じゃんけん。
部屋決めでじゃんけんをすることになった悠介たちだが、驚くべき勝負の行方に困惑する悠介だが…
こんなじゃんけんごときで闘争心出さなくても……若干引き気味。しかしじゃんけんを断ることは出来なそうだ。まあこれ以外の決定方法もないか、と承諾し、手を前へ差し出す。
俺は今、じゃんけんと言う名のただの運試しのゲームごときものから2つの葛藤に悩みこんでいた。片や心意、じゃんけんで何とか勝って、自分の欲する部屋を手に入れるか。そしてもう一方、この二人の闘争心、戦意を向ける瞳に負けて、勝ってしまったらどうしようという心構えで勝負に挑むか……。
結局両意見相相討ちの引き分け。こんな確率で求められる同様に確からしいじゃんけんなんて、真剣にやる方が無駄だ。
「じゃあ行くよ。文句、後出し一切無しですよ!」
さっきまで一言もしゃべっていなかった秋桜さんが切り出す。
「「「最初はグー、じゃんけんポン!」」」
三人の声が重なる。気合が入っていたのか、結構大きな声をあげていたんじゃないだろうか。しかし気合よりも何より大事なのは結果の方だ。
肝心の結果。それは、俺はグーで、秋桜さんとかんなさんは二人ともチョキ。
………という事は、これは…
「勝った…」
「じゃあ希望言って」
伸仁さんは設計図を見せた。俺は実は一番最初から狙っていた部屋があった。
10個の部屋の中で一番大きい部屋。三階の南側にあり、ベランダ、出窓、おまけに天井に窓がついている部屋。図を見ただけで分かる何とも開放感溢れる部屋。
俺は少し悩む。またもやコンフリクト。先程の二人の戦士は闘争心を無くし、心配な趣でこちらを見る。譲るべきなのか、しかし二人が別にこの部屋を狙っている訳じゃないのかもしれない。
益荒男、東雲悠介。ここで決断するんだ。ここで取らなきゃ後々後悔することになる!
「じゃあここで」
指差したのは御希望通りの御部屋。
「あ、その部屋…」
「悠介さん、その部屋私狙ってましたよ。悠介さん女性に対して紳士じゃないんですね」
秋桜さんは悄然とした感じで、かんなさんは怒った様に言った。
おいおい、じゃんけんで決めたんだぞ。
秋桜さんはまださっき言った約束を守っている様だった。かんなさんは文句の言いたい放題だ。
「まあ、いいや、次やろう次。秋桜準備はいい?次勝たないと思いやりのない悠介さんにいい部屋独り占めされちゃうよ」
頷く秋桜さん。
言いたい放題だな…
言わずにはいられない。結構感に触るよ。しかしもう既にこの2人は2人だけの世界に入っていた。真剣ににらみ合う両者。俺は恐ろしさから何も言い出すことは出来なかった。あ~恐ぇ~。
「最初はグー、じゃんけんぽん」
「やった~♪」
「また負けた…」
「私ここっ!」
「あっ、その部屋。私の第二候補…」
「負けたんだからしょうがないよ秋桜」
負けたのは秋桜さんだった。何となくそんな気はしていた。
秋桜さんはまるでマンガみたいに、顔に黒い線が描きこまれた様に落ち込んでいた。周りの空気は必然的に負のオーラが放たれていて青く見えた。
「まあ、次があるじゃん。ね?」
俺は一応、あまりに秋桜さんが落ち込んでいるので少し励ましの言葉をかけてやった。次の秋桜さんの対応、言動を見る限り、そう表現せざるを得ない。少し励まそうとしてやろうかなぁ。なんて思った俺は今更ながら馬鹿で間抜け野郎だったと思うよ。
「ふんっ!一番に勝ち抜けして、御希望が御望み通りに叶った人なんかには私の気持ちなんて分かる訳ないでしょ!」
ふっ切れやがった!?一瞬かんなさんではないかと再確認するほどだった。声も似てるからな。けれど特徴のある髪は茶髪。その事が秋桜さんであることを示していた。そして彼女は少し涙目のようにも見えた。
今までと性格違いすぎるでしょ。こういう場合は俺が悪いのか…?いや、ないない。俺はなーんも悪くない。
そしてじゃんけんはもう一周が始まろうとしていた。伸仁さんと母さんたちは、この三人も私物以外の物を運んでいた。早く終わらせて手伝わないと。
「それじゃ、もう一周目行くよ!」
「やる気出したね秋桜。望むところよ」
今度は葛藤なく、屈託なしの再チャレンジ。秋桜さんが元気を出したようで何より。
「「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」」
一回目より明らかに声が大きい。
奮起極まった白熱なるじゃんけん。
その結果は…
