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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第二章
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三階目の夕日

引っ越しの作業を順調に進めております

 後は順調に作業が進んだ。順調と言っても、作業のほとんどは業者がやってくれた。俺が何かした、と言っても何をしたわけでもなかった。秋桜(あいか)さんとかんなさんの荷物を運ぶのだって、男子として俺はいささか彼女らの部屋への闖入は躊躇った。下手したら向こうから不許可とかが下りる可能性もあるしな。そんなことで俺はやることがなく、仕方がなくこの家の中をぐるぐると回ったり、庭へ出たりして暇を持て余していた。そうしたって不思議な事に誰にも咎められる訳でもなかった。


 そして俺は引っ越しが終わりそうになって最後に自室へと向かった。


 まず先に2つ得た部屋のうちの1つ、3階の方へ行く。もう1つは2階にある北側の部屋をとっていた。


 俺と秋桜さんとかんなさんは3階という存在がマンション経験者にとって価値の高いものになっていたのか、皆1番最初に3回の部屋を取った。(少なくとも俺はそうだった)そして3階には部屋が3つとトイレしかないので後は2階にある部屋を取っていた。


 結局はあんな大それたバトル(じゃんけん)をやっておきながら、得たものの価値の差なんてのはそれほどなかった。


 さらに皆、俺達3人はそれぞれの部屋の用途も同じようで、母さんに2つの部屋の使い方をそれぞれ聞かれたところ、応えた際、かんなさんにそれを聞かれた様で、


「私もそうしよっ!」


「ん?なんだって悠介(ゆうすけ)くん?」


 仕舞には秋桜さんも同意見となり、同じ様になった。つくづくあのじゃんけんの存在意義を疑いたくなる。


 その部屋の用途とは、3階の部屋を寝室兼プライベートルームとして使い、2階の部屋を勉強部屋として位置づけたのだ。


 我ながら頭が冴え渡ったいたと思う。勉強部屋とプライベートを分けてしまえば、勉強の際、ふと机の上に置いてある漫画やゲームなどの物との葛藤の末、一悶着の末に気が付いたらベッドの上で漫画&ゲームを手にする。なんて事はなくなるだろうさ。


 3階の自分の部屋へとお邪魔する。


 来て、扉を開けた時の光景が異様に思えた。


 身を一瞬退()くほど部屋が夕日で真っ赤になっていた。


 理由はすぐわかった。俺のこの部屋にしかない天井窓だ。


 さっきはあのじゃんけんの存在意義がなんだ、とか言っておきながら前言撤回したくなった。それほど、この色には魅せられた。


「本当にこの部屋、いい部屋ね」


 急に部屋の扉の方から声が聞こえたので、俺は振り向いた。


「荷物運び終わったから悠介くん呼んできてって頼まれたの」


 部屋の入り口に立っていたのは秋桜さんだった。夕日の赤が秋桜さんの茶色い髪まで染めていて輝いていた。


「あ、ありがと。かんなさんは?」


 そう聞いたところ、秋桜さんは何が悪かったか少しムッとした感じで、


「かんなはまだ自分の部屋に居るけど、かんなが来た方が悠介くん的にはよかったの?」


 おおっ!何か直球ストレートの皮肉を言われた。また急に態度変わったなぁ…


「あ、いや、そういう訳じゃないよ。…あ、今すぐ行くよ。さあ行こう」


 自分で思うが何か変な言い方。口がいまいち回らなかった。


 秋桜さんに言われた通りに1階へ向かう。


「あ、悠介来た?じゃあ私達もう出掛けるからね」


「行ってらっしゃい」


 上から降りてきたかんなさんと秋桜さんが声をかける。


「は?え?母さんどこ行くの?」


「ん?私達今日、仕事夜に入っているの。言ってなかった?悠介、秋桜ちゃんとかんなちゃんにもし何かあったら許さないからね、それじゃあよろしく」


 もう何度目だっ!……また俺だけ仲間外れだよな。許したくないのは、間違いなく俺の方だよな。怒っていいんだよな。


「あ、あと夕飯は自分たちで用意してね。お金置いておくから」


 リビングにかかっている高級そうな時計を見る。時刻は6時半になろうとしていた。そうか、もうこんな時間か。怒りでお腹が満たされていたため、俺の腹時計は全く役立たずとなっていた。


「はい!」


 二人が元気よく返事をする。二人というのはもちろんかんなさんと秋桜さんだった。


「あ、悠介。それと私、ここには戻ってこないから、外にある自転車借りて、家まで自分で帰ってね」


 ………


 言葉にならない。表情にも浮かばない。


「ああ、いってらっしゃい…」


 ただこれだけの返事をする。


「悠介君、よろしくね」


 伸仁(しんじ)さんはそういって、母さんと供に出かけた。


「どうしたの悠介くん?」


 秋桜さんが尋ねてきた。


「い、いや、別に…」


「そう?何か、悲しい顔しているけど」


「まさか悠介くん、奈緒子さんが行っちゃって寂しいとか?まさかマザコン!?」


 かんなさんは茶々を入れた。多少イラ着いた。いや、結構。


「はぁ?お前、何言ってんだよ!」


「お前じゃなくてかんなです!かんなっていうちゃんとした名前があるんですっ!」


「はいはい、ごめんなさい」


 俺達は大声で言い合いをしていたが、それはそれで、結構楽しかった。秋桜さんも横でくすくすと笑っていて、少しだけ俺たちの仲が良くなった気がした。


 本当の兄妹?姉弟?になったような気がして俺は少し嬉しかった。


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