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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第一章
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ENSEMBLE

ある夏の黄昏時、親友の兄に呼びだされ学校の最辺境第三音楽準備室へいった横山悠介だが…

 七月二十一日


 もう何年も使われていない様な雰囲気があり、高等学校、という所に、こんな空間があるのか!?と疑問に思う程のボロ臭い秘密の部屋を目のあたりにしていた。


「うおっ、ここが俺達の部室か!」


 中ではどんよりとした重い空気とカビ臭い匂いが流れ込んで来たが、カーテンを開け、窓を開けると、今は7月の終り、つまり夏の候であったが、涼しい風と、もう日暮れを告げる蜩の声と西日が部屋いっぱいに差し込みその解放感から感嘆をこぼしたい気分となった。


「ゴホッ、ゴホッ」

 

 しかし掃除を一切行っていなかったのか、動かしたカーテンから部屋を霧のようにする程の埃が舞い上がった。


「何!?この霧。埃?それとも何かの超常現象なのか!」

と一緒に同行していた雄平(ゆうへい)先輩が言う。彼は1つ年上の先輩。しかし「超常現象?」なんて子供っぽい事を言うものだ。


「いや、この部屋汚すぎますよ!ゴホッ、どうします?」


「どうするっつったって、掃除するしかねーだろ」

 

 ごもっともです。曖昧な返事ですが…

 彼は雄平先輩。俺の幼馴染で、且つ親友である拓磨(たくま)の兄であるのだ。だから俺は雄平先輩の事は良く知っている。昔は、拓磨と雄平先輩と3人でよく遊んだものだ。雄平先輩は大柄で運動部と思われる程の中々の筋肉質な体でかなりのイケメンだ。もし運動部であったなら絶対的にこの人だ!とキャプテンを指名したくなる、そんな感じだった。

 

 俺は密かに男としてそんな雄平先輩に憧れを抱いていた。しかし、しかし…


「これからどーすっか?もう、なんか、めんどくせ」

「………」

 

 俺はまさかの一言を耳にした。


 その一言の主は一応俺の先輩である。ましては、その先輩は俺にとって、少しの尊敬に値する先輩だから、全部とまではいかないが、頼まれた事は従うのが後輩である俺の上下関係を考えた役目であると俺は考えている。

 

 だから…

 

 だから、彼が今日、新しく部活を作りたいから、どうしてもって、そう彼から言われて、その部員になる事を承諾して、記念すべき新部活第一回目の活動として今日此処まで足を運んだのだ。

 

 しかし先輩は…。このなんかあしらわれた俺の気持ちをどう表現しようか。考えている間に、先程から聞こえてくる先輩の独り言と俺の少し沈黙が混ざり、この部屋と同様どんより重くなる空気を俺は感じた。俺だけだと思うが。

 

 が、しかし先輩の先程言った「めんどくせ」発言に対して俺は無視をしたわけだが、何も言わずとも別に何ともない感じで平気な顔を先輩はしていた。

 

 まぁいっか。と俺は思って、それとはなしに埃の霧が晴れた部屋をもう一遍見渡す。

 

 さすがに今まで誰も使ってなかっただけのことはある。部屋が第一に狭い。八畳位の空間に机が3つ向い合わせになっており、それぞれに椅子がついている。それだけだ。


「よー、悠介、それに雄平」


突如後方から聞きなれた声がした。拓磨の声がした。ありがたい。先程の沈黙を掻き消すとてもテンションとトーンの高い声だった。


「お、ジュンも来たの?」


 俺は拓磨の方を振り向いてそういった。


「あれ?いってなかった?それか雄平から聞いてない?」


 そんなこと言われても記憶に存しなかった。俺はかぶりを振る。


 俺がジュンと呼んだ男、(つまりは拓磨のこと)は雄平先輩の弟、あだ名のジュンは、俺が小さい頃適当につけたらしい。ま、今考えれば必然的かな。

 

