夏と花火と僕と君
「ヒュ~、ドーン」
秋桜がゴミ捨てから戻ってくると目の前で秋桜の後ろで花火が開いた。
花火が開くのは一瞬だった。ほんの一瞬。
けれど俺には時間が止まったような気がした。
花火を背にした秋桜。その時の残像が頭に映る。強い衝撃が当てられた気分だった。
「あ、花火」
そう秋桜は口遊んだ。俺の中でまた時間が動き出した。
最初の一発につられて一斉に何発も花火が上がる。
花火はこの通りの近くの河川で上げられる。今、俺と秋桜が位置している所では丁度、川の方角に大きな建物がなく、花火全体が見える場所に来ていた。それにそんな場所でも意外と人は少なかった。
俺と秋桜は並んで花火を見ていた。祭りなのに花火の音があちらこちらでこだましているのに、自然と気分が落ち着いた。
横にいる秋桜さんを見てみる。花火に見蕩れている様だった。キラキラ輝いている瞳は花火の色で赤だったり、青だったりと色が変わっていく。
俺はふと頭が回ってこんなことを言ってみる。
「あれがリチウム、あれがナトリウム、あれは銅かな?」
「何を言っているの?」
当然の質問だ。
「花火の色の元だよ。炎色反応」
「ああ、なるほど…」
そう頷いたものの、秋桜は程無くしてこう言った。
「悠介くん、全くと言っていいほどロマンチシズムがわかっていないですね。そんな事女の子の前で言ってると嫌われちゃいますよ」
その通りだと自分でも思った。さらに『嫌われちゃいますよ』の一言で結構傷ついた。
「それにあの赤色はリチウムではなく、ストロンチウムですよ」
「え!なんでわかんだよ」
「これくらいわかって当たり前ですよ?」
ちょっと頭良く見せようとしたのに逆に馬鹿にされた!?くそっ、化学は得意科目だったのに!
自ら傷口を広げたようだ。いや、傷をつけたのも広げたのも秋桜だ。これは相当な毒舌の持ち主に違いない。
そう思考を広げている間にも花火は次々と打ち上げられる。
いつも真面にここの花火を見たことがなかったからかもしれない、この景色が新鮮で、不思議に感じられる。
花火は何発打ち上げられるのだろうか、これまで見てきた花火より膨大な数を見ているのは確かだった。俺は芸術の良さは少したりともわからない。だけど今なら花火の良さは確実にわかるような気がする。
打ち上げ花火は華麗で、壮大で、輝かしい。そして花火の光は儚い…。けれど花火の光彩陸離は確かに俺たちの眼に映る。そしてまるで俺と秋桜を包んでいる様だった。




