新メンバーの黒歴史?
夏祭りへ行くことになった悠介、秋桜、かんな、拓磨の4人が繰り広げる…
ただの四方山話です…
七月二十三日
いやぁ~、ジュンにしては珍しいファインプレーだったと思うよ、本当。
鮮やかで彩良き花を前にして俺は我が最も親しき友人、拓磨を称讃していた。
今日はジュンがいるので両手に花、というまでにはいかないが、それでも一輪で一輪分から余ってもおかしくないと思わせる様な少女たちが浴衣姿で俺の前に立っていた。我が家東雲家で。
あの後、かんなさんと秋桜さん何事もないかのように普通にOKをしてくれた。突発的に思いついたことなのだが、帰り際によく考えてみたら、結構大胆な事を言っていたのではないかと思っていた。しかし今日、俺の引っ越しで再度我が家を訪ねたけれど、やっぱりこの2人は何事もなかったように振る舞っていた。
男子が女子を夏祭りに誘うなんて日常茶飯事なのか、この2人には。という気さえ起きて、俺の中で色々な感情が渦巻いていた。でもきょうだいだと思えばそれは別におかしなことではないのかもしれない…いやいや。
それはそれでいてくれたら俺にとっては結構ありがたいことだったりするのだが、やはりこういう経験がなかった俺にとっては、かなりの緊張があった。
いま家には俺、東雲の双子、そしてジュンがいる。
ジュンは引っ越しの経緯(母さんの結婚の事)を話し、事情を理解してもらった上で家に来てもらった。
もちろん双子の事も話した。話しておかないと、この天然ボケ野郎の頭が勝手にどっかの空へと飛んでいって、何を言い出すかわかったものではなかった。
そして午後の四時程でジュンが東雲家に来た。それまで俺たちは俺と母さんの引っ越しを行っていた。
引っ越しが終わるやいなや、母さんと伸仁さんは昨日と同様、仕事へ出かけてしまった。
「どう悠介くん?」
おっ、と見蕩れ過ぎて我を忘れるところだった。既に忘れていたと思うけど。
うぶな表情を浮かべて秋桜さんが浴衣を見せる。かんなさんは見せびらかす様にしていた。
「あ、う、うん、いいね。だ、だよなジュン」
「うん。でも俺的にはかんなさんの浴衣の方が好みだな」
おいぃぃぃぃぃ! 何勝手に比べてんだよ。こういうのは両方褒めとけよ!絶対秋桜さん機嫌悪くなるって…
「ありがとう拓磨さんっ!」
「何よ、その言い方、何が悪いってのよ」
「いや、その、こいつさ、裏表がないって言うか、天然っていうか、そう、正直者だからさ、大目に見てやってよ秋桜さん」俺は全力でカバーした。
「ふん!」
おいおい、やっぱ怒っちゃったじゃねーかよ、折角俺がフォローしたのに…。やっと咲いた花をものの数秒で萎れさせるんじゃねーよ。
実際に言うと二人ともとても華華しい。着付けも巧みだった。
二人はいわゆる上流階級の女子高へと通っていた訳だったので、こういう衣服の着付けも学業の一環として教わっていたらしく、こういうのはお手の物だそうだ。
着付けも終わったようだしそろそろ出かける事にした。祭りは昼から行われているが、夜になるにつれて賑やかさが増す。そして一日目の最後には何千本もの花火が上がる。
俺たちは家からゆっくりと徒歩で祭りが行われているこの市の市街地へと向かった。もちろん自転車で行く方が早いことこの上ないし、この家からだと徒歩で行くのに早くても三十分はかかってしまうのだが、秋桜さんとかんなさんの恰好は浴衣に下駄。これじゃあ自転車走行は無理であろう事は承知していた。それにまだこんな時間があるので急ぐ必要はないだろう。
男子2人、女子2人で前後に並んで歩いていた。しかし、これまた不思議に思う事があった。
後ろの女子2人は美少女。隣で歩く友人は美男子。これじゃあ全くと言っていいほど、バランスが取れていないと思う。そう、この東雲悠介という男がここに居るだけで。
それでも俺は自分が持っている一番、おしゃれだと思われる服を着て来て誤魔化そうとはしたのだ。髪をいじる、という手もあったにはあったのだが、チャラくなるのでやめた。嗚呼、神はなんでこんなにも不平等に人間という生き物を作っているのだろうか…
「あ、そういえば、悠介さんと拓磨さんは学校で何か部活はやっているの?」
かんなさんがまだ怒っている秋桜さんを無視し、場の雰囲気作りとしてか、良く話しかけてくれた。そーいえば言っていなかったな。
前に秋桜さんの事は聞いていたが、自分の事は言ったことがなかったと思い出す。
「入っているよ。なあジュン」
「うん」
「何部?」
「アンサンブル部」ボソッ…
「うわっ、地味」
かんなさんは軽く引いたようにそう言う。
「違う、バンドやってんの、軽音部とほぼ一緒」
「へー、そおーなんだ。パートは何やっているの?」
「俺がギター。ジュンがベース。あともう一人、こいつの一個上の兄さんがドラムやってる。」
「へぇ~、悠介さんがギター…秋桜と一緒だね」
びくっ、と秋桜さんが反応した。それでも何事もないかのような素振りを俺たちに見せていた。
無理がある、でもなぜだ?
