夏祭り
夏祭りに来ました。なんと…
街には既に芋を洗うように人々がごった返していた。
駅南を通る大通りは祭りのメインストリートとなっていて、左右どちらの歩道にも、かき氷やたこ焼きなどの出店が並んでいて、一部、車両の通行止めになっているその通りは浴衣やら甚平などを着た若者で賑わっていた。
「わぁ、すごい!」
双子からの感銘。俺とジュンは平然としていた。
毎年風変りしない景色。毎年感じる甘い匂いと塩気のある匂いが混ざった不快感。例年通り行われる、という事を感じるだけだった。しかし、これもまた祭りのひとつなのだと思った。
けど全部が一緒とは限らなかったりする。
例えば一見変わった出店など。りんご飴だけでなくぶどう飴なんかもあったりする。かき氷では普段見ないピーチ味、マンゴー味なんかもあったり、ここ数年で驚いたのは2010年の時、サッカーワールドカップがブームになっていて、出店で『ブブゼラ』となる民族楽器が売っていたことがあったことだ。近年の夏祭りでは躍進、とまではいかないが、こういう面でも発展はしているのだという事が伺える。
しかし今年は外部(つまり外側)だけでなく内部(参加する俺達)の方が大きく風変りしている事の方が俺にとっては大きいものだと祭りに来て改めて思った。
まず一つは祭りへ女子と一緒に来ている事。男子と女子が2・2の割合でいるため、別にダブルカップルと思われても不思議じゃないと思う。実際、客観視するとそう見える。
そして、その女子2人がつい最近知り合ったばかりの義きょうだい。カップルでも異性愛の対象としている訳でもない、ただのきょうだい。
しかし問題なのはその二人が可愛すぎるという事に他ならない。
周りの男どもを見てみろ。全員こっち、彼女等に釘付けだった。
秋桜さんとかんなさんが身に余るような存在に思える。いや実際にそうなのだが…
いや、俺だってきょうだいだけど異性としてこの双子を視れたら青春をこのひと時で全て使い果たしてしまう程のものだが、彼女たちは絶対と言っていいほど、そうは思っていないだろう。
こんな所に来てまで自虐とは俺もだいぶ落魄れたものだ、と思った。結局はマイナス方面に様変わりした様じゃあ、折角の祭りでもはしゃぎたいとは当に思わなかった。
「どうしたの悠介くん」
周りの目を気にしないように秋桜さんが尋ねる。
「いや別に」
「でも、つまらなそうな顔しているんだもん」
「あ、ごめん。別に何でもないよ」
俺は顔に出ていたか、と少し反省する。でも決してつまらないわけじゃない。劣等感に浸っていただけだ。
こっちが誘ったのにそんな様では相手が気を悪くするのは当たり前だ。
「ごめん、じゃあ行こっか」
「何でもないならいいの」
俺たちは徒然と祭りの中を歩く。
はずだった。
「あれ、ジュンがいねぇ」
「かんなも!」
二人の失踪。いや、しかし俺と秋桜さんは二人で話していた訳だから、向こうからするとこちらがはぐれたのかもしれない。
「何やってんだよ、あいつら…」
「ケータイで連絡とってみたら?」
「ああ、そうだな。俺はジュンに電話するから、秋桜さんはかんなさんに電話してくれ」
「ごめん悠介くん。来る途中で気がついたんだけど、私ケータイを家に忘れてきちゃったみたいで」
「そうか、じゃあジュンと一緒にいるか確認とるよ」
「ありがとう」
ポケットからケータイを引っぱり出す。
するとなんとタイミングが良いことか、丁度良くケータイがメールを受信していた。それはもちろんジュンからである。
しかしそれは確かにジュンからのメールだったのだが、真の送り主はジュンではなかった。
『件名 かんなです!
今、拓磨さんと一緒にいます。はぐれてしまってお互い探すのが困難だと思うので、今日はそののまま行きましょう。
帰りは拓磨さんに送ってもらいます。
秋桜、是非楽しんできてね♪』
以上だった。
俺はどう反応したらよいかもわからず、ケータイの画面を見て、立ち尽くしていると、気に留めたのか、躊躇わず俺の視線の先を覗く。
「うぅ~、かんな~」
若干怒っているようだった。
そんな俺と二人きりになるのが嫌だったのか、ここら辺にそういない美男子、ジュンこと拓磨を双子の妹かんな(言っていなかったが、秋桜さんは姉)に取られてしまったことへの怒りだったのかもしれない。
しかしこれは俺の勘違いだろうか。
秋桜さんの怒り方は少し嬉しそうに見えた。そして少し紅のさした頬っぺたを膨らませたその顔は少し可愛いと思ってしまった。
「そうだ、何か食べない?すごく腹が減った」
「そうだね」
そしてやはり俺たちは徒然と祭りの明かりで照らされた道を歩いて行った。
後ろでニヤニヤと顔をほころばせている二人の美少女と美男子に気づきもしないで。
タイトルがこの話だけうまく思いつきませんでした水無月旬です。
来週も頑張ります