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東雲草の花言葉  作者: 水無月旬
第二章
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争いの火種

いきなりとんでもない豪邸へ連れていかれた悠介はこれが自分の家だと知り驚きを隠せない。

そして明かされる今日来た理由。それは後の争いを呼ぶ火種となっていた(大げさ)

 気が滅入りそうな感覚を覚えた。これが家?我が家?


「豪邸だ…」


 俺は驚きを隠せない。前の家がマンション1ルームだった俺には非現実としか考えられなかった。驚きを隠そうにも隠せないのは当然だ。


 まず見てすぐに思うのは庭が広かった。こんな住宅街でよくこんなにも、と思えるほどの広さだった。建てたばかりなのか庭の花壇が整っていて良い。向日葵と紫陽花が咲いていた。他にも何種類か花は咲いていたが、どれも見たことがあるだけで名前はそれくらいしかわからなかった。


 そして家自体はと言うと、見た目はそれといった特徴は見当たらなかったが、とにかく大きい。横四方の壁は全部白色で塗装されており、屋根は黒茶。そして何枚もの太陽光発電の装置がついている。高さは三階建てらしく周囲のご近所の家からポツンとはみ出しているように見える。


 家の敷地内の周りにはコンクリート打ちっぱなしのような壁が高く並んでいて、やはりこの家は高く聳え立っているようだった。


 母さんは手際良く門を開けて再度車に乗り込んで車を敷地内に入れた。門を開ける手際の良さから、何となく、もう何回もここへ来たことがあるのではないかという予想が頭に浮かんだ。


 車を中に入れ門を閉め車庫まで車を持っていく。そしてようやく車のエンジンを切り、車庫から出ると、丁度良く何故かもう一回門が開いた。母さんが門を開けたのではなく、門は外側から開けられていた。


 黒くてやたら光沢のある車が車庫に入ってきた。その車のフェイス部分の真ん中のところには4つの円が横並びに重なっているメーカーを見つけた。Audiだった。何とも高級感の溢れる車なのだろう。


 運転手が右側になっているその外車にはサングラスをかけた渋い男性が乗っていた。彼は東雲伸仁(しののめしんじ)だ。昨日から俺の父親に値する義父となった。


「いやぁ、偶然だねえ」


 彼はそういうと、後部座席の方から、車のドアが開く音がした。見てみると2人の美少女が車から出てきた。何度見ても2人とも整った顔立ちをしていると思う。彼女等は伸仁さんの娘たち、秋桜(あいか)さんとかんなさん。伸仁さん同様、昨日から俺たち横山家と家族になった。2人とも昨日の堅苦しいおめかしとは打って変わって、ラフな格好をしている。それもそれでとてもよかった。


「こんにちは」


 元気よくかんなさんはそう言った。それに比べ秋桜さんは小さい声で


「こんにちは」といった。


 母さんと俺は揃えて応えた。母さんはしなかったが、俺は軽い会釈をした。


 俺たちは家族5人そろって我が家を拝見した。


 家はもの凄く新品、新築感を漂わせていた。それこそ近くに来てみないと分からなかったのだが、家のペンキは塗ったばかりのように見え、埃一つさえついていないような気がした。窓も汚れが全くといってよいほど皆無なのだ。


「綺麗な家だね」


 率直な感想。言葉で事細かくこの様子を言い表わせるボキャブラリーの幅を生憎俺は広く持ち合わせてはいなかった。


 しかし何故だろう。俺はてっきりこんな早く引っ越しをするものだから、元から建っている家だと思っていたが、これじゃあまるで新築のようだ。それとも腕の良い掃除業者を頼んだのか?いやそれはない。