 ジュンは先輩と双子のように顔が似ているが、先輩のようにがっちり体育系ではなく、どちらかといえばさわやかさを煌めかせてる。そう、こいつは爽やかイケメン系なのだ。


「うんうん。まあ狭いけど部室はいいね。汚いのが玉に瑕というか、瑕だらけだけど…」

 

 やはりその感想が1番だろう。そう、学校だから?学校なのに?なのかはよくわからないが汚いのは事実だった。

 

 集まった三人はとりあえず一人ずつある椅子に座った。今更ながら思うのだが、明日はせきが止まらんな…

 

 いざ、ミーティング。とかなんとか雄平先輩が言った後、まさかのまさか

 

 キーンコーンカーンコーン…

 

 本校の下校の予鈴が鳴り響いた。ふいに腕時計を見てみると時刻は六時半。今の時期の本校完全下施錠時間15分前だ。

 

 この部屋は校舎の中でも最辺境。今は使われていない第三音楽室の真横。第三音楽準備室。早く帰り支度をはじめないと校舎に取り残されるのは目に見えている。


「先輩、ちょっと急がないと」


「ああ、わかっている」


 平然をよそおって先輩は応える。


 わかってんのかよ!と怒りたい気分にもなった。


「じゃあ…」


 と、雄平先輩が真面目に切り出した。最初っからそうしてくれと言いたい気分にもなったが、一刻も早くこれを終わらせたかった。

 

 時刻も時刻なのでいくら夏であたりは薄暗い。しかし雄平先輩は電気もつけずにかまわず話し出す。少しシリアスなのか?一瞬空気からそう読めてしまった。


「簡単なことだけ話す。改めて言うぞ、今日から俺たち三人は、新部活として『アンサンブル部』として活動していく。活動内容はこの三人でスリーピースのバンド活動だ。部長は俺でいいな?パートはわかっていると思うが、俺がドラム、ベースは拓磨、そしてギターは悠介にやってもらいたい」


「そーゆー事ですか…」


「なんだ?なんか不満か?」


「いえ、そういうことではないで。いや、逆にうれしいですけど…」


「けど?」

 とジュンが聞き返す。それに対して俺は答えを探した。


 俺は小学校の頃からギターを趣味としてやっていて、一度でいいからバンドを組んでみたかった。ギターの腕に自信もあったし。これは本音だ。


「活動内容を聞いてなかったから、急すぎて…、あと、二人とも初心者? なんでしょ?もしやり始めても活動が少し不安で」

 と、告げるとなぜか俺の不安と裏腹、二人は顔を見合わせ、待っていましたと言わんばかりに頷きをいれ、そして雄平先輩はこういった。


「実は、俺も拓磨も経験者なんだよ。前に悠介言ってろ?バンド組みたいって、だから俺はドラム、拓磨はベースを練習して、高校になったら悠介とバンドやろうと思ってたんだ。この学校には軽音部があるけど、悠介入らなかったようだし」


「うん、軽音部に仮入部はしたけど、なんか合わなくて…」


「じゃあ、決まりだな。もう帰るか、先生達に説教くらうのも嫌だしな」


 先輩が言い掛けに帰り支度を始めた。


 俺は、正直この年になって親友とその兄の心使いとその誘いに、感動で泪が出そうになった。


 そして俺たちは、この第三音楽準備室を後にし、校舎を足早に出ていった。


 その時、俺は、そういえば、なぜ『アンサンブル部』なんだろう、と思い至って、考えていた。



どうも水無月旬です。

みなさん私の小説を読んでいてふと不思議に思うことはありませんか?

なんで軽音楽部が多いんだ、と。

その通りです。私高校で軽音楽部に所属しているんですよ。

実際の部活名はギターアンサンブル部、少しパクらせていただきました。

故に私は軽音楽部ををあまり好いてはおらず、わざわざ弦楽部やアンサンブル部なんて部名にしているんです。

この物語では、更新が祝日土日の1日に1話、短い話になってしまいますが、日曜日読んだ後も、次の土曜日まで待っててもらえるとありがたい限りでございます。

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