嫌に欠伸をしている。やがてゴロンと横になって床で寝始めた。
秋桜が何故あんな名前にしたのかよーくわかった。それにしても少しダサいネームングセンスだが、まあいいか。と少し笑ってしまう。
「のび太、いいんじゃないか」
そう俺が同意を示すと、すかさず秋桜は
「よろしくね、のび太」
そう言ってのび太の名を呼んだ。喜べのび太。お前の名を美少女が呼んでるぞ。
のび太は何とも興味なしに再度欠伸した。こいつはメスなのか?それだったらのび太は少々可笑しいと思う俺だった。
どーも水無月旬です。
こちらの原稿が間に合いません。
春休みになると、長い旅行へ行ってきますのであまり書けないです。
けれどまあ頑張ります。
猫は超ウルトラスーパーハイパーデラックス大好きです!
水無月旬でした。