「これ新築だよね…」


「あれ言っていなかったっけ?」


 と、母さんの返答。最初っから期待していなかったが、この人の記憶力はニワトリ以下なのだろうか?知っていたらわざわざそんな事は聞いたりはしない。


「じゃあ最近たった分譲?」


「それも違うよ」


 答えてくれたのは伸仁さんだった。この人の方が会話が成立しそうだから多少の期待。


「この家は俺が設計したんだ。バンドが成功する前は大学で設計図書を学んでいたからこういうのは得意なんだよ」


「へぇ~頭が下がりますね」


 自分の数少ないボキャブラリーの中から厳選の思考の元、少しだけ達者さを見せ、自嘲したい気分になった。


「って、嘘言わないで下さい。こんな早く家が出来るわけないじゃないですか」


「嘘を言ったつもりはないのだが……悠介(ゆうすけ)君、奈緒子(なおこ)から何も聞いていないのか?」


 思いっ切り頭を横に振り、否定の意を示す。冗談じゃない。さっきから言っているように、知っていたらそんな事は聞かないよ……


 俺が少しむすっと仏頂面していたのを伸仁さんは感じたのか、母、奈緒子の方を見た後、やれやれってな感じで視線を俺に戻して説明をしてくれた。


「この家はさっき話した通り俺が設計したものだ。半年くらい前に」


 半年前!?と思わず口に出す。半年前だと、今から逆算して1月くらいだ。


「そう。ここは、もう結構前から俺の家だと決めていた。この土地を買ったのは2年くらい前だ。家族で住もうとな…」


 なぜか伸仁さんの双子が俯いた。その理由を俺はすぐに悟ることが出来た。


 そっか、前の母親か…


 離婚したのは1年前。土地を買って2年という少し長い期間が経ってしまったのは、一回建てるのを止めようとしたのだろう。


 話を少し嫌な方向へ向かわせてしまった事に少し後悔した。俺があんな疑問なんて持たなければ、そう思った。そして俺はもうこれ以上聞かない事にした。納得したような素振りを見せる。それが嘘だと周りに見えていたとしても、誰もそれを咎める人がいないという事が分かっていたから。


 しかし、次の言葉を探すのが難しかった。どうも気の利いた言葉が言えなかった。この際もう何も言わない方がよい気がしたので俺はずっと口を横に引き結び伸仁さんの様子をうかがっていた。


「まあ、いいんだ、それで、奈緒子と結婚することを決めて再建することにした。それでいいんだ。奈緒子と出会って本当よかった。奈緒子を初めて見た時は天使かと思ったよ。マネージャーとの結婚が許されるなんて、俺は良い事務所に入ったものだ」




 俺は思った……ここで出会い話を何故持ってきたんだ!それに母さんは明らかに顔を赤くするな。お願いだからやめてください。そんで、伸仁さんは奥さんいながら、勝手に人の母親に惚れているなんてありえない。マネージャーとの結婚が許されるなんてなんてゆるゆるな事務所なんだ。ちなみに再建の意味、元々家が建っていなかったのなら使い方間違っていないか?


「そーですか…」


 まだ本調子は出ない。本調子というのは、俺のツッコミ癖をまだ表に出していないという事だ。意外に伸仁さんは変な人だ。ツッコミが喉元まで来ていた。俺の自尊心はなかなかのものだったと自尊する。


 近くにいたかんなさんはもの言いたげな俺の顔をみとったかのように少し笑いを含めの顔をしてこっちを見て来る。


 君もなんか言ってくれよ。


 

 庭を渡り、玄関まで差し当たる。玄関もまた立派なものだった。


 入ってみてもまた感銘を受けた。これぞ豪邸。流石、人気No1バンドのボーカル。経済力伊達じゃねぇ。


 建物は計80坪位あるそうだ。別に俺は学校で教わった訳じゃないので、『坪』という単位を知らない。へぇ~。とだけ曖昧な返事を吐露し、今度『坪』をネットで調べてみようかと考える。


 それにしても5人家族にしては大きすぎるんじゃないか?家で隠れん坊が出来そうだ。


 家の中へと入る。流石新築。綺麗だった。そして新築ならではの独特なるに匂いがする。


 家の中はそれこそあの立派な外見からは想像が出来ないが、意外と日本、和の風韻のある家だ。うん悪くない。


 そして家に皆入って戸を閉める。一応家じゅうの雨戸が閉まっているので中は暗くなった。


 家には一筋の赤黄色の金木犀の様な夕日の光が差し込めている。見上げると玄関のすぐ前にある階段を上って一番上。天井にある窓、そこからひかりは入ってきていた。


 靴を脱いで家に上がる。すると、恐らく今いる位置の前方と後方から高い音が聞こえた。後方は玄関のチャイムを押した音。前方はそれに反応して鳴る電話の音。


「あ、もう来ちゃったかな?」


 伸仁さんが反応した。近場にある電気スイッチを押し、上がって右折する。どうやら右側には居間があるようだ。


 伸仁さんは電話の受話器を取ったようで、話をつけたらしく、


「玄関開けて」


 との命令。一番近くにいた秋桜さんが玄関の大きな扉を意外と重そうに開ける。


 外にいたのは作業服を着ていた大人の人達だった。


「どうも螽斯マークの引越社です。荷物届けに来ました」


「あ、はいはいどうも」


 と伸仁さんはさっきつけていたサングラスをかけ直し、何故かマスクをしてこっちへ戻ってきた。


 色々ツッコミたいよ、本当。


 たぶんこの従業員の人達にばれていると思うよ。自分が東雲伸仁だって事。表札がまず稀有な苗字、東雲だ書いてあるし、大体送り先にはあなたの名前が書いてあります。きっと。それに、こういう事務所はや会社は安易に個人情報流失したりしませんし…と優しく、またもや心の中でツッコミ。