「一緒って?秋桜さんギター弾けるの?」
「………。」
「ねえ?秋桜さん?」
「んっ?ギター?何それ、そんなの私は弾けないよー」
明らかな棒読み。怪しさこの上ない。
俺はこの奇妙奇天烈な秋桜さんが少し、というよりもかなり面白いと思ってしまった。
ニヤニヤしているかんなさんを見て、この人はもう何かを知っているとは察したのだが、俺はお遊び気分で秋桜さんに鎌をかけてみたくなった。
「弾けるんだったら、今度聴かせて!」
「何を?」
「ギターを」
「だから、弾けないですって」
語尾が強くなっている。明らかに動揺している。この揺さぶり具合だったらあと少し…
「弾けないんだったら今度ギター貸してあげるし、教えてあげるよ」
「私、ギターなんか興味ないです」
「秋桜さん、転校してきたら芸術科目何にするの?」
ジュンが急に何か意味の解らない事を言い出した。それに何の関係性があるんだ?
「音楽です」
「音楽選択者は二学期ギターをやるんだよ。悠介にあらかじめ教えてもらっていた方が得だと思うんだけど」
!!っ、ジュンナイスフォロー。
俺は秋桜さんにばれないようにジュンにグーサインを送る。ジュンは何かよく解らないといったように首をかしげていた。流石天然。今のフォローも計画したものではないと言いたいのか…
「じゃあ美術にします」
「秋桜、絵下手でしょ」
かんなさんナイスフォロー!!
「じゃあ芸術の授業は出ません」
「いま、どこの学校も単位制だから授業でないと…」最後は俺がとどめを刺した。
「う~~~~!!」
秋桜さんが唸り項垂れた。ついにやったか。
「なんでかんな言っちゃうの?」
「別にぃ~」
「それで秋桜さんはギター弾けるの?」
「………」
無反応。言いたくないのか?
「悠介さん…」かんなが手招きして俺に呼びかける。
すぐに俺はこそこそ話だと察し、耳をかんなさんの方に預ける。ジュンもそうした。
「実は、ゴニョ、ゴニョ…」
「なんと!?」
「そーなんだ。秋桜さんはギターを持つと性格が変わっちゃうんだ。それで中学の時…」ジュンがお構いなしに言いやがった。
「あ~あ~あ~!」
秋桜さんが騒ぎ立てる。もはや精神崩壊?
道端で散歩していた犬がびっくりしてどこかへ逃げていくのを俺は見た。その飼い主もなんだなんだと思ってこっちを見、すぐさま犬を追いかけて言った。
まったくジュンの奴、本当デリカシーないなぁ。俺は一応ジュンにチョップをかましておく。
「ねえ、この話やめよ!はいっ終わり!あっ、そういえば、かんなってサックス吹けるんだよ、あとピアノも」
無理矢理話変えたな。まあいいや、これ以上いじると彼女がかわいそうだし、後が怖い。
「へぇ~。すごいね、吹奏楽とかやってたの?」
「はい!前の学校で」
「うちの学校でもやるの?」
「いや、やりませんよ」
「なんで?」
「それより私、悠介さんちの部活入っていいですか?秋桜も一緒に」
「え!?ちょっと勝手に」困惑する秋桜さん。
「いいじゃん秋桜。それより悠介さん、だめですか?」
俺を見つめて来るかんなさん。美少女の頼みごとを断るのはどうも苦い。というか、断る断らない以前の問題があった。
「いや、俺は別にいいと思うけど、雄平先輩が良いって言ってくれるかどうか…」
「雄平、俺、供に同意を得ました」ジュンはきっぱりという。
「はえーよ!!」
本当に確認を取ったらしく、ガラケーをパタンと折り畳むジュンの姿がそこにはあった。
「やったー」
「ちょっ、人の話を聞いてよ」
「やったね秋桜!またギターが弾けるよ!」
かんなさんは渾身の笑み、全身全霊をかけて嫌味ったらしく言っていた。これがまた俺にとってはちょっとツボだったのだが、俺はこの2人が部活に入ってくれることになって正直嬉しかったと思う。
けれど、俺はそんな事を考えているだけで、かんなさんがなぜ吹奏楽を止めてしまった話をはぐらかしていたことに気づいていなかった。
どーも水無月旬です。
前回お伝えしませんでしたが、一応前の話が2章の終わりになっております。
今回から3章目。
なぜか、別に計算したわけではないのですが、1章7話になっている傾向があるようです。
大体1章が原稿用紙50枚の計算で書いていたので、丁度いいですかね?
今回は細かく話が区切れていくので、何話になるかわかりませんが定期的に更新していくつもりです。
水無月旬でした。