君といた夏
「秋桜、そろそろ帰ろっか」
「そうだね…」
少ししんみりしていた。花火も最後の一発が打ち上げられ、人々は少しずつ帰路についていた。屋台もだんだんと商品を売りつくしていき、また祭り二日目の明日へと準備をしている。
明日になればまたここも賑わうだろう。
だけど俺たちは切ない気持ちが少なからずあった。
今日あった出来事、良いことも悪いことも全て過去となって明日を迎える。それが何となく切なかった。
行きに通った道と同じ道をゆく。祭りが行われている通りとは裏腹に明かりというものが少なく、街は中心の大通りにある街灯、提灯、屋台で光っている電球、光の集合体があったのだが、こちらはと言うと、十数メートル毎に聳え立っている街灯くらいしかなかった。
街の大通りとは打って変わってこの帰り道には何もない。この街は案外、通りを抜けてしまえばすぐ街とは言えない場所に辿り着く。ただの住宅街へと変わる。今、道にいるのは、俺と秋桜、偶々帰路が重なった家族連れや中学坊主達だけだった。十分もすればたちまち俺と秋桜は二人ぼっちとなった。
今になって気が付いたが、今の俺は相当疲れて、ガタが来ているようだった。
今日一日色々な事があった。午前中は引っ越しをして重労働をした挙句、午後と夜は祭りでほぼずっと立ちっぱなし、歩きっぱなし。おまけに嘗ての思い人との再会(彼氏付き)そして不良の出来損ないにからまれる。そして俺は元々、一人でぼっちになっている事が日常の定義としてあったので、常に人といることが意外に疲れて来るのだと初めて知った。おかげで肉体的にも、精神的にも疲れがしていた。
そして今、俺はとてもお腹がすいていた。色々な事があって、夕飯を食べてなかったのだ。だから俺と秋桜は祭りが終わりそうになって、屋台の商品を売りつくそうと、少し値段が安くなる頃合いを見計らって、手広く色々なものを買って帰るという方法を取っていた。
今日は帰ったら飯を食って、風呂に入ったらすぐに寝よう。俺はそう思った。
さて、ジュンたちも今頃何してんだろ…?あの二人以外とお似合いな気がする(笑)
帰り道はとても静かだった。夏だが、ここは住宅地の集まりなので鳴く虫もいなく、そして何より俺と秋桜は言葉を交わしていなかった。
俺は疲れていたので話す気も起きなかったのかもしれない。しかし俺はこの沈黙を嫌だとは思わなかった。今の状態は沈黙と言うより、やっぱり切ない。ただ静かで少しサンチマンタリスムな感じがするだけだった。
「悠介くん…あの…今日はありがと」
「ん?」
秋桜は手に、先程買った食べ物が入ったビニール袋を手にぶら下げたまま、当初の恥ずかしがりやな正確に戻ったのか、と思わせんばかりの声で話した。何か言いたくてやっと言えたような感じでもあった。
「いや、俺が悪かっただけだから」そうとだけ俺は言った。
「ううん、それだけじゃないの。お祭りに誘ってくれたこと、不良の人達から助けてくれたこと、あと食べれなかったけど、かき氷を買おうとしてくれたこと」
荷物を持っていない方の手の指を一つ一つ折り曲げながらそう言っていく。少し最後のは余計かな?実際かき氷食べたよ、安い奴だけど。
「う、うーん。別にお礼を言われるほどの事では…」
「あと一つ…」
そう言った後、秋桜は黙り込んでしまった。何だろう、あと一つ…
俺は別に話そうか話さないかの葛藤に悩んでいる秋桜をただ見つめ続け、別に催促しないで彼女が話してくれるのを待っていた。
「あと一つ…大事な事」
秋桜はすぅーっと深呼吸して言葉を吐き出す。こちらにも緊張が伝わってきた。