予想外の事態。予期せぬ出来事が起こった。
日本人が深く馴染んでいる言葉、というのはこの世に数多存在している。
『二度あることは三度ある』
そして、
『仏の顔も三度』
俺とかんなさんがパー、秋桜さんがグー。
秋桜さんの1人負けだった。
やはり先程まではただ悔しがるだけだった秋桜さんも三度目の負けは堪えられない様だった。二回とも最後。つまり余りものだ。『余り物に福あり』なんて慣用句があるが、この場合では何の意義もなければ、ただただ虚しさを増加させるだけであった。今は悔しいというより残念。もっと言えば、哀愁。声がかけられない。
俺はどうしようもないが、どうかしないと。という感じでおたおたしていたが、かんなさんはそんなの構いませーん。みたいな感じで、俺とのじゃんけんを急かしていた。
まだよかったかもしれない。次のかんなさんとの勝負で負けることが出来た。勝負においてそんな言い草はおかしいと思うが、俺は負けたかった。また一番になんてなったらと思うと身の置き所が無い。一旦の安堵。かんなさんはもう既に自分の部屋を選択していた。次は俺に選択権があった。しかしこの状況において、そう易々と選べる程、俺は心強い奴じゃなかった。
秋桜さんの様子を覗く。
もう秋桜さんのテンションの下がり具合は半端なものじゃなかった。
見るにみられない状態。
はぁー、と一回溜息を洩らす。
「仕方無い。……秋桜さん、次いいよ」
「えっ…」顔を上げた。その時の顔は言うまでもなく驚いた顔だ。
「次いいですよ!」
「本当…?」
「ああ、」
「嘘…?」
「いい加減信じてください!」今回一応初のツッコミ。
ツッコまれた当本人は、俺が予想していたより遙かに喜んでいた。
歓喜のあまりか、衝動的に俺の手を握り、俺の方を見つめる。
「ありがとう悠介くんっ!」
さっきの様子からは有り得なかった感謝の言葉を秋桜さんからもらった。
悔しがって俺を罵倒していた時との反応とずいぶん違うな…
その時の顔は落ち込んで奈落の底に落ちていたような時とも一転していた。
目を輝かせ、大きく見開いていた。
俺はこんな状況に平常心でいられるはずがなかった、だって、だって…
可愛い…。
思わず心臓がどきどき脈を打つ。日常生活で普段からあまり女子と関わりを持つような事がない俺である。極度の緊張、この上ない。実際、女子に手を握られることすら俺にとっては非常な状態なのだ。
ただ見つめ返すことしかできない。それにあまりの緊張で今すぐにでも目を反らしてしまいそうになる。あれこれと気が動転する。手汗はかいていないだろうか。
「悠介さんに優しくしてもらって良かったね秋桜」
ここで救われたのか、邪魔されたのか?かんなさんの闖入。
秋桜さんはその声を聞き、後に我に返ったようで、咄嗟に握っていた手を離し、俺は夕日で確かなものではなかったが、彼女が顔を少し赤くしていたように見えた。俺もたぶんそうだったと思う。夕日の赤さは照れ隠しにちょうど良かった。
いや、そうでもなかったようだ。
向こう側、他の作業を終えたのか、もうこの場に母さんと伸仁さんが居た。
母さんは俺の照れている様子を見逃さないように焦らす。
「こんな美女お二人に囲まれて嬉しそうね。まさに両手に花ね」
伸仁さんは笑いを浮かべる。
確かに両手に花。秋桜とかんな。コスモスとカンナ。そこの母さんの頭の回りには称讃する。
「だね。両手に花。………って、ばっ、よせよ、何言わせてんだよ!」
「勝手に言ったのは悠介じゃない」
顔から火が出る。いや、大道芸じゃない。俺はすごく恥ずかしいんだ。
秋桜さんは笑みを浮かべていた。かんなさんも、先程同様伸仁さんも。
自然と俺もそうなっていくのを感じる。
そして、それは今日ここに来てよかったと思わせてくれるような気がした瞬間だった。
どーも水無月旬です。
つい最近まで、本格ミステリの短編を仕上げようかと思いまして、こっちの執筆?が危ぶまれるところでした。
来週はテストもあるので今週に何とか頑張っていきたいです。
そしてその短編を書いていた時に、こっちの方へ戻ってくると、自分の文がどれだけ適当かが浮き彫りになってきます。あっちの方はまだプロットをしっかりと練り上げ、文章表現も一応推敲に推敲を重ねているので何とか読めるのですが、こちらは内容を理解してもらうのも危ういのではないでしょうか?
もっとしっかり頑張ります。世の中はQOL(quality of life)です。
そんな水無月旬でした。