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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第三章
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夏と花火と僕と君


「ヒュ~、ドーン」


 秋桜(あいか)がゴミ捨てから戻ってくると目の前で秋桜の後ろで花火が開いた。


 花火が開くのは一瞬だった。ほんの一瞬。


 けれど俺には時間が止まったような気がした。


 花火を背にした秋桜。その時の残像が頭に映る。強い衝撃が当てられた気分だった。


「あ、花火」


 そう秋桜は口遊んだ。俺の中でまた時間が動き出した。


 最初の一発につられて一斉に何発も花火が上がる。


 花火はこの通りの近くの河川で上げられる。今、俺と秋桜が位置している所では丁度、川の方角に大きな建物がなく、花火全体が見える場所に来ていた。それにそんな場所でも意外と人は少なかった。


 俺と秋桜は並んで花火を見ていた。祭りなのに花火の音があちらこちらでこだましているのに、自然と気分が落ち着いた。


 横にいる秋桜さんを見てみる。花火に見蕩れている様だった。キラキラ輝いている瞳は花火の色で赤だったり、青だったりと色が変わっていく。


 俺はふと頭が回ってこんなことを言ってみる。


「あれがリチウム、あれがナトリウム、あれは銅かな?」


「何を言っているの?」


 当然の質問だ。


「花火の色の元だよ。炎色反応」


「ああ、なるほど…」


 そう頷いたものの、秋桜は程無くしてこう言った。


「悠介くん、全くと言っていいほどロマンチシズムがわかっていないですね。そんな事女の子の前で言ってると嫌われちゃいますよ」


 その通りだと自分でも思った。さらに『嫌われちゃいますよ』の一言で結構傷ついた。


「それにあの赤色はリチウムではなく、ストロンチウムですよ」


「え!なんでわかんだよ」


「これくらいわかって当たり前ですよ?」


 ちょっと頭良く見せようとしたのに逆に馬鹿にされた!?くそっ、化学は得意科目だったのに!


 自ら傷口を広げたようだ。いや、傷をつけたのも広げたのも秋桜だ。これは相当な毒舌の持ち主に違いない。


 そう思考を広げている間にも花火は次々と打ち上げられる。


 いつも真面(まとも)にここの花火を見たことがなかったからかもしれない、この景色が新鮮で、不思議に感じられる。


 花火は何発打ち上げられるのだろうか、これまで見てきた花火より膨大な数を見ているのは確かだった。俺は芸術の良さは少したりともわからない。だけど今なら花火の良さは確実にわかるような気がする。


 打ち上げ花火は華麗で、壮大で、輝かしい。そして花火の光は儚い…。けれど花火の光彩陸離は確かに俺たちの眼に映る。そしてまるで俺と秋桜を包んでいる様だった。


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