「私、前の生活がものすごく嫌だった。家では離婚の話で両親の喧嘩が絶えなくて、お父さんは優しかったんだけど、あの人は母親とは呼べない程、私たちのこと冷遇してた。それでも離婚した所でかんなと私はとても寂しい思いをいしていたの」
「うん…」
他人の痛みはよく理解できないことが多いと言われるが、秋桜の今の気持ちは分かるような気がした。少し異なっているが、俺も似たような環境にいたから…。場合によっては秋桜の方がよっぽど苦しいと思うけど。
「それでね、また結婚するって聞いて、最初は嫌だったの。だってまた離婚しちゃうんじゃないかと思ってた。でも相手が、悠介くんちだと知ってね…、覚えてる?小さいとき、悠介くんとあって、そこで私は温かさを感じたの。悠介くんはお母さんが悪いと言ってた、でもね、私はあの時にとても温かい親子に見えたの。だから私は思ったの、悠介くんちとなら上手くやっていける気がするって。だから私が言いたいことは一つだけ」
秋桜さんは少しステップを踏んで並んでいた俺の少し前を出て振り返る。茶色のショートヘアをなびかせながら、
「家族になってくれてありがとう」
そう言った。俺の目を見てそう言った。
今までに見せなかった表情を見せる。真っ直な瞳はその真っ直さを失わず、穏やかで、さっきの気張った顔とは正反対の優しい微笑みを見せていた。
「あ、うん…こちらこそありがとう」
急に言われてびっくりして何を返そうか一瞬迷った気がしたが、それは錯覚だったようで、思った時にはもう返事を返していた。でもそれが緊張していて、少しおどおどしていたけれど、彼女はそれを察して笑ってくれた。彼女が大人に見えた。
見た目はまだまだ中学生の頃が抜けていないような少女だけど、彼女の心とそれを映し出す瞳は紛れもなく大人に見えた。
彼女の言葉は強く俺の胸を突き刺した。胸が痛くなるほどだった。
親の結婚が決まってから意識的には考えていなかったが、無意識でずっと俺の心には秋桜と同じ言葉が溜まっていたのだと思う。いくら感情の許容量が超えていたとしても。俺のこの気持ちはやっぱ横溢するほど胸にあって、数日しかまだ秋桜と、かんなと一緒にいないのに感謝の言葉が溢れる程ある。俺だって母さんからの愛情はもらっていたけど、けど今の方がよっぽど気持ちが温かくて、愛情を俺のぽっかりと空いた所に注いでくれる人がいるという実感があるだけでこんなにも胸がいっぱいになるんだなと思った。
「悠介くっ」
「なあ秋桜」秋桜が言いかけたのを俺は妨げた。
「何?」
もう秋桜と呼び捨てにするのも、たぶん呼ばれる方も慣れてくれた。
「名前、呼び捨てで呼んで欲しい。ほら、やっぱ、家族…だからさ」
恥ずかしかった。いや照れくさいと言った方がいいのかもしれない。
「あだ名でもいいけど…」
秋桜から返事がなかった。嫌なのかもしれない。それだったら嫌だな…
「嫌だったら別に…」
恐る恐る訊いてみる。
「悠!」
「ん?」
「今度から悠って呼ぶねっ!」
そう言った彼女の笑顔は曇り一つない晴れやかで単一で、美しかった。それだけだった。
どーも水無月旬です
やっぱ中学生というものは恐ろしいものでして、この文を書いたのは中学3年の時でした。
どうも文章が稚拙すぎて…
でもこの文章表現を変えることもまた高校生の自分にはできませんから、やっぱり何一つ成長していないんだと思いました。
難しい言葉ばかり覚えても、やはり使い方だと思います。
どんなに高級食材ばかり使っても、料理人の腕がだめではどうしようもありませんよね
最終目標である推理小説も、結局は良いトリックが思いついたとしても要は使いようです。
それを常々感じる今日この頃でした。