 作業服を着こんでいる人たちは気づいているのか、やや?半笑い。それとも伸仁さんに会えて嬉しいのか、そんな感じで荷物をどこに運ぶのか伸仁さんに訊いている。


「あれ?うちの荷物?」


「うちは明日。さっき言ったでしょ。で、あれは伸仁さんちの」


 知ってたから聞いたんだよ!


「俺たちは今日からもうここに住むんだ。おおむねの荷物は運んであるけど、今日のは秋桜とかんなの荷物。悠介君を呼んだのはその手伝いと、部屋を決める為」


 話を聞いて俺は母さんを睨む。


 母さんは睨んだ俺を一瞬だけ見て、そっぽ向いた。


 てめぇ、んな事言ってなかったぞ。 まぁ来てしまったことにはしょうがないように思えた。この心広い悠介さんが何でも手伝ってあげますよ…もう。


 すると、ズボンのポケットでケータイがバイブする。確認すると、ジュンからだった。


『悠介今日部活来なかったね。なんで?』


 ――――!!


 ふぅ~、危ない危ない。心広い、もう宇宙の広さよりも広い俺の心が一瞬だけ保たれずして、俺の愛用スマートフォンを床に投げつけるところだったぜ。………。


 気を取り直して、こめかみに皺が寄った顔を営業スマイルに戻す。メールは完全無視することにした。


「ところで伸仁さん。部屋を決めるって言ってましたけど、この家はどんな間取り何ですか?」


「どんな間取りって?ああ、これを見てみなよ」


 ここの地図?設計図?高を伸仁さんから渡された。


 …………


 もう多少の事じゃ驚かないようになってきた。これが無反応というべきであろうか、自分の無意識さに逆にびっくりしている。


 まあ、外見がこんなにすごいんだし、中身の創造だってできなくはないさ。実際もう俺はこの家に入っている。この家の凄さなんてわかってはいた。わかってはいたが、反応が出来ない。


 家の設計図。大雑把に言えば、リビング、キッチン、風呂場など、生活スペース、それに部屋が計10個ほど。そしえ一番俺を驚かせた特徴は完全、完璧に備わった防音設備のスタジオルームがあるという事だ。しかも楽器店にあるようなLサイズの部屋が、スタジオが!!


「スタジオがある……」


「当たり前でしょ。伸仁さんを誰だと思っているのよ」


 母さんは言う。当たり前なのか!?ていうか、今の会話で引っ越し業者に伸仁isミュージシャンが完全に露呈された気がするのだが…


「おい、奈緒子」咎める伸仁さん


 やっぱり…


「それより部屋を決めなよ、3人で。俺と奈緒子は家にあんまり居ないしさ、1人2つくらい取なよ」


 2つ!?


「だって部屋10個あるから、余ったのは後で使い道考えればいいよ」


 流石はセレブ、そしてこの男気。


 そして何故か感じる視線。


 引っ越し業者を待たせているから、引っ越し業者からの視線、という訳ではなかった。美少女双子から感じる視線。かんなさん、秋桜さんより視線が送られていた。そしてその

()は青春を謳歌しているロマンティックな瞳ではなく、明らかに闘争心剝き出しの美しきライオン(♂)のような猛獣と化しており、反応が少し鋭くなっている俺の心では今から一体何が始まるのか、という恐怖感で混乱しており、俺は怯夫となろうとしていた。


「悠介さんっ!引っ越しの人待たせると悪いからこの場でじゃんけんで部屋を決めよ!」


 元気なかんなさんが言う。




 始まるのはじゃんけんだった。




どーも水無月旬です。

今回も?引っ越しの話。100坪ってやばくない?

本当は80坪にしようと思っていたのですが、もうこの際だからめっさ豪邸作っちゃおうかと思いましてこんな感じになりました。

家のモデルは自分の家なんですが、こんなに大きくはありません。

ただモデルとして引用した部分は、壁の色が白色であることと、屋根が黒茶。おまけに来週から太陽光パネル設置工事を始めるので、太陽光を取り入れました。

家の中にスタジオがあるのは作者自身の夢であります。スタジオいいな(遠い目)

ではまた次回。水無月旬でした。


感想のアドバイスを受けて100坪→80坪にしました。

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